秋祭り カボチャとチャンバラ
「また、負けた!!!」
アビックがガックリと膝をつき崩れ落ちていた。
エルがアビックの肩をポンポンと叩いて慰めている。
「わっはっは!!
まだまだ、若いもんには負けんぞ!!」
コウスケじいさんが表彰台に片足をかけて、トロフィーを掲げている。
秋晴れの高い空に、お昼前の眩しい太陽がコウスケ爺さんを逆光で照らしている。
さて、この場は村の農作物品評会。
中でも、目玉となる巨大カボチャ王決定戦会場。
村中のオヤジさんが優勝者のコウスケ爺さんに拍手を送っていた。
アビックのカボチャは、エルが被れるほどある巨大カボチャ。
対する、コウスケじいさんの方は、シャーリーちゃんがすっぽり入れる程の非常識サイズ。
「コウスケじいさん、ハンパないって!
普通のカボチャ、めっちゃ巨大にするもん、あんなのかまくらじゃん、ほとんど!」
かまくらと言われた方がサイズ感として、近い。
アビックは劇画調の雰囲気で悔しがっている。
「お父さん・・・
おぉ、ブザマ、ブザマ。
悔しいのう、悔しいのう。」
エルは、いちおう、慰めているつもりである。
「闘神、負けるの嫌。。。」
インディアン嘘つかない!みたいに言う。
ちなみに、コウスケじいさんにはまだ一度も勝てた事がないアビックだった。
「さぁ、アビック!
今年も、チャンバラ大会に出て貰うぞ!」
「えぇ、またー?!」
「当たり前じゃ!
お前が兵士にも勝つもんだから、周辺の村からも参加者が集まって大変なんじゃ!!」
コウスケじいさんが、ビシリと指差す先には田舎村には似つかわしくない、武芸者たちの大行列。
みな、受付に並んでいる。
「約束だから、出るは出るけどさぁ・・・」
明らかにカタギではない盗賊みたいな見た目の奴に、街のゴロツキのように目をギョロつかせた男、はたまた、王都の兵士に、騎士までいる。
(弱そう・・・。)
アビックは毎年開かれる秋祭りチャンバラ大会の、6連続チャンピオンである。
アビックがこの村にやって来た年は、お金がなくて周辺の腕自慢大会・武芸道場を荒らし回り賞金で食い繋いだ経緯がある。
結果、アビックが毎年参加し防衛を続ける、この村のチャンバラ大会の権威が、・・・うなぎ登りであった。
ギロリッ!
武芸者やゴロツキからのヘイトもウナギ登りであった。
参加者は激増し、参加費の一部から捻出される賞金もウナギ登りであったが、
コウスケじいさんとの勝負に負けて参加させられるアビックは、村興しのチャリティー枠である。
今年は・・・
「俺は、このカンチョーにかける!!」
3バカ代表としてレイモンも出るようだ。
アビックは他の参加者と見比べ、愕然とする。
「え?!・・・、あいつ、
いい線行くんじゃないか?」
・・・
そうなのだ。
レイモンはいい線行くのだ。
総勢100名に及ぶチャンバラ大会。
ルールは体のどこかに紙風船を付けて、折れやすい木の棒で風船の破壊を狙いあうという単純なルールである。
ちなみに、素手での攻撃も有効である。
予選は残10名程度になるまで、バトルロイアルで数度行われる。
「ドリルカンチョー!」
「ギャー!」
パンッ!
小型で高機動な体に、強力な攻撃力。
子どもならではの無尽蔵なスタミナ。
あちこちで悲鳴が上がり、直後に風船が割れる音が響くのだった。
当然のように予選免除であるディフェンディングチャンピオンのアビックは、お立ち台上で巨大カボチャと並んで予選の様子を眺めていた。
「ふむ。」
「レイモンすごいね~!」
エルも並んで、台から足をバタつかせている。
ルールは雑で、いくらでも粗っぽくなりそうなものの、予選は比較的クリーンに進んでいた。
むしろ、レイモンが最も反則くさい。
目立つのは、本領騎士、本領兵士、無所属剣士、戦士、短剣冒険者、怪しいマント剣士、完全アウェイだろうに頑張る魔術師に・・・挙動はあれだがセンスが光るゴロツキ 辺りか。
あとは、
村の兵士デイビッド、3バカ筆頭のレイモン。
バラエティーに富む、この辺の10名に収束しそうである。
だが、
「お父さんが勝ちます!
