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お父さんは神様です?!  作者: 浴衣
1/7

畑を耕す

 大地を湧き立たせる程の衝撃が、瞬間100m程の距離を一直線に走った。


「ほい、ほい、ほい。」


 リズミカルな掛け声と同調して、続けざまに衝撃が走る。



 アビックは、畑を耕していた。

 クワを振るった際に生じさせた斬撃によって。


「ほい、ほい、ほいっ!」


 斬撃の威力は凄まじく、射線上にある森、小さい丘、大岩さえも跡形もなく平らに整地してしまう。

 最早、耕作ではなく開墾である。


「お父さーん!」


 女の子、エルがアビックに呼びかける。


「ん~、どうしたの?エルー?」

「お父さん、ちゃんとクワを使って耕さないとダメだよー!」


 フワフワとした髪の、女の子が畑に続く路地から呼びかけてくる。


「え?ちゃんと使っているよ?」


 麦わら帽子に、首元にタオル、農作業着という完全装備のアビックは、「ほら」とでも言うかのように、クワを掲げてクルクルと回して見せた。


「だって、みんなそんな耕し方してないよ!怖いー!」


 エルは7才。

 アビックが撃ちだす斬撃に怯え、半泣きになっている。


「えぇ?!」


 今にも大泣きしそうなエルの様子に、アビックはうろたえ、エルの元へと数10mを一飛びで駆けつける。


「エルさん・・・。」


 アビックは、軍手をとると泣き出しそうなエルの頭を優しく撫でて、続ける。


「農耕技術は日々進歩しているんだよ!」


 訳の分からない事を言い出す。


「進歩?」

「そうさ! エルがこれまで見ていたものは昨日までの、耕し方でしかないのさ!」

「?」


「今日、僕は新しい畑の耕し方を編み出したんだ! これは、進歩だよ!」


 そう言うとアビックは、クルクルとクワを回すと、柄の端を右手だけで握る。

 エルは、目に涙を浮かべたまま、アビックを不思議そうに首を傾げて見ている。


「いやぁ、この耕し方を編み出すのは中々難しかったんだよ。」


 片手でクワを素振りして見せている。


「ほら、見てごらん。このクワという道具は、刃先だけ鉄で、柄の部分は木なんだ。」


 エルが頷いている。


「力のかけ方を気を付けないと・・・」

「うん」

「なんと、・・・衝撃派を出すときに柄の方が折れちゃうんだ!」

「わぁ!」


 そんなものを出す必要は全くない。



「いやぁ、僕は考えたね。こんな脆弱な武器、中々使わないからね。」


 先ほどの斬撃で分断された森から背後の森へ、狸の親子がこちらをチラ見しつつ移動していった。

 いい日和である。


「コツは、柄の木の目に対して垂直ではなく水平に力をかけることなんだよ~。」


 アビックは得意げにクワを構えると、鞭がしなるような動きでクワを背面から正面へ振るう。


「おぉ~」


 エルは、明後日の方向に熟練したアビックの動きに感嘆の声を上げる。

 洗練された達人の動きは、例え相手が素人や児童であるとも、その心に何かを訴えるのだった。

 目的に対して、手段を履き違えている訳だが。


「しかし、村のみんなはすごいよね。こんな形状のクワを使いこなすなんて。」


 正眼に構えたクワの歯がキラリと光る。


「この形状では、真空斬撃飛ばし難くいんだよねー。斬撃派飛ばすには、ここで捻って力を前向きにしてやらないとダメなんだけれど、捻りすぎるとまた柄がもたないんだよね。」

「そうなの?」

「あぁ、そうさ! お父さんでも、30分かかっちゃったよ。剣や刀の方がやり易いのにね。この村の人たちはスゴイこだわりを持っているんだね。」


 そう言うと、先ほどの鞭のような動作から、素早くクワを振りぬく。

 加速するクワの歯先が、片口の付近から乱流をまとい、一気に加速しつつ前方に殺到していく。

 クワが地面と一直線になった瞬間、圧縮された空気が弾け、”ボッ”という音を鳴らす。

 真空斬撃が前方に指向性を持って伝わっていく。

 進行方向の大気・大地、その他諸々を粉砕しながら。


「おかげで、新しい技が出来ました。農耕の進歩だねー。

 だから、エルが見た耕し方じゃなかったんだよ。うんうん。」


 アビックはクワを肩に担ぐと、ブッ飛んでいく斬撃を満足そうに眺めて頷く。

 エルも、今では目を輝かせながらアビックの話を聞いていた。


「きっと、空気と混ざっていい土になるんだよ?」 

「あのね! 川向かいのおじいちゃんが、雷が沢山鳴った後は、いい土になるって言ってた!」


 エルは、得意げに村の大人から聞いた知識を披露する。


「おぉ! コウスケさんは雷属性法術まで組み合わせるのか! あそこの実りの良さはそのせいか!流石~! エル! いい情報をありがとう!」

「うんっ!」


 そう言うと、エルの小さい手とハイタッチする。


「イエーイ!」

「やほーい!」

「よーし! 帰っておやつにするか!」

「帰るー!アニーお姉ちゃんに貰ったクッキーがあるよー!」


 ひょいとエルの腰を抱えて、肩車する。 

 アビックが抱えるクワには一切の土がついておらず、真新しく陽光を反射していた。



 ・・・翌日。


「畝が出来とらんな。やり直しじゃ!」


 コウスケじいさんから真っ当なダメ出しが入ったのだった。

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