1部【朝の準備編】
誰得展開
眠い。
今の状況はその一言に尽きる。
初めて女の子と一緒の布団で寝た訳だが、普通の人間ではないと判っていても、なまじ可愛いだけに緊張して眠れなかった。
・・・彼女の方はそうでもなかったみたいだが・・・。
そこはやはり、人間とは違う感性ということだろう。
朝方になって漸く眠りについたのはのはいいが、すぐに目覚ましが鳴ってしまい・・・その短時間の眠りから目が覚めて、昨日の事が夢であれば・・・そういった期待を持てずに目を覚ました訳だが、当然の様に九花は俺の胸に顔を埋めて眠っており、今日の講義はサボるべきか本気で考えてしまう。
まぁ、選択肢としては、講義に出て現実を見ないという事の方が、個人的にはいいかもしれない。
何せ、この後は速水さんが来る。その時点で非日常の始まり・・・いや、既に始まってるか。認めたくないだけで、昨日の携帯電話を拾った時点で非日常が始まっているのだ。
昨日の俺を殴ってでも携帯電話を拾わせないようにできないだろうか・・・過去に戻れるなら是非ともやりたいものだ。
青くて匂う狗に襲われなければいいけどな。
さておき、速水さんが来るのはおそらく昼前、11時半位だろう。
現時刻は7時過ぎたところ・・・一眠りしたいのはやまやまだが、流石に朝飯の用意と風呂、洗濯くらいはしておきたい。
昨日は結局風呂に入る前にベッドに押し込まれたし、この後二人分の朝飯も用意しなければいけないのだ・・・九花に食事は必要なのだろうか?
まぁ、本人が起きてから聞けばいいし、必要ないなら俺の昼飯か速水さんに処理してもらうかすればいい。
そうと決まれば、早速起きるとするか。
まだ深い眠りについている九花を起こさないよう気をつけつつ、ベッドから降りる。
俺が風呂に入っている間に九花が起きると、事故が起きてしまう可能性があるので、先に朝飯の用意をしてしまうか。
「何があったかなっと」
そう呟きながら冷蔵庫を開ける。
うん、微妙。
一応はお肉のパック(豚小間切れ200グラム)にもやし、焼きそば麺、にんにく、ニンジン、ピーマン・・・有るには有るのだけど、朝からにしては少し重いメニューになりそうだ。そもそも、ご飯炊いてないしな。
まずは米を研ぐか。
ある程度、白っぽいのがなくなったら(完全に透明にすると逆に美味しくないらしい)30分水に浸けて・・・とするんだが、朝なので時間が無いからそのまま時間を置かずに炊飯器のスイッチをつける。
で、その間にもやしを簡単に洗い、水切り籠に入れておく。そして、豚小間を簡単に塩胡椒で味付けをして、にんにくを一かけらみじん切りにする。キャベツが無いのが少し悔やまれるが、代わりにピーマンを細切りにして、小皿に分けておく。
フライパンを温め始め、ごま油を少量垂らす。
油はすぐに温まるので、程よいところでニンニクと豚小間を投入。ある程度炒めたところに今度はピーマンともやしを順次、炒めながら投入する。この時、ピーマンを先にある程度炒めないと火が通らないので注意が必要だ。
そこまでの過程が終われば、メインの麺を投入する。
麺はそのままだとほぐれないので(本来は予め湯がいてほぐすなどしておくとよい)、投入直後に水を少しずつ入れていき、水っぽくならないように注意しながら麺をほぐし、他の食材と一緒に炒めていく。
炒め終われば、余熱で熱しながら焼きそばソースをかけて混ぜれば、自家製焼きそばの完成だ。
・・・正直、朝から食べるものでも女性に出すものでもないのは理解している。
そんなこんなしてる間にご飯が炊きあがるので、一度混ぜて蓋をする。
あとは、九花が起きてくるまでお茶でも飲みながら待つとするか・・・そもそも、何で朝から料理の説明をしているのだろうか?
料理の音と匂いに釣られたのか、九花が起きてくる。
「おはようございます」
いちいち丁寧に御辞儀付きだ。
何となくだが、辿々しさが無くなっている気がする。
「朝御飯の用意までしていただき、ありがとうございます。本来ならお世話になる私が準備をするべきだったのですが・・・」
「別に構わないよ。そもそも、材料や調理器具の場所も分からないだろうから、それはその内してもらえればいいよ」
と、まずは言っておく。
目が覚めて、ダークマターなる物質が出来上がっていたら怖いから・・・とは言わない。
ただ、九花の情報収集がほぼ終わっているであろう状況で、料理のレシピは既に有るだろうことは予測できる。なので、料理の腕と味覚の違いを確認して、問題無ければ・・・任せてもいいかもしれないとは考えている。
「何はともあれ、出来上がりに起きてきてくれたんだ、さっさと食べてしまおう」
「そうですね、いただきましょう」
二人して食卓に着く。
まぁ、食卓と言ってもリビングにある炬燵(もちろん布団は剥いでいる)だ。
ちなみに、このアパートの間取りは1LDKである。
学生の一人暮らしにしてはちょっと広いが、家賃が手ごろだったのでこのアパートを選んでいる。
家賃はなんと4万円。築年数も住み始めた時が4年位。トイレと風呂は別々。風呂は流石に電動なシステムではないが・・・ここまでの条件で4万は安すぎると思う。
多分、何かしらの事故物件だったのだろうが、何の説明も聞かずにそのまま選んでしまった。ちなみに住み始めて2年経つが、今のところ心霊現象の類は一切無い・・・いや、昨日に遭ったばかりか・・・でも、これはノーカンだろ。
と、部屋の説明を終えたところで朝飯は食べ終わったが、その間には特筆すべきことは無かった。
強いて言うなれば、九花の箸使いはぎこちなかったけど、何とかなったという感じか。
実際、会話もせず黙々と焼きそばを食べてたからな、俺も九花も。
本来はここで何かしら話をすべきだったのだろうが、正直眠すぎて何を話すかも纏まらなかったからな・・・言い訳だけど。
「んじゃ、俺はちょっと風呂・・・というかシャワーを浴びてくるから、テキトーに寛いでいてくれ」
そう言って立つと、
「あ、私も入りたい」
と、主張してきた。
ふむ。
「んじゃ、先に入る?」
「折角だし、一緒に入りたいけど、ダメですか?」
・・・
・・・
え?
