1部【思わぬ夕食】
また数ヶ月・・・
部屋に辿り着く。
そう言えばやっとのこと帰ってきたともとれるが、実際のところはあまり帰りたく無かった。
これに尽きる。
大学の講義も終わり、速水さんに連絡も入れて、適当に歩きながら帰る。
あまりにも憂鬱なだけに帰りたく無かったのだが、そうも言ってられない。
さておき、部屋に着くと近くの駐車場から九花と速水さんが歩いてくるのが見えてきた。手には色々な雑貨やら何やらが入っていそうな袋をこさえている。
決して食料とかそういうものでは無さそうだ。
「講義、お疲れ様」
速水さんより労いの言葉をかけてもらうが、あまり嬉しくない。さっきの通話みたいな喋り方を普段からしていれば、多分モテてると思うのだが、勿体無い。
まぁ、好みではない美人さんなので、そこまで追及することもないし、最終的には村石辺りが何とかするだろう、宛がうなり貰うなり。
「そちらこそ、色々な物を買ってきたみたいで、お疲れ様です」
「いえ、私たち女性は買い物が好き、この程度なら大したことじゃない」
私たち、ね。
思わない所が無いわけではないが、今はスルーする。
スルーしておいた方が、今後の事を考えて、まだいい。
「それと、先程村石から連絡があった。もう少ししたらここに来るらしい。『大学では逢わない様にしていたが、結局会うことになりすまない』とのこと」
これは嬉しくない報告だ。
「やっぱり、あの方が関係するとあまり気分が良くないでしょうか?」
あの方・・・というと、今回は村石か。
「まぁ、そりゃあね」
いけすかない。
やはりというか、まだあの簀巻状態でトランクに詰められたことを根に持っているし、それに関しては速水さんに対しても同様だ。気付けば内心、「村石」と呼び捨てにしてる位だ。そう言えば、警察署で初めて会った時は速水さんも「村石さん」と呼んでた気もするが・・・本来は呼び捨てなのだろう。
というか、自分の一人称が警察署に行く前は「僕」だった気がするけど、たった一日で「俺」に変わったんだよな・・・。
それはさておき、夕食をどうするか?
個人的には村石にとっとと速水さんを引き取ってもらって夕食の準備をしたい。
今日から二人分になっているから、早めに取り掛かりたいのだ。そもそも、朝の段階で冷蔵庫の中身が無くなっているし、元から今日は買い出しに行かねばならなかったし、購入する食材も増えている。
手っ取り早く済ませたい。
その為には村石と速水さんには早く帰ってもらいたい。
そんな思考に耽っていると、嫌な爆弾が投下される。
「せっかくだし、今日位は一緒に食べていきませんか?」
・・・今、何と言った?
一緒に?
食べていきませんか?
いやいや、いやいや、いやいや、いやいや。
それは無い。無いったら無い。
「いや、さっさと帰れ」
あまりの動揺に素の言葉になってしまう。
そんな言葉を聞いた九花は、凄く悲しそうな眼で、涙ぐみながら自分を見ている。それはもう、雨の中に捨てられた子犬の様な眼で、ぷるぷると震えながら、それはもうこちらが罪悪感を感じるレベルで、黙ったまま、じっとこっちを見ている。この視線から逃れたいけど、何故か逃れたら敗けの様な申し訳ないような、言葉にならない感情が自分を責め立てるというか、自分で何を考えているかも判らなくなってしまっているが、とにもかくにも断りたいけど、一度断ったけども、何としても断り続けたいけども、いっそのことこのまま外に駆け出して一人で外食でもしてやろうかと思っているけど・・・無理だった。
「・・・九花さん、やりますね」
速水さんが何か戦慄しながら呟いている。
いや、確かに戦慄することはおかしくないけど、そこは自分等から断り入れる所だろうよ。
てか、村石は何やら思案顔してるけど、内心「まぁ、いいっか」とか思ってんだろ。その顔はポーズだろ、畜生。
「・・・おや、君も私の心が読める様になってきましたか?」
「知らん」
さておきだ。
「で、結局誰が作るんだ?九花はまだ料理禁止だぞ?」
「じゃあ、わた・・・」
「僕としては君の料理が食べてみたいかなー!」
速水さんが立候補しかけたところで村石が自分の料理が食べたいなぞとほざきやがったが、これはあれか?
