王都に遠足にいきましょう5
女騎士 ウェンディが歩いていく。
レイモンの首根っこを掴み、背中に子犬のようにぶら下げている。
歩き去る背中でレイモンは何事かわめいている。
「オヤジー!」
筋肉オヤジは、腕組み仁王立ちで遠ざかりつつあるレイモンを見据えている。
「なんだクソガキ?!」
筋肉オヤジと会話していたが、そんなことお構い無しにウェンディは歩き続ける。
「おいらのカンチョウを破ったのは、アビックとお前だけだ! 次は負けねーぞ!!」
その宣言に、オヤジはニヤリと笑う。
「鍛え方が足らんな!」
そう言うと、オヤジは売り物である鳥の丸焼きが包まれた塊を、豪速球で投げつけてくる。
「肉を食えっ!!!」
こどものレイモンには一抱えもある包みを、何とか受け止めている。
「ゴフッ!!」
レイモンは体勢も整えられず、丸々 丸焼きの衝撃を受けている。
余った衝撃でウェンディの上半身も、前に押され前方にツンのめっている。
「オ、オヤジ、、、」
「それでも食って、鍛えるんだぞ・・・」
筋肉オヤジは油を塗ったかのようにテカテカな顔にいい笑顔を浮かべながら、ビシッと親指を立てる。
「・・・マッソー!」
「うるせー!! ケツ筋オヤジー!!」
レイモンは包みを抱えながら、ジタバタと、ウェンディの背中で暴れている。
「大人しくして下さい。
詰所に被害者の方々が集まっています。
誠意をもって謝らないと許して貰えませんよ?」
どうやら騎士団の詰所に向かうようだ。
王城に併設されている騎士団本部の他に、王都の要所にいくつかの詰所があるのだが、今向かっているのは南大通商店街にある詰所のようだ。
「騎士団なんて、なにもしないくせに兵士より偉そうでムカつく!」
レイモンは、基本 地域のみんなの味方である兵士 至上主義者である。
「そりゃあ、私たちの本分は王の剣と盾ですから、皆さんと接することは少ないですけれど、頑張っているんですよ?」
国家兵力の構成は、領に紐付く。
王の直轄領、諸侯が領主となる所領という構造であり、それぞれに騎士団と兵士団を持つ。
王領直轄の騎士団は、更に、近衛騎士団と、王都騎士団、王領騎士団という、ピラミッド構造を持つ。
総体としての騎士団は、国内外の脅威に対する常備軍の意味合いが強い。
有事の際は所領より召集された兵により、軍が編成されるが、王領直轄の騎士団は、戦力として最強の組織であると共に、臨時編成された緒領を含む軍に対して、中央集権型の指揮を働かせる管理監督の役割を持っていた。
更に、軍事的役割の他に、騎士はそれだけで最下位ではあるが貴族位でもあった。
兵士団もおおよそ同じ構造をもつが、平時は治安維持的な役割が多く、庶民から身近なのはこちらである。有事の際は、各領ごとに軍として編成される。
常備兵と予備兵があり、予備兵は平時は普通の市民とほぼ変わらない。
・・・と、説明してみたものの、この設定が今後活かされるかは、未定である!!
ともかくも、レイモンからすると、腕っぷしが強く日頃の村の困りごとを解決つしてくれる兵士はヒーローのような扱いだ。
「騎士なんて、胡散臭いお話の中にしかいないじゃないか。裏山に出た熊も追い返してくれない! そのくせ、皆に好かれていて、ムカつく!!」
「う、うーん、、、」
可哀想に、ウェンディ自身も その評に納得感があるのか、だんだんと足取りが重く顔が下を向きはじめるが、長くは続かず、キッと顔を上げる。
「ごめんよー! 頑張るからー!」
微妙に瞳が潤んでいるが、足取りはもとの勢いを取り戻す。
「頑張らなくていいから、離してよー!!」
「それはそれ、これはこれ!」
「肉、あげるからー!」
「肉は欲しい!! けど、だめー。ちゃんと、謝りなさい!」
そうこうする内に、詰所到着である。