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そして彼女と出逢った  作者: 霜月 時雨
プロローグ
5/11

1部【そして大学へ】

永かった・・・


ざぁー。


シャワーの音が居間に聞こえてくる。

シャワーを浴びているのは九花だ。


そして、居間には自分と、速水さんがいる。

火燵を挟んで真向かいに座って、こちらを見ている。

訝しげに。


そりゃそうだ。

彼女が入る直前にドタバタしながら九花を浴室に押し込んで、速水さんに対応するまでの時間、およそ10秒。体感時間5分位。

そんな状態で速水さんを部屋に入れれば・・・何かあったのではないかと疑われても仕方ないだろう。

ある意味では助かったのだが・・・。


あまりにも視線が冷たすぎるので、視線を合わせぬ様、そして自分を温める様に珈琲を用意する。もちろん速水さんにもだ。


「どうぞ」

「ありがとう」

会話が続かない・・・というより、出来ない。

村石はよくもまぁコンビを組めるものだ。そこは敬意を表するよ・・・。

「村石とはそこそこ付き合いが長いので」

村石と同じように心を読まないでほしい。

「仕事柄の特技」

・・・何も思うまい。


さて、それはともかくだ。

速水さんが来たならば、九花が出かける準備を終え次第大学へ行ける様になる。ゆっくりと一人を楽しめる。友人?もちろんいるが、可能なら今は一人がいい。昨日の今日で精神的に参ってるからな。

最終的には九花も大学へ行く様になるので、その一人の時間も無くなってしまうのだ。

それくらいの我儘を許してほしい。

「一応の確認ですけど、九花をいつから大学へ行かせるのですか?」一応は丁寧に。

「確定では無いけど、おそらく来週位から。村石がその件で今日は動いてる」

あぁ、なるほど。だから今日は来てないのか。

ん?

「ということは、村石さんは大学へ出向いてるのか?」若干素が出る。

「多分、今頃大学のお偉いさんと会談中。今から行けば、会うこともあるかも」

ヤバい。講義をサボりたい。単位に余裕があったり、今日は一回位サボっても問題無い講義ならサボってた。

「あまり会いたくないな」

本心から思う。

「一応、村石も気遣いもできるのか、あまり会わないよう動くとは言っていた」

地味に辛辣である。

とにもかくにも、可能性があることだけ頭に入れておこう。

そんな、会話とも言えない会話をしていると九花がシャワーを終えて戻ってきた。

「こんにちは、速水さん」

「こんにちは」

「今日はどちらに行かれますか?」

「九花さんの必需品を購入しに行く。一晩だけで判るか不明だけど、足りないと感じたものがあれば教えてほしい」

「そうですね・・・やはり私の服と食器類ですかね」

「なるほど」

「オシャレしたいのもありますが、やはり女性として同じ格好を続けるのは抵抗がありますしね」

「当然。それなら、化粧品も必要」

等と、二人は恙無く会話を続ける。


ここ、自分の部屋・・・だよな?

無愛想な速水さんと人外の九花のガールズトークby買い物、意外性を感じつつも疎外感も味わう。


とは言えだ。

九花もこの世界における常識をある程度把握しているように思える。

必要なものとして挙げた食器と服。

全く常識のない者ならば、それこそ不要と切り捨てている部分だろう。それに、速水さんの提案した化粧品についても納得しているように見える。

言ってしまえば女子力というものだろう。

そういった面でも九花は既に一人でやっていけるのではないかとさえ考えてしまう。


さておき。

そろそろ大学の方に向かわねば。

「話が落ち着いたら出たいのだけど・・・」

「そう、そんな時間」

「そうですね。遅刻したらいけません」

こちらの提案に二人が順に答える。


「では、こちらの講義や用事が終わったら、速水さんに連絡という形でいいですか?」

「それで問題無い」

「分かりました、それでは行ってきます」

そう玄関でやり取りをし、二手に分かれる。



「何となく嫌な予感がするわね」

いいも知れぬ予感。普段はそんな曖昧な事は言わないけれど、何となく感じる時に、不意に口に出してしまう。

まぁ、昼前に独り暮らしの部屋を出たら、大量のカラスにじっと見られたり、靴紐が千切れたり黒猫の大移動が横切ったり。

ありふれたフラグというものが私の・・・水城有希の目の前で乱立していたのだ。どんなリアリストだろうと、嫌な予感がよぎるのは致し方ないと思う。

私は一般人、ただの大学生だ。

だから、不穏な事とは一切関わりがなかった。だけど、先程も言った様に、嫌な予感がする。それこそ、今まで平穏そのものだった人生が急転直下するような感覚ではなく、今日からじわじわと真綿で首を絞められていくような・・・。

