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第一章 7 異世界である証明(後半) ドラゴンと遭遇してみた

 ○


「さて! 魔法が実在すると理解していただいたところで、次はいよいよ旅行の舞台である、ここガウロンについての解説をしていきますねっ!

 さっきも触れたましたが、ガウロンは日本人のイメージする異世界に最も近いところなんです」

 魔裏さんはそう言いながら、焼け野原と化した草原を指した。

「ちょっと待った! そこのところ、もう一度確認させてくれ。ここって本当に異世界なの?」

「ええ、もちろん……って、あれ? もしかして、まだ信じてくれてないんですか? 魔法が使えたのに?」

「魔法が本当にあるのは認める。でも……」

「だからって、ここが異世界かって言われると……ね」

 苦笑いを浮かべたカナンが頷いてみせると、魔裏さんはガックリと肩を落とした。

「良いですか? 二人とも。シンプルに考えてください。魔法と言えば異世界。異世界と言えば魔法じゃないですか? わたしの調べたデータにもそう出ています!」

「……い、いやいや。そんな屁理屈を信じろって言われてもな……」

「へ、屁理屈!? わたしが必死になって集めたデータが屁理屈だなんて……。

 ま、まあ、今はそれは良しとしましょう。

 見た感じとか、雰囲気とかで判りませんか? どこからどう見ても、目の前に広がるこの景色、異世界って感じじゃないですか?」

「うーん……」

 改めて周囲を見回してみる。

 ……たしかに、言われてみれば、目の前に広がる景色は、俺のイメージ(ゲームとか漫画とかで培われたものだけど)として持つ『異世界』に、なんとなく雰囲気が似ている……。特に、RPGゲームのマップを現実に再現すると、こんな感じな気がしなくもないけど……。

「ヨーロッパのどこかの田舎じゃないの? テレビや雑誌で見たことあるよ? こういうところ。魔法で瞬間移動でもしたんじゃないの?」

 目を凝らして辺りを見回していたカナンが、なかなか鋭い指摘を口にした。

 そういえば、創作物に登場する異世界は、中世のヨーロッパがモデルにしている物が多いと聞くな。それを考えると、カナンの言ったとおり、ここが異世界に良く似た現代のヨーロッパのど田舎だって事は十分考えられる。いや、むしろ、そう考える方が自然じゃないだろうか。

 ましてや、魔法が使えたのなら、その可能性の方が高い……。

「これは困りました……。まさか魔法が使えたのに、信じて貰えないなんて……」

 魔裏さんは、そう言うと眉間にしわを寄せて腕を組んだ。

 と、その矢先。

「――はっ! お二人とも、ちょっと静かに! こ、この音は!」

 突然、慌ただしい声をあげた魔裏さんが、耳に手をかざし草原の向こうへと視線を凝らした。

 いったいどうしたってんだ? たしかに、遠くの山の方からゴワーッと、空気を裂くような音が接近しているように聞こえるけど……。

「何の音だろ?」

「飛行機……じゃないの?」

 もっともらしい事を言うカナンだったが、自信がないのか首を傾げた。

「これはこれはちょうど良いところに、異世界ならではの生物が現れてくれました! もしかしたら、お二人を歓迎するために姿を見せてくれたのかもしれません! さあ、上空をご覧になってください! 今から、『ドラゴン』が通過しますよ!」