かかって来なさい!」
そうなのである、アビックが勝つ。
問題は、誰に勝ったのかである。
諸々を端折って、チャンピオン争奪戦。
「我は、
ヴァルデマー流、免許皆伝、
王国騎士団長 マーセラス・ヴァリアンである!
一手お手合わせ願う!!!」
通称、マサルさんである。
声が、デカイ!
太鼓のように腹に響く。
マントの剣士装束であり、具足は付けていないが、体の厚み・出来が違う。
「「「おぉおぉおおお!!」」」
歓声は大きいが、たぶんみんなよく分かっていない。
単にノリがいいだけである。
一方、真っ当な武芸者やゴロツキは、ゲッ!という表情をしている。
王国騎士団長の参戦、
絶対に、ウェンディや爺さん達から情報が流れ、遠足で特定されている。
ジト目で先生の方を見ると、目を逸らされる辺り、確定である。
「どーも~、農夫のアビックです~。」
適当に流そうとするのだが、
「お父さん! もっとカッコよく!!」
エル様がご立腹で、お立ち台に仁王立ちだ。
「・・・サーセン!!!」
アビックは一度、背筋を伸ばし型を緊張させ、続けて弛緩。
いつ動いたのか分からない程、静かに速く、右半身、左足一本立ちに右足は胸元まで引き上げられている。
右手は斜め前方へ、左腕は大きく円を描き、拳が額辺りに収まる。
型の入りである。
「えーと、我は・・・、
我は、
オールーン宮殿 剣拳術指南役」
上がった右足を前傾動作に合わせて踏み込み。
同時に腕を交差させ、右手で顎を覆い、左手で突き。
右足の着地と同時の発気により、地面が鳴動し圧が生じる。
全員が気圧され、村人の多くが尻餅を付いている。
右半身、右足前傾から、左足重心へ、
重心が乗った所で右足を引きつつ、左半身に移行しつつ右肘をあげ上方の円を、左腕は下方の円を描き無限気道を成す。
右足の着地で再度、発気。
もはや立っているのは、マサルぐらいである。
アビックもノってきたようで、口上にも迫力が増す。
「剣拳武神たる カムス流 が 宗家!!
アビリニア・ステファノス・リュクイエム・ラーミル である!!
われが振るうは、神を倒す神のケン!」
「ヒュー!!
お父さんカッコいい~!!」
エルが合いの手を入れる。
アビックがそれに答えて、木の棒を持っていない左手をニギニギして答えている。アホだ。
「?!!」
マサルは驚愕していた。
いや、親バカに驚愕したのではない。
そっちではない。
気の流れを視認できるマサルの目には、アビックの型が進行するにつれ、周辺大気・大地から急速に気がアビックに流れ込む様子が見えていたのだ。
無限気道で収束・圧縮・加速され続けている気が、今にも放たれそうである様子が見て取れる。
それは、導火線に火の付いた大砲の前に立つのと似た恐怖である。
「これは、盾が欲しいな!」
無論、盾ごときで防げはしないが、それでも立ち向かおうとするマサルの軽口である。
「いくぞ!アビックどの!」
マサルは、
左腕を捨てる覚悟で、タックル気味に距離を詰める。
収束した気による攻撃を覚悟した突貫。
「おぉおおおお!」
だが、
無限気道は複雑にほどかれて回転、アビックの動きを強化、動線の欺瞞、牽制、此方へのデバフ、とマサルが認知できる範囲でも幾多も同時並行で変化していた。
もはや、訳が分からないまま、上半身を付き出した状態に足払いを受けて地面に転がる。
「足元がお留守ですよー、パイセーン!!」
パン!
胸元に付けた紙風船がアビックにより割られて、チャンバラ大会のアビック7連覇が確定したのだった。
「イエーイ!」
「お父さん、やったー!」
収束圧縮された気は、アビックがエルに向けたブイサインに合わせて盛大に空に向けて吹き上がるのを、倒れたマサルは見るのだった。




