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草刈り

秋も深まり、今年の収穫も一段落した頃、アビックは畑の草刈りに勤しむのであった。

この時期に草刈りをしておくと、翌年の雑草を減らし害虫の減少に繋がる。


先般の大雨は収まり、逆にいい天候が続いていた。

この時期の雑草は、枯れているものが多く、刈り取りやすく軽く扱いやすい。


エルも刃先がくし状になったレーキを使って、草刈りを手伝っている。


「お父さん、どうしたの?」


畑の草取りをはじめて、20分ほどした所、アビックが何事か考え込み立ち尽くしていた。


「?」


そうこうする内も、エルは手を動かして雑草を根から掻き出している。


「いやぁ、もっと楽に出来ないかなぁと・・・」

「手も動かすんじゃ~」


エルはコウスケ爺さんの真似をしてアビックを嗜める。


「サーセン!パイセン! んー・・・こうかな?」


アビックが持つレーキは柄が長い。

それを杖のように回転させ、刃先で掬い上げるように・・・斬撃を飛ばす。


ズバッ!パラパラ


レーキの刃分の斬撃が飛ぶが、雑草がみじん切りのバラバラになってしまった。


「あ・・・。」


みじん切りになった雑草を、エルがレーキで集めようとするが、バラバラで集めにくい上に、土を多く巻き込んでしまう。


「微妙~」

「・・・そうだね。ぶった切れてしまうと、根も残っちゃうね。」


アビックが横着しようとしても、なかなかうまくいかない類いの作業であった。

アビックは大人しく当たり前にレーキを使い、草取りを続ける。


「優しくゆっくり引っ張りあげるのだろうけれど、・・・ムズいな。・・・理想は、土を残さず雑草を傷付けず取りきる感じだよなぁ。」


ぶつくさ独り言を言いつつ作業を続ける。


「こっちに集めておくね!」

「うん、ありがとう~」


アビックの横でエルはご機嫌で作業を続ける。

エルのレーキは、手持ち用の柄の短いものなので、エルはしゃがんで背を丸めてガリガリと土を掻いて、雑草を取っていた。


村は一方を山に面していたが、他方は起伏はあるものの盆地状の地形であった。少し先に川、その大分先に秋の木々の色をした小高い丘、ずっと先に頂に雪を被る連峰。

連峰はかなり遠いので、空気の青い色に染まっている。


お昼時間が近づき、アビックたちは家に戻ってきていた。

アビックが台所・流しのポンプを動かし、エルが台に乗ってギリギリ手を伸ばして待ち構え、手を洗う。

石鹸の泡に、いい匂いが広がる。


昼ごはんは、買い置きのパン、カボチャのスープ、目玉焼き、煮豆のペースト。

スライスして、フライパンでバターと軽く焼き直したパンにエルが噛り付いている。

パンのサイズが大きいので、噛りつくエルは小動物のようである。

「おいしい~♪」

ニコニコしながら、豆も箸で器用に摘まんで食べている。

箸を持つエルの手は、まだ幼くまるっこい。

「はい、お父さんも!」

そう言ってカリカリのパンをアビックの口に突っ込む。


のどかである。




そんな様子を、

林の木々の間から探る者たちがいた。

サハン連合国の諜報員である。


彼らは、王都からの脱出の際に転移ではぐれてしまった、魔王セージの探索/回収隊であった。


杳として知れぬセージの行方に、焦り散らかすサハン軍上層部。そこにもたらされた光明は、ウーベル王国内にあるセージ自身からの諜報連絡網を用いた連絡であった。

「王都の強者を発見。武道大会にてその実力を確認せん。」


数週間前、

その連絡に基づき、隊は祭りの直後にこの村に到着したのだったが、そこで彼らが目にしたのは驚愕の光景であった。

軍を一人で相手取り戦うことが出来る、魔王セージが、生き埋めにされていたのだ。


一見した時は、生首にも見えたため、その衝撃は凄まじいものがあった。

隊員には冷や汗に悪寒、発熱に体の震えなど、インフルエンザかというような具体的症状が現れていた。


辛うじて、生存が確認されるも、脱出を試みるセージを悉く封じる・・・ハリセン。


「な、なんなのだあのハリセンは?!!!」


3軍に匹敵する魔王を、易々と封じる・・・ハリセン。

「魔王セージ、封印さる。」

隊は、恐怖に駆られ、村から即時退却。

別所で対策立案の上、再度、諜報活動を再開したのだった。


そこでまたもや衝撃が走る。

セージが、餌付けされていた。

小さな子どもたちに。


恐怖! 圧倒的、恐怖!!


隊員が知るセージは、戦陣の最前線にあり、恐れも知らぬ不敵な笑み。高位魔法の一振りにより敵戦線を瓦解させる、味方からしても怖れる存在である。


「はっはっは! 紙のようではないか!!」


敵砦の壁を、守備隊の重装歩兵団ごと凪払った際に、セージが発した言である。


その、セージが・・・唯々諾々と、村人の子どもの施しを受けているのである。

子どもたちや老人たちは、みなが嬉々とした笑顔であった。


「ひ、ひいぃぃ、て、撤退だ!!」


隊員たちにとって、その笑顔は恐怖でしかなかった。

セージの首を前にした村人の笑顔が頭から離れない。


・・・

別所、隊のセーフハウス。

新人隊員シンディも、住民の笑顔が頭から離れなかった。


「平和な感じの、良い村でしたね~」

「「はぁっ?!!! 」」

「お前、正気か?!!」

「あの狂気をどう見れば、そうなるんだ?!」


「え、えぇ?!」

「ダメだ、おかしくなっちまったんだ!