「うん、俺は眠くて聞き間違えたのかな。九花が先に入るってことでいいのかな?」
「大丈夫、寝惚けてないよ?」
「いやいや、おかしいだろ?何で昨日出会ったばかりの男女がいきなり男の部屋で一緒の風呂に入るとか言い出すんだ?しかも、女の方から」
もちろん焦る。
顔には出てないと思うが、言葉尻で焦ってることは理解してくれるだろう。
ともかく、今の俺には刺激が強い・・・彼女いない歴=年齢でこそないが、童貞ではあるのだ。流石に物怖じはする。
そもそも、そもそもだ。九花の見た目自体は好みである。だが、しかし。彼女はまだ俺にとって安全であると何を以て証明できるだろうか?いや、不可能だ。それを確認するために実験に付き合わされるのであって、安全は全く以て証明されていない。故に、一緒に入れば命の危険が付きまとう可能性もある。何より、昨日の第一声を忘れたとは言わせないし、忘れもしない。
一緒にお風呂に入ることで、あれ以上の酷い言葉を聞く可能性があるのであれば、酷い状況になろ可能性があるのであれば、回避するに越したことはない。
よし、徹底抗戦だ。
「ふう・・・」
シャワーを浴びながら溜め息を吐く。
何とか徹底抗戦が功を奏し、それぞれ別々に入ることを承諾させることに成功した。
普通、逆だと思うんだよな・・・普通は。
それを思うと、今後の心配が増えてくるので考えたくないが、考えざるを得ないだろう。
何はともあれ、九花にはルールを教え込んで、それを遵守してもらう方向で行こう。
そう考え、シャワーを止める。
・・・念のため。
浴室のドアを少し開けて脱衣室を覗き見る。
警戒し過ぎかもしれないとは思う。だが、その位警戒しても仕方ないと感じてしまう。
もちろん、脱衣室には誰もいないし、向こうの扉から覗かれてることもない。
目視で確認してから脱衣室に入る。そして、流れる様に身体を拭く。
最初は髪、そのまま顔、首、左右の腕、胸、腹、背中と順番に拭いていく。男の身体を拭く所を実況して誰に得があるのだろうか?
それはともかく、無事に身体も拭き着替え終えてからリビングに戻る。何も意識せず。
その結果、目撃してしまう。
九花の裸を。
「・・・」
「・・・」
お互いに無言で見つめ合う。
それこそ、目と目が合う・・・という感じで。
少し目をそらし、少しずつ全体を認識していく。
九花の身体は綺麗だった。
昨晩はいきなり携帯電話から出てきて、少しヌルヌルで、あんな言葉をかけられた直後に母親の襲来。
あれはタイミングが悪過ぎた。
そんなことが無ければ、この様にじっくりと見ていたのだ、混乱しながら。されど、今は混乱していない。別の意味で混乱こそしているが、昨日程ではない。
形のよいお椀型の胸に痩せ過ぎず太過ぎない程好いスタイル。白磁の様な肌。見られて恥ずかしいのか、ほんのり紅潮している。先程も触れたが、スタイルといい顔といい、実際はタイプではあるのだ。人間でないことを除けば。
プライドやら種族さえ気にしなければ、この娘を彼女にできる可能性だってある。
もちろん、種族は大事だしプライドも守る。その上、昨日挙げたデメリット・・・村石達との繋り・・・やはり彼女にする訳にはいかない。
という事を考えていると、九花は硬直が解けたのか、隠そうともせず俺の方に向かってくる。一応は長い髪で胸の先端は隠れている。そもそも、ここでじっくり見ていて何故お風呂に一緒に入らないのかと問われると・・・何を言っても言い訳にしかならない。
実際は、俺が見蕩れていて、九花は硬直していた訳では無いのだが。
九花は俺を真っ直ぐに見つめて迫ってくる。
若干照れはあるのか、やはり頬が紅潮している。だが、これ幸いという感じで俺を捕らえようとしている。
捕らえられたら、どうなるのか?
気にはなる。
なるのだが、まだ一線を越えるべきではないと、脳内で警鐘を鳴らす。
九花の右手が俺の頬に触れる。
そして、流れる様に唇を少しまさぐり、手を首の後ろに回してくる。その間に九花の左手は俺の腰に添えられる。
何故か俺がエスコートされるかのように捕らえられる。
反応できなかった。
昨日、あれだけ啖呵を切ったというのに、やはり童貞の維持だけではどうしようもないということか?
少しずつ九花の顔が近付いてくる。
俺はもう、九花から目を反らせないでいた、精神的にも物理的にも。
まだ、自分自身の手は彼女に触れていない。だが、ここで触れてしまえば、先へ進んでしまうことだろう、たった一日で。
それが村石にでも知られたら、何と言われるか。
そして、そのタイミングで・・・またチャイムがなった。
焼そばは試してもいいんじゃないかな?
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