 そう声を弾ませた魔裏さんが、上空を指差した。

「「ド、ドラゴン?」」

 俺とカナンが半笑いを向かい合わせた、その時。

 飛行機と呼ぶにはあまりにも生物的なフォルムの巨大な影が、俺らの足元を覆った。

 嫌な予感を覚えながら、おそるおそる上空を見上げると……。


「「ええええええええええええっ!?」」


 でっかいトカゲが飛んでいた。

 大型トレーラーほどの巨体、大きく裂けた口元から覗く鋭い牙、見ただけで何もかもを黙らせてしまうかのような、尖った目。そして、圧倒的な威圧感。

 それは、まさにイメージ通りのドラゴンそのものだった……。

「う、嘘だろ……?」

 見上げた体勢のまま、指一つ動かすこともできずに固まる俺とカナン。

 そんな俺らの様子を伺うかのように、狂暴そうな目でギョロリと一瞥すると、巨大飛行生物はゆったりと上空で一回り旋回し、

『ギャオオオオオオオ!』

 まるで映画の怪獣みたいに鋭い雄叫びを轟かせながら、広げた大きな翼を羽ばたかせた。

 上空から風の塊を叩きつけられ、よろめいた俺とカナンは咄嗟にお互いを寄せ合う。

 おそるおそる頭上を伺ってみると、巨大トカゲは既に俺らへの興味を失ったのか、たった今飛んできた方向へと戻っていた。

「…………………………マジか」

 捻りのない言葉がこぼれる。

 俺は完全に圧倒されてしまっていた。

「しょ、翔介……? いまのって……?」

 巨大トカゲの後ろ姿に釘付けになっていたカナンが、青ざめた顔を振り向かせてきた。

「あ、ああ……。い、いや……でも、そんなわけ……」

 口からでかけた答えを飲み込んだせいで、しどろもどろになってしまう。

「いやぁ! 実に雄大な飛びっぷりでしたね~。さすがはガウロンの盟主と呼ばれるだけあって壮観です! きっと、さっきの火事を見て、様子を伺いに来たんでしょうね。あ、実はこの辺りってドラゴンの巣がたくさんあることで有名な地帯なんですよ。機会があれば、お二人にはぜひともドラゴン狩りを体験してもらおうかと思っているので楽しみにしていてくださいね」

 手で作ったひさしで謎の巨大飛行生物を追いながら、サラリととんでもない事を言う魔裏さんだった。

 狩る? あんな化け物を? いやいや無理でしょ……。

「い、今のって、CGだよ……な?」

 敢えて、考えられる中で最も常識的な答えを口にしてみた。

「それこそまさかですよ~。地球界とは違って、こっちの世界には、そういう技術は全然発展してないんですから。

 つまり、今、わたしたちの上空を飛んでいったのは、正真正銘本物のドラゴンです。

 いやー、来て早々、異世界ならではのシーンをご覧に入れることができて、感無量です~」

「そ、そんなばかな……」

 そう否定したたものの、確かに今飛んでいったドラゴン(?)には、硬さと柔らかさの同居した感じ――生々しさがあった……。

「ねえ、翔介……? 今の、まさか本物だったんじゃ……?」

 途中、ゴクリと唾を飲み込み呟くカナン。

「な、何言ってんだよ。そ、そんなはずないじゃないか。あれは映像だって映像!」

「でも、物凄く、生きてるって感じがしてたよ」

「うっ……」

 返す言葉が出てこなかった。

 カナンの言った事が理解できてしまったからだ。

 あれは、本当にドラゴンだったのだろうか? だとしたら、ここは――。

「こんな事言うと、頭がおかしいんじゃないかって思うかもしれないけど――」

 カナンは一度呼吸を置き、


「――本当に異世界なんじゃない?」


 敢えて俺が口にするのを避けた言葉を言った。

「やっぱり、どう考えても、ここはわたしたちの世界とは違う気がする。上手く説明できないけど……」

「……な、何、言ってるんだよ。さっき自分で、ここはヨーロッパのどこかだって……」

「そうだけど……! でもなんかさ、さっきのドラゴン? 物凄く生きてるって感じがしたよ? それに魔法だって使えちゃったし……。

 少なくとも、わたしたちの住んでた世界とは別の世界なんじゃないかな……。

 それって、つまり……」

 強ばった表情を頷かせるカナン。

 魔法、ドラゴン、ヨーロッパの田舎のような風景……。

 それらは、確かに俺らがイメージする異世界には、ほぼ間違いなく出てくるものだ……。

 全身から力が抜けてしまい、俺はペタンと座り込んでしまった。

「どうやらようやく、ご理解いただけたようですね」

 ホッと溜息をこぼし、安堵の笑みを浮かべる魔裏さんだった。


 俺らは異世界に来てしまったのか……。


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