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祭壇

チャンバラ大会も終わり、時刻は夕暮れ前。

村の井戸端広場には組立式のテーブルと椅子が並べられていた。

宴会である!


マサルが村長に歓待を受けていた。

エールをジョッキになみなみつがれている。


隣にはアビックとエル。

レイモンたち3バカにちょっかいをかけられている。


「もー、おいらがアビックとやりたかったのにー」


小さい手のグーパンチをアビックの背中にポカポカ浴びせている。


「おぉおぉ、やめろぉおぉ~」


ポカポカ叩かれる毎に、アビックの声が震えて変化する。


「キャハハハ!」

「あはははは!! えーいもっとだー!!」


悪ノリし始めた。


「ステファノス様?、王都では部下たちがお世話になりました。大変なご活躍だったとうかがっております。」


マサルさんがアビックのジョッキにエールを注ぎながらお礼を述べる。


「うん、妥当。あれ?でも、敬語なんだ?」

「はい、騎士団 幕僚長より、あなたには国賓級の礼を尽くすよう仰せつかっております。」

「あぁ~、年輩のおじいさんかな?」

「はい、ヨシオ様です。」


ブッ!!と吹き出す村長。


「国賓?!! 騎士団のヨシオと言えば、聖戦の英雄 賢者ジョサイアス・ヴァルデマー卿 かい?」

「はい」

「はぁ、これはたまげた。」


物知り村長が、目を輝かせて話に混じってくる。


「アビック、お前さん 遠足で何をやらかしてきたんじゃ?」

「サハン連合の、"魔王"を撃退して頂きました。」

「はぁ?!! 魔王 ?!!」

「・・・魔王?!!」


村長と、アビック自身も驚いている。


「いや、あれは魔王じゃないだろ。」


エールを一口含む。


「魔王だって!」

「しっ、静かにしろよ!」


村長よりも目を輝かせた子どもたちが、話を逃すまいと聞き耳を立てている。


「各国の間ではそう呼ばれておりますが。違いますか?」

「うん、異なる原理の存在だ。」

「魔王でないなら、何だったんじゃ?」


村長が素朴に聞く。

頬が赤くなって程よく酒が回っているようだ。


「あれは、勇者として召喚された者だ。」


「召喚勇者ですか?!

しかし、召喚勇者は魔王に対する対抗戦力。

それが魔王になるなど、本末転倒。」


召喚勇者は魔王に対する特攻・カウンター装置のような役割を持つ。


「魔王不在時に召喚され、単なる国家戦力として用いられたのだな。」


アビックはそう言うと、広場のテーブル端に顔を向ける。


「攻められた側の国からしたら、迷惑であることは、実態が勇者でも魔王でも大差ないからな。」

「では、魔王はあれよりも強いと?」


「んー、大差ないんじゃないかな。

どちらも人の手に余る超常であるが、あいつは人自身が生んだ災厄だ。

落とし前は人がつけるべきだったろう。」


「身命を賭して、ですね。」

「そう。」


そこでマサルは、ジョッキのエールを一気に飲み干すと、本題に切り込もうとする。


「ひとt・・・」

「はい、もう一杯! じゃんじゃん!」


少し前から待ち構えていたシャーリーちゃんが、すかさずマサルのジョッキを満杯にする。


わんこそばかな~?

マサルは、再度、飲み干し、やっと問いかける。

マサルの飲みっぷりに、シャーリーちゃんが嬉しそうに次のジョッキを満たしている。


「あなたは何者なのですか?」

「愚問!

既に名乗っておろうが。

はい、やり直し、飲んで~」

「サーセン! パイセン!! いや、そうじゃなくて!」

「はい!どんどん」


わんこエールかな。

何だかんだ言いながら、ジョッキを飲み干す。

騎士団長も同じ文化で教育された様子がかいまみえた。草。


「そなたが知り得たいのは、そんな建前ではなく、

我が武術の高みであろう?」

「?!!!」


マサルがニヤリといたずらっ子のように口角を上げる。


「この場には祭壇たる供物も十二分。

武術問答程度であれば、一つ答えてやろう。

問うてみよ。」


「エルちゃん、アビックなんか変じゃね?」


レイモンがエルに耳打ちしている。

エルも頷き、テーブルの上を見回す。


「あ、ミルク・・・。」


シャーリーちゃんが、エールだけでなく品評会で賞を取ったミルクも配っていた。

少しはなれたテーブルから、コウスケ爺さんが、ニコニコとシャーリーちゃんを見守っている。


「お父さん、ミルクで酔っぱらうから、、、そのせいだね。」

「何でだよっ!!」


「さぁ、どうした~!」


アビックが、ダンッ!と椅子に足を載せ、マサルに顔を近付ける。

目が座っている。


「次の高みに至るため、

何をすべきかご指南頂きたく!」


「結構!

お主は、既に目が鍛えられておる。

が、それに振り回されておる。

気は軽く流動し転じるもの、本質を見極める事に慣れよ。

場数じゃ!

だいたい、さっきもやって見せたろうが!

あぁ、これも愚問だったのう!」


酔っ払ったアビックがマサルの背中をバシバシ叩いている。


「しかし、本質とは!」


「ん? これだこれ」


皿の肉をポイと放りあげると、右手の串で複数の斬撃を放つ。

それに紛れて左手から別の串が打ち出され肉に刺さる。


「おぉ~!!」


マサルが、アビックの意を得て感嘆の声をあげる。

府に落ちたようだ。


「欺瞞の範囲が気へ広がったに過ぎん。」


落ちてくる肉に、エルがお魚のようにパクりと噛みつく。


「?!!!

わはははははは! エルー!!」


アビックは大笑いしながら、

串が喉に刺さらないように素早く引き抜くと、軽々とエル抱き上げて頬擦りし始めた。


「おいしい~!」


チクさんところの、一等豚のサイコロステーキである。間違いない。

その様子に、周りの爺さんたちもニコニコしている。



そんな中、突然、

アビックが右手を端のテーブル方向へ伸ばすと、そこに座っていたローブの男が瞬間吸い寄せられ、アビックに首根っこを押さえられる。


「グェッ!! 何をっ!!」


「今宵は気分が良い!

お主ももっと飲むがよい!


・・・だが、

我が社たるこの地で狼藉働こうものなら、王都の如き始末では済まさぬぞ、

魔王勇者よ!!」


酔っ払ったアビックが顔を近付けて睨み下ろす男の額に、折れた角の幻影が光りチラつくのだった。


「「「えぇーー??!!!!!」」」




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