悪巧み ~王都遠足 前日譚~
その男は、
ウーベル王国の隣国、マハン自由連合国で召喚された戦士であった。
召喚に際し、代償とされた生け贄、魔力、時空に穿かれた穴に殺到する無尽蔵の力がその存在に絡み付き、この世界において人智を越える力を成していた。
使用者本人にも御しきれぬその力は、本人の苛立ちをその様相に反映させ、禍々しいものとして他者から認識される。
その振る舞いもまた、禍々しく、ただ汚く魔力をぶつけるだけの戦い方で敵勢力を圧倒してきた。
故に、彼が戦場に立てば、"魔王" と呼ばれた。
いつしか、
その呼び名が彼自身の在り方を歪め、彼自身も魔王を自認するのだった。
「やっと、ウーベル王国か。
6年前の轍は踏まんぞ。」
「はっ、そもそも彼の国は総戦力はたいした規模ではありません。しかし、先の戦いで認められた、強力な少数部隊が有るものと予想されます。その所在は、恐らく王都中央。」
王国の地図を囲んでソファから身を乗り出すように6名の軍人が議論している。
一人が、赤い駒を王都に配置する。
「認められといっても、無力化された大隊の証言だけであろう。何にやられたかも分からぬなどと。」
「謎の少数精鋭戦力などと、的外れな憶測だ。
ガスであろうよ。あの周辺は温泉地であったろう。」
トントンと、机を叩きなが一人がローブの男が反論する。
「いや、本件のために公開され資料を見るに、交戦の痕跡は実際にあったのだよ。
ひしゃげた鎧に盾、折られた剣。
単純な力による圧倒の痕跡だったようだ。」
「おいおい、それはまるで・・・」
参加者の視線が "魔王"に集まる。
「俺じゃないぞ。」
「知っていますよ、セージ。
その時、我々は此方で帝国主力を潰していたのですから。」
6年前の戦いでマハン連合は、ウーベル王国とテラン帝国の連合軍と戦い、圧倒的な武力により、帝国を滅ぼした。
予定では、帝国軍を素早く圧倒した勢いで、布陣するウーベル王国軍に攻撃し、誘い出された王国軍へ、迂回させていた大隊が背後から挟撃を仕掛けるはずだったのだ。
それが、大隊が壊滅した事で、頓挫した。
ウーベル王国への侵攻はそこで止まり、終戦となった。
「セージに匹敵する戦力への警戒か、そりゃあ足も止まるか。」
「王国騎士団の主力でもない部隊というのが、解せんがな。」
主力騎士団は、何しろ目立つ。
「いずれウーベル王都、ベリダは落とさなければならない。
あそこからは、俺と同質の力を感じる。
それが手に入れば、俺は更に強くなれる!」
静かに、だが歪んだ笑みで、男:セージは拳を握る。
「うちのお偉いさんとしては、その力がセージのように実際に運用される事を危惧しているのですがね。
移動の痕跡がないことから、何らかの物体に宿って保管されていると思われます。」
お手上げと言うように両手をあげる細身の男。
「目的は力を宿す物体の奪取。
武力制圧が目的でない以上、前調査、実行も隠密を基本とするのが無難でしょう。」
「うむ、隠密がばれても、セージに暴れて貰えばいい。」
「敵首都の身のうちに、3軍を上回る"魔王"を降臨させるのか!!」
「「「わっはははは!!」」」
「それは、見物だ!!
王都は火の海だな!!」
「最初からそれでも、俺はいっこうに構わんぞ。」
彼らの目が火に染まる王都を想像して、怪しく光る。
「いや、ここは慎重にいこう。
草を潜入させ事前調査。」
白い円錐状の小駒が王都に置かれる。
「当たりがついた報を待ち、我々が順次合流。」
白い小隊駒が置かれる。
「敵勢が手薄となる、騎士団定期遠征のタイミングで決行。
謎の精鋭部隊があったとしても、警備は減じられる。
これでいく。」
ニヤニヤしながら、うなずく面々。
「"魔王"様は、重役出勤だな。」
最後に、軍を示す大駒がセージの手で王都に置かれ、配置してあった目標を示す丸駒を手に取る。
・・・・
だが、彼らは知らなかった。
決行にあたり、意気揚々と飛行して参集に来たセージは、出落ち気味にアビックの居合斬撃で打ち落とされる。
右腕を叩き切られ力の大部分を失い、
無様に地面を転がりながらたどり着くのは、南外壁門。
痛みと右腕の理不尽な損傷に怒り、暴れたところで力も出ずに守衛にボコボコにされる。
捕縛・簀巻きにされ、兵士団詰所の牢にぶちこまれ、仲間が必死で脱獄を図る。
・・・そんな事になるとも知らず、
悪い顔で大笑いをしているのだった。
「ああぁ、今日も酒が美味いぜ!!」
ザマァ! こっちも酒が美味いぜ!!