村石に視線をやると、「その通り」と言わんばかりの視線を一瞬だけ返してくる。
・・・・・・マジか。
自分の中でまた一つ、速水さんに対する印象が悪くなったと思う。あと、これはもう選択肢が無いだろう、恨むぞ村石。
自分が作るとなった以上、変なものは作りたくない・・・が、可能な限り簡単にしたい。人数多いし。
となると、思い浮かぶのは鍋。
カレーも多人数には向いているが、じっくり煮込みたいのと地味に辛さで意見が割れるのと、ご飯を倍は炊かないといけないから面倒なのと、様々な理由により却下だ。
なれば、大盛パスタや冷やしつけ麺みたいなものもどうかとなるが、冷やしつけ麺に関してはタレに自信が無いしパスタは多人数様になると大味になってしまいがちなので避けたい。
だからこそ、最初に挙げた鍋となる。
鍋も大味だろうという意見も出るだろうが、自分が作るパスタに比べればマシなので勘弁してほしい。
鍋にする以上、何の鍋にするかが問題なのだが、作れる鍋のバリエーションは多くない。
キムチ鍋、もつ鍋、水炊き、白菜鍋の実質4種類だけだ。
今更だけど、季節は初夏。大学の前期考査手前で微妙に忙しい時期だ。さておき、そんなビミョーに蒸し暑い季節に鍋と・・・しかも多人数。気分は宜しくないが、ここは思い切ってキムチ鍋にしようか。暑いなら暑いなりに辛いもので行こう。ついでに、カプサイシンかどうかは判らないが、辛いものはストレス発散にも良いらしい。
であれば、胃に穴ができそうだが、出来てないなら辛いものがいい。
「じゃあ、買い物に行ってくる」
正直、この面々を残して一人買い物に行くのは凄く嫌だが、だからと言って全員で行ってご近所さんから噂されるのはもっと嫌だ。まぁ、既に噂されているかもしれないけれど。
購入するものは・・・100円キムチ5袋に白菜一玉、玉葱(一袋3つ入り)、韮一束、モヤシ2袋、長ねぎ(一束2本)、椎茸(一パック6個入り)乾燥にんにくチップ、豚コマ500グラム、白滝二袋、うどん4玉・・・まぁ、こんなものか。
少なかったら村石の量を減らせばいい。
ご飯も一応は5合炊いておいたし、問題ないはずだ。
会計を済ませ帰宅。
速水と九花が何やら話しているが、内容的には今日の買い物と足りない物についてみたいなので、取り敢えずはスルーしておく。
村石の方は、何か窓から出て黄昏ている。女性二人の会話についていけなかったのだろう。理解と同情はしておく。
そんな光景を尻目に調理を開始する。
とは言え、大した事はしないのだが。
まずは玉葱や長ねぎ、椎茸、白菜をカットしておく。
次に白滝を袋からザルに出し、水で簡単に洗っておく。
その過程で鍋に水を入れてにんにくチップを落とし込み、弱火をかける。
火をかけている間に豚コマをトレーから取り出しておき、白滝の水気も切っておく。ついでに韮も食べやすいサイズにカットしておく。
鍋から湯気が出始めたら、カットした韮と椎茸を入れて濃口醤油を小匙一杯垂らして、蓋をする。
それから、フライパンにほんの少し油を引き、豚コマを簡単に炒め、途中でキムチを二袋程投入、一緒に炒める。
鍋が沸騰し始めたら、残りのキムチと野菜、炒めたフライパンの中身を投入する。
程よく煮立てば白滝を入れて完了である。
うどん?
勿論〆なので、最後だ。
「うん、なかなかいい匂いだ」
村石が部屋に上がりながらお世辞を宣う。
「いや、本音なんだけどね?」
「出来ましたか?」
九花が尋ねてくる。
「あぁ、一応完成だ。食器とかの準備を頼む。あと、飲み物は水出し麦茶でいいか聞いてきてくれ」
「麦茶を拒否されたら?」
「その時は水のみだ。もしくは自分で買ってこさせる」
「分かりました」
そうやって、4人で食卓に着くのであった。
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