そう思いながら、感じながら大学への道を歩く。

この道は近所の同期が住んでるアパートの前を通る。

彼も同じ講義を受けてるので、おそらく、このまま行けば、彼と鉢合わせるだろう。

そして、彼の部屋に差し掛かろうとした瞬間、彼が出てくるのが見えた。だから声をかけようとした。でも、できなかった。

彼の後ろから女性が二人程出てきたからだ。

・・・彼は今、彼女が居なかったはずだ。

なのに、何故、女性が二人も彼の部屋から一緒に出てくるのだろうか?聞き間違いでなければ、講義が終われば彼女達に連絡を・・・という彼の声が聞こえてくる。

意味が分からない。

分からないが、どうにか動かなければいけない。

思わず、電信柱に隠れてしまっていたが・・・彼からは見えていないようだ。

彼女達からもおそらく見えていない・・・はず。

そう思った瞬間、


ぐりん


と、冷たい目付きをした大人っぽい女性が一瞬私を見た様な気がした。

その後、さも何も無かったかのように私がいる方向とは別の道に歩いていき、見えなくなった。

そうこうしてる内に彼も見えなくなった。

彼・・・彼と内心では言っているが、私自身は話した事がないし名前も知らない。同じ講義なので名前を頑張って確認しようとしたけど、どうしても知ることができなかった。

そして、たまたま会うことができても私から話しかける事ができずにそのまますれ違う。

彼は・・・私のことをたまに見かける子って位しか認識はないはず。それがもどかしい。

可能なら私から話しかけたい。でも、勇気がない。きっかけが無いなんて、それはただの言い訳だから。

そんな片想いを続けている間に、ついにこの時が来てしまった。

そう、彼に彼女が出来たという事実。

この衝撃は流石に無視できない。無視できないが・・・無視しないといけない。何もしなかった結果だから。


そうグジグジしている間に時間が過ぎていた。

そう、講義に遅れるのが確定する程の時間が経過していた。



「ふむ」

速水は呟く。

何もないようだと言わんばかりに。

「何かありましたか?」

九花が問いかけるが、別にと返される。

誰かに見られていた。

それは確かだが、主に見られていたのは彼だ。

もしかしたら知合いだったのかもしれないが、その場合は彼に悪いことをしたかもしれない。

まぁ、私には問題無いけど。

内心で先程の視線に対して結論付け、次の思考をする。

いわく、何処に買い物へ行こうかと。



そんな事があった事さえ気付かず、俺は大学へ辿り着く。

本来なら「よっしゃー、一人だー」と内心では喜ぶところだが、まだ浮かれる訳にはいかない。

というのも、先程の速水との会話。

その中で今日、この大学に、村石という、不愉快な人間が、来ているとのことだ。

油断する訳にはいかない。

さておき、油断できないからと言って講義を受けない訳ではないので、掲示板で何にも連絡事項がないことを確認して、受ける講義の教室に入る。

・・・どうやら、一人来ていないようだ。

確か、よく講義が同じになる子だ。好きでもないし名前さえ覚えてないが、よく見かけるので覚えてはいる。

見た目は・・・悪くない。むしろ、大学だけで見れば充分に上の方だろう。若干大人しいイメージの子だが、隠れファンは多そうだ。

まぁ、自分としては好みではないし、進んで声をかけようとも思わないが。

熱烈に想っている本人が聞いたら絶望的な表情浮かべそうなことを考え、講義に備える。


淡々と講義は進む。

この講義は出欠自体は取らないが、講義に出てないと試験にて死ぬ。ついでに、遅刻して途中から教室に入ることすら許されない。

だからこそ、この講義を欠席している子が少しだけ気になってきた。

(確か、この講義にはあの子の友達はいないんだったか・・・)

気が向いたらノートでも貸してみようかと、何となく考える。

別に、可愛い女の子だから・・・という訳ではないのだ。


一方その頃。

「はぁ・・・」

件の女の子、水城有希はというと・・・大学構内にあるカフェで不貞腐れていた。

カウンターに座り、コーヒーを嗜みながら、表面上は「優雅たれ」といった感じなのだが、内心では昼前の事で動揺しており、その動揺の結果、講義に出れずに試験がヤバいことになりそうだと冷や汗を服の下で大量にかいており、でもこんな精神状態でマトに講義を聴けるかは不安だったし、と色々諦めた状態である。

そんな内心なのだが、表面上は優雅に装っているので、周囲の目はもちろん微笑ましいものを見るような、お近づきになりたいというような、そんな感じである。

もちろん、その周囲の目の中に、彼女が片想いしている相手の視線なんぞ含まれてもいないのだが。

そうこう一時間位時間を潰して、席を立つ。

今日の講義はまだあるし、それらは彼と同じ講義だ。

正直、あまり受講する気になれない。

「いっそのこと、今日はもう帰ろうかな・・・」

歩きながら一人ごちる。

そんなこんなしていると、学部棟とは別の、法人としての役割を持つ建物の正面玄関から、この大学の学長、学校法人のお偉いさん、そして見知らぬ男性が出てきた。ちなみに、学長やお偉いさんは大学のパンフレットに写真が偉そうな傲慢顔で写っていたので覚えている。

そんな二人が見知らぬ男性相手に胡麻を擂る様に手を揉み、ヘラヘラしている。

正直、気持ち悪い。

それはともかく。


「是非ともお任せください」

「まぁ、あなた方には特にしていただくことはないのですが・・・彼女の入学と入学後のあれこれを自然にしてもらう以外は」

「もちろん理解しておりますよ」


そんな会話が聞こえてきた。

どうにもキナ臭い。

そして、あの二人の態度を見て、ゲストと思われる男性は不愉快そうな顔をしている。

詳細は分からないが、これ以上聞き耳立てて聞くべきものでもないだろう。


そう判断し、私はその場を離れた。






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