王都に遠足に行きましょう2
「へっぽこぽこぽこ、タヌキさん~」
「ヘイッヘイッヘイッ!」
「へっぽこぽこぽこ、キツネさん~」
「ヤー!」
「チェケラー!」
エルが歌う間抜けなメロディに合わせて、周りの男の子3人組がラップの相槌を打っている。
男の子たちは、8才ごろ。
ちんまりした男のたちが陽気なリズムに合わせてダンスを
アビックはその様子に大笑いしている。
「わははは!」
エルたち、遠足組の一行は大通りを通り、中央広場に向かっている。
アビックは、笑い過ぎて歩けなくなっている。
「ヨー!ヨー!」
アビックの様子を見て、更に調子に乗った子どもたちが、追い打ちをかけている。
アビックは猫のように、小さいエルの背後に回り込む。
「やめて、腹イタイ!」
「へっぽこぽこぽこ、お父さん~」
「ウォンチュー!」
やめてくれない。
ひとしきり、悪乗りしてアビックを苦しめた後、男の子たちは満足したようだ。
今度は、大通り脇に市を並べ呼び込みを行っている八百屋や道具屋に向かって一行から先行して駆け出していた。
「急げー!」
拝むように両手を合わせ、腰だめに低く構えながらパタパタと走っていく。
前方上方へ突き出すように素振りしながら。
「ヤバい奴等だな。」
「元気ですね~」
先生神父が、微笑みながら見送る。
「いや先生、やつらカンチョーがどうこう言っていましたよ。」
「はい、王都に物おじせず、いつも通りですね。素晴らしく図太い精神です!」
「止めないんだ。」
行く先から、図太い声の悲鳴が聞こえだした。
「いつもこんななのかい?エルさん?」
「うん。いつもは先生とか男の子がやられてるよ。」
「あぁ、そうなんだ、逞しいね。」
アビックから見たリーダー格の子のカンチョー、そのキレは、すでにレベル3程に至り、弱いモンスターも一撃の域にあるように見える。
「先生、単に自分が被害にあいたくないだけでは?」
「ほっほっほ」
笑って誤魔化す。
「お父さんも前やられてたよね?」
「え?そうだっけ?」
「うん、前にレイモンたちが遊びに来た時に。」
「あぁ、先月うちに来た3人組か。」
アビックは思い出し、ポンと手を打つ。
「前は、エルたちも狙ってきたけど、今はされないよ。」
「あ、あぁ~」
思い出していた。
・・・
「ブラボー、チャーリー、左右に展開。俺の合図で左右から背後を狙え。」
「ラジャー、アルファ」
「ゴー!」
物置の脇から、小さい影が二つ走りだす。
アビックは料理や、部屋の暖を取るための薪を、家に運び込んでいた。
「やい、アビック!」
レイモンこと、アルファが物置の脇から飛び出し、アビックに叫ぶ。
「えー、何?」
アビックは左右両手に、結わえてある薪を持ったまま振り向く。
「男なんだか、女なんだか分かり難い見た目しやがって!おかまかっ!」
「男だよ~」
呑気に解答する。
「う、うるさい!」
「えー、答えただけじゃないかー。」
理不尽な応答に、アビックは頬を膨らませて抗議の意を示す。
「デビッドよりヒョロヒョロのくせに、みんなから大人気でムカつくんだよ!このへっぽこ!」
デビッドとは村の警護を担い中央から派遣されている王国兵である。
思春期前の男の子には、逞しく腕っぷしの強い庶民の味方は大人気である。
思春期なら逆に、国家権力の手先として訝しがられ反発される。
思秋期を超えてもそのままなのは、現実的な警護兵の役割や機能を理解できていない都会者である。
「そんなの、知らないよー。」
「うるさい!いつもエルちゃんと一緒に居やがって!覚悟しろー!」
(正直だなぁ)
そう思いつつアビックは、飛び掛かってくるレイモンに対応すべく、両手の薪を地面に置く。
素早く、腰紐に掛けてあった手ぬぐいをレイモンの顔に投げつける。
「とりあえず、鼻水をふけ。」
「う、うん。」
(素直だなぁ。)
「食らえー!」
勢いよく投げられたのは、砂。
「ふふっ」
(石じゃないのは、攻撃力を無くす気遣いだろうけれど、やっている事とチグハグダな。)
レイモンは飛び掛かる勢いそのままに、砂を目隠しに、木の枝で切り込んでくる。
アビックは、左腕目を守りつつ、薪の一本を足でけり上げ右手に握る。
「やー!」
コーン!
乾燥した木同士が打ち合い、乾いた音を響かせる。
「今だっ!」
鍔迫り合いとなった、状況でレイモンことアルファが、ブラボー、チャーリーに合図を送る。
「おぉ!」
「お、伏兵とは戦術的な。しかしっ!」
アビックが何事か迎撃の動作をしかけた時だった。
「だめー!!」
エルの大声が響く。
「バカー!!」
続いて、エルの罵声が響く。
アビックに襲い掛かろうとしていた伏兵、ブラボー、チャーリーが驚き動作を止めている。
「やめてー!おたんこなすー!」
レイモンは青ざめて、エルと、アビックを交互に見ている。
「アホ―!」
「すっとこどっこいー!!」
だんだんと、罵声に対する疑問の方が優先しだし、男の子たちは不思議そうに顔を見合わせている。
ブラボー、チャーリーの硬直した体制は、アビックにカンチョーを放たんとするものだった。
「お父さんにまで、そんな事しないでー!」
泣き出しそうになる。
「・・・にまで・・・だと?」
エルの言葉にアビックが反応する。
「おいお前ら、まさか・・・エルにも、こんなことやってるのか?」
アビックの手には、どこからともなく現れた刀が握られていた。
「おい?」
アビックの背後に、般若のごときオーラが見える。
三人は触れてはならない者に手を出してしまった事を悟り、一瞬で顔面蒼白になり冷や汗が吹き出すのだった。
「ご、ごめんなさいー!!」
三人は、生まれて初めて殺気に晒されたのだった。
こどもの反応は素直で素早い。
言うが早いか、脱兎の如く逃げ出している。
エルは、泣き出しかけてグシグシいっている。
「いつもあぁなんだよ。」
「大変なんだね。」
なだめるように、エルの頭をなでる。
「あいつらは、今後、3バカと呼ぶことにしよう。」
「うん。」
・・・などという事があった。
「3バカ、王都に放たれるの巻きだな。」
カンチョー被害者が続出する中、3バカは生き生きとしていた。