王都に遠足に行きましょう3
「まてー!この悪ガキどもー!!」
軽装備の王国女騎士が大声を上げて、通りを駆け抜けていく。
「やべー!あの女早いよ!」
「慌てるな!各機、前方の交差点でブレイク!」
「おっけー!」
「ブレイク、ナウ!」
こいつらの連携の良さは一体何なんだろう。
商店街の十字路を目ざとく見つけた3バカは、一斉に三方に散会する。
「くっ!卑怯な!」
女騎士はガリガリと、石畳の通りを削り取りながら制動をかける。
誰を追うか、迷っている。
「あんなに恐ろしい技の使い手を放置しては王都の危機だ!なんとかせねば!」
主に、おっさん達の尻の危機である。
女騎士のすぐ脇には、アビックたち遠足一行。
「い、いやー、流石王都、調度品の仕事が見事だ事!」
白ずくめのフード付きマントに身を包んだアビックが、わざとらしく他人のふりをしている。
「いやー、結構結構!」
先生神父も空気を読み、他人のふり。
「もし、尻に矢の古傷を持つ者が、あの技を受けたりしたら・・・、致命傷だぞ!」
「ブッ!!!」
そんな訳はない。が、すぐそばにいたアビックが女騎士の発言に噴き出す。
「ん?!」
いかん。目をつけられた。
「ん~~?!」
女騎士といっても、平時は甲冑は装備しておらず、胸当てと左腕に刃止めを兼ねた籠手くらいの防具。
動きやすそうなスカートと布装備に、マント姿である。
まだ駆け出しのようで、金髪、碧眼のかわいらしい容姿の女騎士が、アビックの背中をじっと見ている。
「そこの人っ!」
嫌な予感しかしない。
「大変危険な殺人技を使う悪ガキを追っている!」
必殺技!おっさんは3日間死ぬ!
「手伝ってくれたまえ!」
ビシっと、アビックの背中を指さしている。アビックが悪寒で、びくっとした。
「いやー、いい天気だね~」
アビックはまだ粘るのだが。
「いいよ~!」
エルが挙手し、引き受けてしまう。
「あちゃ~」
「おや!カワ(・∀・)イイ!!お嬢ちゃんが手伝ってくれるのですか?!」
目をキラキラさせて、エルの手を握る。
「では!お嬢ちゃんは右手を!あなたは左手を!」
即断即決、言うが早いか、正面のバカを追って駆け出してしまう。
何気に、アビックの事を既に数のうちにカウントしている。
「くっ?!なぜだっ!」
エルがアビックに抱きついていて、明らかに身内だからである。
もぞもぞ登って来て、まるでコアラのようになっている。
「うー、行かなきゃいかんかー。面倒だなぁ。」
「そうですよ。そもそも、そのためのお供ですから。」
先生神父がアビックの背中を押す。
「んなろー!」
仕方なくやる気を出すアビック。
「がおぉー!」
ニコニコと、コアラポーズで意味不明の雄叫びを上げるエル。
コアラはそんな鳴き方はしない。
飛び出した女騎士は、大通りの混雑の中をすり抜けながらバカの一人を追う。
「貴様、名はなんという。」
仁王立ちした大男。筋骨隆々。ハムのような二の腕がはち切れんばかりである。
凄まじい威圧感を周囲に巻き散らかしている。
対峙しているのは、3バカの一人。
「おいらは、レイモン!」
額に、冷や汗を浮かべつつも、中腰に腰だめにカンチョーポーズで、無駄に隙のない構えである。
ジリジリと、大男を中心に円形に摺り足で立ち位置を探る。
なんだコレ。
「なんだよ、その筋肉!卑怯・・・う」
言葉の途中から、動き出す。
不意を突かれて、大男の注意が一瞬遅れる。
レイモンは、中腰のまま足のクッションを活かし素早く大男の周囲を円形に近づいていく。
大男は首を巡らすが、首の動きだけでは足りず腕組みを解くと、足のステップで正面をレイモンへ向ける。
「あ!泥棒!」
大男のステップに合わせて、レイモンは嘘で気を散らすと同時に、急制動からの切り返し。
制動・切り返しが異常に早い。
カンチョーの形で組んでいた手を解き、背後に手を投げ出すことで、上半身に制動をかけていた。
そこから、腰を起点に上半身を捩じり、方向転換の動き出しの力を生んでいる。
意表を突く動きを繰り返され、大男の対応が更に遅れる。
「くぅ、ちょこざいな!」
一気に大男に迫るレイモン。
正面から迎え撃つ大男。
「食らえ!目つぶし!」
レイモンがチョキの形で右手を振りかぶる。
「なんの!」
大男は、太い腕で顔面をガード。
しかし、レイモンはそこから右手を、大男の顔面がある上方ではなく下側に振る。
振った勢いそのままに、大男の足の間を低く立膝を着くような体制ですり抜け、背後に回る。
顔面をガードした大男はその動きを捉えられない。
すり抜けながら体を水平旋回、体の向き反転させ、腰だめの手はカンチョーの型。
「くらえ!!!」
立膝から、全身のばねを使い捩じる動きを加えた飛び込みのような必殺のカンチョーが、今将に繰り出される!
「何っ!」
大男も、足元からの殺気にレイモンの位置とその狙いを察知する。
「アビック流、ドリルカンチョー!!参式!!」
レイモンの蹴る足元が衝撃で弾け、カンチョーの先端から巻き込んだ空気が螺旋の渦を巻く。
「うぉぉおおお!!」
「させるかあぁぁあああ!」
どうしてこうなったぁあああ!
ガキーーン!!!!
金属同士がぶつかるようなイメージ。
「な、な、、、おいらの技が・・・!」
大男の尻にカンチョーを突き立てたまま、レイモンが全身を伸ばし切った形で止まっている。
空中で。
「あいまいわー!!!」
大男が、ブンと尻を振ると尻に挟まれたレイモンはそのまま吹っ飛ばされる。
吹き飛ばされ、地面にバウンドしつつ体勢を立て直し、立膝で大男を向く。
「お、おいらの手が・・・、まるで金床!!」
カンチョーを解いた手が、衝撃の痛みで力が入らずバキバキになっている。
しばらく、物も持てないだろう。
「ケツの青いガキが。そんな技、俺には効かん!」
「おまえ、なんだそのケツは!」
「知りたいか。」
大男は、背後を向けたまま、横目でレイモンに睨む。
「さては、何か仕込んでいたな!」
レイモンは負ったダメージが大き過ぎ、未だ片膝をついたままの姿勢。
「そう、仕込んでいたとも。」
大男はニヤリと笑いながら、不敵に答える。
「それこそ、マッソォーだ!!」
ただの筋肉である。
「マッソォーだと!」
ケツ筋です。
「鍛え上げられた、尻筋は割りばしさえへし折るという。」
「ゴクリ」
いやいや。
「この俺は、聖剣さもへし折ってくれよう!」
「な、なんだってー!!」
聖剣もいい迷惑だ。
「くそ、、、筋肉の前には、俺の技なんて無力なのか!」
レイモンが打ちひしがれているが、お前達はいったい何と戦っているんだ。
「最低!」
途中から立ち合いを見ていた女騎士が呆れている。