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お父さんは神様です?!  作者: 浴衣
2/7

王都に遠足に行きましょう1

「お父さん!」

「はい!何でございましょうエル様!」


 帰ってくるなり、意を決したように声を張るエル。

 アビックも、即座に椅子の上に正座し畏まって受け答える。


「あのね、今度、遠足があります!」

「そうですか!」

「王都、ベリダです!」

「遠いね!!」


 エルが住む村から、王都ベリダまでは馬車でニ週間以上の旅が必要である。


「お父さんは強いので、一緒に行ってください!」

「嫌です!」

 即答である。

「えー!ダメー?!!!」


 気を張り、頑張って話していたエルが、突如として不安に表情を崩す。


「遠いー!メンドくさいー!」


 アビックはテーブルに突っ伏して、ジタバタしている。


「先生が、転移法術で連れてってくれます!日帰りです!」

「じゃあ~、行きます!」


 むっくりと、顔を起こす。




 ウーベル王国王都ベリダ。

 人口12万人が暮らす、王国首都にして最大の都市である。


「大きいねぇ。」


 王城に続く跳ね橋、その入り口を守る城門を見上げてエルが感嘆の声を上げる。


「んー、防備が甘いな。」

 アビックが同じく、城門を見上げながら感想を漏らす。


「でもって、治安が良くない。」


 アビックは、じっと城門から真っ直ぐに伸びる大通りの先を睨む。

「・・・気に食わないな。」


 アビックは白いローブに全身をかためていた。

 左肘でローブを開けば腰だめに刀。アビックは鯉口を切り・・・戻す。


 アビックの動作から、一拍遅れて大通りに突風が巻き荒れる。


 アビックは、はだけた左手側のローブを直し、口をへの字にすると不機嫌そうにそうつぶやく。


「さあ、次行こう。今度は大聖堂でしょ?」


 アビックは引率の男性教諭を、そう言って促す。




 聖マルク大聖堂。

 王城に併設された王都最大の教会寺院である。

 この文明レベルの世界では、協会は知識・教育・研究機関・戸籍に相当する情報を管理する役所の役割も担っており、

王権を裏付ける機能と相まって絶大な権勢を誇っていた。

 華麗なステンドグラスから差し込む光は、日が高いせいで長椅子に座るエルたちにまでは届かない。

 神父の説教が続いていた。


 エルと一緒に遠足に来たのは、同じ村の協会で学ぶ16名。

 歳は同じではない。

 大概が退屈そうにしていたり、遠足で浮かれた気分のため話などまともに聞いてはいないが、

 上級生の児童が、下級生の世話をしているため走り回ったりする子はいない。


「え~、であるからして~」


 大聖堂の神父も、遠足児童の扱いに慣れているようで、いちいち腹を立てるでもなく説教を続ける。

 アビックは眼光鋭く、背筋を伸ばして話を聞いているような格好。


「グゥ・・・」


 だが、寝ていた。

 


 そもそも、ここに立ち寄った主な目的は、観光ついでの昼飯の獲得であった。

 聖堂は大きく、裏側には菜園が広がるとともに、牧場で牛や羊が数十頭養われている。


「美味しい~!」


 冷やされた牛乳に、満足げな子どもたちがはしゃぐ。

 パンも焼きたて、野菜も新鮮で美味い。


「冷たーい!」


 特に、村には冷凍法術を使える者が少ないため、冷たい果物と牛乳が大好評である。

 素焼きのカップに入った牛乳。


「流石、王都ですね。こちらにも、冷凍法術の使い手がいらっしゃるとは。」


 引率の先生神父がお礼を言う。


「いえ、違うんですよ。その牛乳はこうやって冷やしているんです。」


 そう言うと、シスターがキッチンへの扉を開ける。


「うぉおおおりゃぁあああ!!!!」

 

 扉を開けた瞬間、雄叫びとともにキッチンから強風が吹き込み、皆の髪がたなびく。 

 数名のシスターが鬼の形相で、素焼きのカップを団扇で扇いでいた。


「ここでも、冷凍法術の使い手は貴重です。

 こちの牛乳は、素焼きのカップを水で濡らし、風で扇ぐことで蒸発の際の気化熱で冷やしています。」

 

「こ、これは・・・。」


 先生神父の背筋まで寒くなる。


「なんという、頭脳的な力技。」

 アビックも引きつった笑いを浮かべている。


 そっと、シスターが扉を閉める。

 その様子は、どこか誇らしげである。

 はしゃぐ子どもたちの横で、先生神父とアビックが無言で牛乳に向けて合掌する。


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