だから新人には酷な現場だと言ったんだ!」


「あ、いえ、平和そうでしたよ?」

「あのセージへの仕打ちを見て、何故、そうなる?!」

「いや、あの狂気に当てられてしまったんだ。」

「そうか、そんなに。確かに、俺たちでもこの始末だ。新人なら尚更、無理もないか。」


うつむき絶望で顔を覆う、先輩隊員たち。


「次回潜入、新人は留守番だな。」

「え、えぇぇ~?!」


「すまん、俺も外してもらえないだろうか。」


驚きに、ガタッと立ち上がる先輩隊員たち。

それは、隊内でも一目をおかれるベテラン隊員であった。


「ラングリー?!」

「セージをもってしてもあの状況。

正直、震えが止まらない。俺ではまともに活動できそうにない。すまないが後方支援させてもらう。」


そういうラングリーは、ブルブルとした震えを押さえるために必死になっていた。


(えぇえぇー、そんなにー?!!)


「数々の戦場、その恐怖を克服するために繰り返し儀式の加護を得てきたあんたが・・・。」

「・・・すまん」


メンバーを厳選して再度諜報が再開されるのだったが・・・。


「あ、あいつら抵抗できないセージに向かってボールを蹴り当ててやがる。」

「犬にセージを舐めさせていやがる。」


(子どもと戯れて、犬にじゃれ付かれているのかな。)

シンディには、微笑ましい光景が目に浮かぶのだが・・・。


「何という、拷問だ!!!

あいつらに人の心はないのか!!」


「早く、セージを助け出さなければ!」

「待て、セージでさえ手を出せないヤツらが相手だ!

原因を特定し、確実な逃走計画が必要だ。」


という事になったのだが、精神的にやられる隊員が続出。

ついに、数日間 諜報活動に穴が生じてしまうのだった。

シンディはその間、うなされる先輩隊員の看病に忙殺されるのだった。


「ハリセン、ハリセンがぁ・・・!!」

変なものがトラウマ化している。。。


(このままではダメだ。)


外は数日間雨が続き、村では川が氾濫したようだが、ここ数日は天気が良く、地面も乾いてすっかり安定していた。


数日後、隊員の数名の状態が回復してきたのを待ち、

シンディは意を決して進言する。


「私が、再度、村に潜入してきます。」

「いかん、新人には酷だ!!」

「しかし、このままでは、セージも持たんかもしれん。」

(いえ、大丈夫と思うけどなぁ。)


「策があります。

これまでの情報から、アビックなるものがセージ封じに関与していると思われます。

いったん、セージ自身ではなく、危険性の低い周辺から調べてきます。」

「そうか、・・・ 俺がサポートにつこう。」

「ラングリー、お前!」

「分かった、俺も行こう。」

「隊長!」

数名が、涙を流し始めた。

(えぇぇぇ・・・)

今生の別れのような会話が繰り広げられるのを、シンディは場違いな感覚で眺めるのだった。



という、経緯でシンディは今に至るのだが。


(エルちゃんというのか、可愛い子だなぁ。)


故郷の妹たちを思いだしながら、和んでいた。


・・・


「草刈り、まだまだかかりそうだね、お父さん。」

「この調子だと一週間はかかるね。

もう少し楽をしたいよね。」

「うん、飽きてきちゃった。」

エルは刈った草を積み上げた山の横、大きめの石に腰かけて足をパタつかせていた。


「ちょっと試してみるか。

地面に気を通して・・・」

地面に置いたレーキを通じて、気が地面に広がる。

「揺さぶる。」

振動が周辺地面を揺さぶると、の間の隙間が均され均一な面になる。

が、

「わっ、お父さん! 」

エルが腰かけていた石が、土に少し沈みかけていた。

「あ、ごめんごめん、範囲限定しないと危ないな。

路地もダメか。」


アビックはエルを肩車して、もう一度。


「範囲を狭め、振動、風の法術。」


ズズズン!ブワッ!


畑の一面をレーキを通じて振動させ、風で地面の中から固形物を浮き上がらせる。

畑の雑草や石、もぐらやミミズなどが、根こそぎ土の上に浮かび上がって来たが、風で乾いた土が舞い上がって一気に視界が失われる。

足元の土が水のように抵抗を無くし、足が沈み込み始める。


「うわあ!!」


エルが驚いてアビックの頭にしがみつく。


「あぁ、こうなるか~」


アビックはスイと土煙の範囲から飛び退く。

土煙は地面近くに留まっているため、幸いエルの辺りには届かなかったようだ。


まっ平らに均された畑一面の上に雑草たちが陳列されていた。


「煙いけれど、まぁ、使えるか。

後は、地面の上のをかき集めるだけで済むな。

うん、楽チン! これで、一掃できそうだ。」

「イエーイ!」


アビックは路地にエルを下ろす。地面に足が着く前に足を屈伸させている。早い早い。


「で、こっちも一掃しないとな。」


石を家の裏の林に向かい、一振で二方へ投射。


「?!!!」

諜報員たちの顔面に向けた正確な軌道。


ラングリーと隊長は飛び退いて回避。


「はい、ご苦労さん。

そっちの"草"は埋まっときな!」


アビックは各人の着地点に先ほどの、草刈り技を仕掛ける。

着地先の地面が、液体のように隊員の胴体を飲み込む。


「何だ!、地面が!!」

「シンディ、逃げろ!」


振動が収まると、土は重く体に絡み付き脱出を妨げる蟻地獄のようだ。

投石を受けなかったシンディは、林に逃走しようとするが、その目前をアビックの放つレーキ斬撃が足元から吹き上がり動きを止められる。


ザウッ!!

(次元が違う!)


「君は殺気が無かったようだけど、どうする?」

「投降・・・する。」

シンディは両手をあげ、投降するのだった。


エルはポカンと口を開けている。

アビックは満足そうにエルの頭を撫でる。


「草刈り完了!」





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