王都へ遠足に行きましょう10
遠足組と合流すべく、騒ぎと逆方向へアビックたちは歩いていた。
アビックにお姫様だっこされて、エルは眠ってしまっていた。
そりゃあ、これだけの盛りだくさん、疲れもする。
「おぉ父ーさん・・・」
「んー、どうした~」
エルの寝言に対して、
アビックは歩みを止めずに答える。
「・・・謝ってぇ~」
「?!!」
「何にだよっ!」
隣を歩くレイモンも、ツッコミを入れずにいられなかったようだ。
エルは寝ぼけて、ワシワシと中空の何かを両手で掴む動作をしている。
「うぅ~ん」
エルさん、お疲れだ。
「レイモン・・・」
「ん、なに~?」
「俺も、眠くなってきた・・・」
「寝るなー!カンチョウするぞー!」
そうこうするうちに、王都南区の噴水広場。
遠足一行が帰路に向けて集合していた。
アビックがベンチに座って待っていた先生に向けて会釈すると、夕刻を告げる時計台の鐘が鳴りだすのだった。
ほんのり空が色づき初めているが、まだまだ空は澄んで青い。
・・・遠くからはまだ、脱走犯たちの法術が爆発する音が散発的に聞こえていた。
「レイモン君とエルちゃんも時間通りに合流出来ましたね。
さあ、あちらに向かって一列に整列してください。」
先生が号令をかけると、
「「「 サー! イエッサー!! 」」」
瞬間、思い思いに遊んでいた子どもたちが整列する。
「はい、諸君が整列するまでに4秒かかりました。」
「・・・ちくしょう!!!
「3秒の壁は厚いぜ!!!」
「惜しかった。。。」
地団駄踏んで悔しがっていたり、
数名、絶望したように膝から崩れ落ちてる。
本気過ぎる。
「それでは、王都に 礼!」
「「「 ありがとうございました!! 」」」
整然と一礼。
「カンチョウ被害者のみなさんへ、謝罪!!」
「「「ゴメンね、ゴメンね~!!」」」
整然と舐めてる。
レイモンたち3バカの声が音割れするほど響いている。
近くの市民、商売人が手を振ってくれている。
当然だが、被害者の方々は、族を追い立てる方の野次馬になっていた。
「では、転移しますよ。
集まって~。」
先生が右手を上げると、ワチャワチャと子どもたちが集まる。
アビックもエルをだっこしたまま、そこに集まる。
「では、再会を祈りつつ、お別れの挨拶!」
「「「 アイルビーバック!! 」」」
「草」
みんな右手親指を高々と掲げる。
先生の転移法術の光が一行を包み込み、瞬間眩く光る。
光が収まると、既に転移は完了していた。
騒がしさの根源が途端に失われ、決して静かではないはずの広場なのに、音が消えたような喪失が生じていた。
その様子を眺めていた数名の市民が、笑顔のまま一息を吐き出すと、それぞれの生活に戻って行く。
ポッカリと開いたスペースも人が動きだし、徐々に充足されていく。
・・・・
代わりに、村の広場に騒がしい塊が現れるのだった。
「「「 うちの村よ、私は帰って来た!! 」」」
「先生、絶対に異世界転生でしょ。」
アビックが半笑いで先生に問いかける。
「何の事でしょうね~?
さぁ、相棒確認! 相方が欠けた人はいないですね?」
比較的大きめの上級生が、チンマリした下級生の相方の手を取っている。
気付くとアビックとエルの所にも相方のシャーリーちゃんが来ていた。
「ありがとうね、エル寝ちゃったよー。」
腰を落として、シャーリーちゃんに寝ているエルの顔を確認させる。
「うん、よしよし」
エルの頭を撫でて、ついでに、膝をつき腰を落としたアビックの頭も撫でられた。
「よく頑張りましたね、坊や!」
「なんでやねんっ!」
「キャハハ!!」
「はい、みんな揃っていますね。
では、撤収!! みなさん、さようなら!
気を付けてお家に帰ってください~」
「先生、さようなら!
家に帰るまでが、遠足だぜ!!」
やはり、カンチョウ警戒姿勢の3バカ。
元気が有り余っている。
「シャーリーちゃん、一緒に帰ろうか。」
「うん!」
シャーリーの家はアビックの家のご近所200m。
「今日は、おじいちゃんへのお土産いっぱい買って来れたんだ!」
「へぇ、何買ったの?」
「ブラジャー!」
「ブッ!!!」
「じゃなくて、湿布!!」
「あぁ! そりゃいい、コウスケじいさん喜ぶね!」
そう、シャーリーちゃんは、コウスケじいさん家のお孫さん。
「うぅーんん」
エルが寝ぼけて、また中空の何かを掴もうとしている。
「・・・お父さんの、ばかぁー」
「「あははは」」
そんな感じで、
夕が暮れ切る前に家に帰りつき、遠足は完遂されるのだった!
「ちゃんとウネ作ろう。。。」




