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王都へ遠足に行きましょう8

「はぁ? おめぇさんが、あれ切ったのが?」


ジイさんの一人がアビックの呟きに反応する。

よく聞こえたなぁ。


「どうやってよ?

あれは、無理だろ。

ほれ、気配が目で見えるくらいだもの。

あんなの、60年前の戦でしか見たこどねぇ。」


「ん? いける、いける!」

「ほんとかい?」


ズズと湯飲みのお茶を飲みつつ、視線を戻してアビックは答える。


不審な男はアビックが視線を外したの見て、怒りで咆哮する。

ビリビリと通りの建物のガラスが震える。


兵士たちに加え、いつの間にか大盾の騎士たちがジジババを守るように男との間に立ちふさがって来た。


「じいちゃんたちは逃げろ! あれはヤバイ!」

「お前、タキオか? 来るのが遅い! マサル呼んでこい!」

「団長たちは遠征中だ!」

「秋のか? あぁ、こりゃ狙われだな!」


エルがベンチを降り、アビックのマントに無言でしがみついている。


「・・・」


アビックは俯くエルに顔を向けてから、構えを解き、湯飲みとだんごの串をお盆に帰す。


「貴様ぁーー!!」


解かれたアビックの威嚇に呼応して、男が怒鳴りながら此方に踏み出そうとするが、取り巻きのローブの者たちに止められている。


「おめえさん、ほんとにそんな強ぇのが。

そしたら、やってもらうが?」


因果を目にし、比較的若いジイさんが周りに問うが、それを遮るように更に高齢のジイさんが独り言のように呟く。


「あぁ、分かった・・・・。

あなた様はラルミス様と同じ類いの方ですか。」


「あら?

うちのラルミスをご存じで?」


アビックは珍しく驚いて、ジイさんに向き直る。


「はい、その節は大変お世話になりました。

・・・さすれば、あなた様は戦わない方がよいでしょう。

あれは、人が、勇者が倒すべき物。」


「よくお分かりで!」


ネコのような、にんまりとした表情でジイさんへ微笑むと、エルの頭を撫でる。


「状況次第で容赦するつもりもないが、何とかなる?」

「はっ、身命を賭して!」


ジイさんがアビックに敬礼する。


「結構!」


一言で返し、アビックは男に向き直る。


そんなやり取りの向こう、ローブの取り巻きに押さえられていた男の頭から、眼前に向けて角が三本生じる。

各頂点を繋ぐように、中空に魔方陣の紋様が構築される。


「何だあれ・・・」


レイモンの潤んだ瞳が、黒紫色の魔方陣の色を写している。


「いかん! 高位の熱線魔法だ!

逃げろ、盾も貫通される!」


騎士が叫び警告を発するのだが、むしろ逃げずに盾を地面に突き立て身構え、魔法防御を展開している。

受けきる気だ。


「では、少しだけサービスだ!」


そんな状況に、アビックは腰を落とし、マントに隠れた刀の鯉口を切ろうとするのだ、が・・・


「お父さん、・・・はい。」


エルが、クワ(農耕用)を渡してくる。

何処から出てきた。


「使って?」


にっこり!

受け取りつつ、固まるアビック。


カッ!!

魔方陣から放たれ、迫る熱線。


「・・・!」


我に返り、

居合半身の状態から左足を前に踏み出し体を入れかえりつつ、受け取ったクワを、頭上で鞭のようにしならせがら円を描く。

勢いが前方に向かって急速に加速・収束していく。


「でぇーーーい!!!!」


巻き込まれた空気が気力とともに圧縮され、クワの背部分に乗せて捻り撃ち出される。


そう、

日頃アビックが苦労して鍛え磨いてきた、農耕技である。


畑を耕し山野を開墾すべく、地面に放たれていたその技は、空中を突き進み熱線に激突する。


収束し一様に整えられた奔流である熱線は、しかし、アビックの農耕技に見事に耕され、方向を乱され混ぜられ、ふわふわで、・・・いい感じである。


熱線を耕して尚、技の威力は衰えず、発射元である男の角をもへし折るのだった!


ガキーン!!

「がっはっ?!!!」


取り巻きもろとも吹き飛ばされる男。


「た、タヌキが・・・見える」


何か口走って、ぐったりとしている。


「撤収だー!」


そんな男を、素早く違う取り巻きが抱えて逃げ出すのだった。



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