王都へ遠足に行きましょう7
「待たんかい!コラー!」
「ひいぃー!」
ガラの悪い兵士たちが、カチコミ犯を猛追していた。
事前に計画済みの逃走経路にである、細い路地を使い、散りじりジグザグに逃げる犯人魔導師たち。
兵士の視線から逃れられた者の一人が、安堵の息を漏らす。
「はぁはぁ、何か・・・想像してた怖さと違う。」
でしょうねぇ。
「しかし、これで兵舎はもぬけの殻!」
そう、陽動である。
・・・・
一方、兵舎前の宴会は、・・・盛り上がっていた。
「若い頃のトメさんときたら、そりゃあ話が上手でよう、よく余所の公民館に呼ばれてたのよ。
もう、面白くてみんなドッカンドッk 」
ドッカーン!!
ドッカーン!!!
「なんやー!!! 状況知らせー!!」
突然の轟音に兵士は驚愕し、立ち上がり周囲を見渡している。
「そらもう、ドッカン、ドッカンよー!!」
「わっはっはっは!!」
ジジババには笑い事のようだが、今の爆発で、外壁と兵舎の壁に穴が開いていた。
「ウサギや! 野郎、逃げおったぞー!!」
兵舎内から叫び声が響く。
「何じゃ?! 脱走かい?!! そりゃあ見物じゃ!!」
比較的若い爺さんを中心に、テンションが上が上がっている。
「危ねぇから、ジイさんたちは近づくんじゃねぇ!!」
脱走犯の前に、酔っ払ったジイさんたちが兵士に羽交い締めにされている。
「バカ野郎ー! 若い頃は俺らも兵隊やってたんだぞー」
「おう、そうそうだ!」
「勘弁してくれよ、ジイさん!」
・・・
その様子を横目に、ウェンディが兵舎に素早く飛び込んでいく。
「脱走? さっきのは陽動だったの?」
兵舎の奥には、治安を乱す狼藉者を一時的に閉じ込める牢が存在した。
「騎士団だ! 邪魔するぞ!」
「ありがてぇ! 右だ!」
倒れた兵士を引きづり、中庭を奥から後退してくる兵士が、牢の方向を指し示す。
「任せろ!」
中庭の柵を飛び越え、石の柱をすり抜ける。
同じ方向に向かう兵士の背中が数人見えるが、
ドーン!!
牢の方向から爆風が吹き込む。
「くっそ、煙幕だ!」
ウェンディが牢の入り口にたどり着いても、立ち込める煙で穴の先は見えない。
「突破する!」
左腕の刃止めを眼前に構え、飛び込もうとするウェンディ・・・の肩を、兵士が掴んで止める。
「待てや!」
カン! カン!
ウェンディが飛び込もうとした足元の石床を、矢が砕く。
「弓兵だと?! 組織的すぎるじゃないか!
いったい、何を捕えていたんだ!」
「ただのよそ者だ!」
「手負いで、南門で暴れてたんや!」
「・・・にしては、これは、おかしいだろ!」
・・・
ドーン!!!
宴会会場(?)からは影になって見えないが、脱走犯を追おうとしている兵士やウェンディへ牽制で放たれた法術攻撃の爆発音が響く。
「ほら、やられでらぞー!負げるなー!」
「コラー!そっち行くなー!!」
元気なジイさんとおじさん数名が煙が舞う外壁に向かっていた。
案の定、矢が飛んで来るのだが・・・
「はい~、パリィ~!」
間延びした発言とともに、おじさんが矢をパリィする・・・茶請けのお盆で。
「いやぁ、ヨシオはまだ現役だなぁ! やるもんだ!」
「そらそうよ! 毎日、鍛えでるがらよぉ!」
ヨシオさんは、日々奥さんの投石をパリィしなければならないからである。
民家の屋根の上からその様子を見た弓兵が、一旦硬直した後、臆せず近付いてくる気配のおじさんたちに、再度矢を射てくる。
「いい加減にしろー!」
兵士の数人がジイさんたちとの間に割り込むと、中型の丸盾で矢をきれいにパリィ。
そのまま、穴の方に向かう。
「おぉ、さすが若ぇもんは違うな!」
「ジイさんたちは下がるんだよ!」
「10年に一回くらいあるんだよな、こういうの」
「いいから!」
牽制が通じず、兵士たちに距離を詰められるのを認めた弓兵は、口笛を吹き、逃走を始めた。
撤収の合図である。
・・・
という様子を、
アビックとエル、レイモンは だんごとお茶を頂きながら眺めていた。
「もぐもぐ」
「美味しい」
「落ち着く」
・・・・
眺める視線のはるか先の通りに、右腕を押さえた男がローブを着た者たちに囲まれて現れる。
突然に撒き散らされる悪寒。
一瞬、男の額に黒光りする角が現れ、その体が一回り大きく膨らむ。存在感が濃くなり、肘から先のない右腕を掲げる。
「あれは、悪いもんだわ。」
「おう、だい~ぶ大物だ。見たこどねぇ。」
「手負いだが・・・近衛でも手こずるぞ。」
騒いでいたジジババも、全員そちらを注視している。
男は・・・踏ん張っているようにもがいている。
しかし、何だろう、取り巻きのローブたちが狼狽えている。
「何故だ!何故、再生しない!!!!」
絶叫が、ここまで聞こえて来る。
レイモンがビクリと震える中、さらに。
「・・・嘘だぁ!!!!」
「ドンドコドーン!!」
エルが空気を読まずに、合いの手を返す。
狂気を宿す男の目が此方に向く。
「貴様か?! 何をしたっ!!!!」
100m以上距離はあるはずだが、空気を揺るがす大声で普通に聞こえる。
男は、ビシリと左手でエルを指差す。
その線がエルに結ばれる前を遮り、アビックが立ち上がる。
右手のだんご串を指差された線に重ね、左手にはお茶の湯飲み。
「気にくわんから切っといた。」
男までの距離では絶対に聞こえないだろうくらいの声でアビックは呟いた。




