オフトゥン2
「さ、て、と……」
雄太の目の前にあるのは待ち望んだ布団。
敷かれた大きな敷き布団は綿か何かを詰めているのか柔らかく、押すと柔らかな感触が返ってくる。
「ふふ、でも夏は暑そうだな」
「その時は毛布を作ってあげるわ」
「そっか。そいつは楽しみだ」
言いながら雄太は布団に潜り込み、その感触を堪能する。
背中に伝わるふんわりとした感触は藁とは違い、懐かしさが先にくる。
そして、被った羽毛布団は……雄太の感じたことがない幸せな感触を伝えてくる。
固くなく、重くもない。
ただ柔らかな触り心地だけを雄太に伝えてくる羽毛布団は、雄太を早くも夢の世界に誘おうとしてくる。
「羽毛布団って、こんなに良かったっけな……」
雄太とて地球に居た頃は安物とはいえ羽毛布団を使っていたはずだが、あれはもっと重たかった気がする。
感触も、こんなにふんわりしていなかった気がする。
違う。何もかもが、違う。
幸せを感じる雄太の横に、するりとフェルフェトゥが……そして反対側にはベルフラットが潜り込んでくる。
「確かにいいわね、これは」
「ええ、いい……わ」
ぎゅうぎゅうと詰めるように入ってくる2人に身を寄せられて雄太は何とも居心地の悪い思いになる。
一緒に寝ているのはいつものことなのだが、布団というマトモな寝具を使うと……なんだか途端に気恥ずかしいのだ。
「あー……布団、コロナ達の分も合わせて4つ……いや、5つ要るな? 俺も縫うの手伝……」
「要らないわよ、そんなに。うちは一つで充分」
「そう、ね。フェルフェトゥは別の布団でもいいの……よ?」
「寝言言ってると追い出すわよ?」
ベルフラットを牽制しながら、フェルフェトゥは雄太の片腕を引っ張って横に伸ばす。
そして腕をポンと叩くと、そのまま枕にして満足そうに息を吐く。
「おいおい……」
「……私も」
「ぐえっ」
フェルフェトゥよりは遠慮のない勢いでベルフラットも雄太の腕を無理矢理に枕にする。
「……うん、いいものだわ」
「俺、枕作るよ……」
「ユータしか使わないと思うけど、好きにしたらいいと思うわ」
それは自分の腕が枕にされ続けるということだろうか。
そう聞きかけて、やめる。
その通りだと言われそうな気がしたからだ。
「いや、まあ……いいんだけどさ」
諦めたように雄太がそう言うと、フェルフェトゥがクスクスと笑う。
「意外に諦めが早いわね?」
「達観したって言ってくれよ。まったく……」
言いながら、雄太は天井を見上げる。
両腕を枕にされているのでそうするしかないのだが……まあ、不満はあまりない。
動けないというだけであって、フェルフェトゥもベルフラットも美少女だ。
地球に居た頃は、こんな状況など有り得なかっただろう。
コロナの言う通り、「思うところがないわけではない」のだ。
それでも先に進めないのは、やはり。
「なあ、二人とも」
「なにかしら?」
「なに……?」
即座に返ってくる返事。雄太は自分の考えをどう伝えるべきか考えながら、言葉を紡いでいく。
「あの、さ。俺が……俺がもし、二人を見て触れるような能力を持ってなかったら……さ。やっぱり二人は、俺に関わらなかったのかな」
「そんなことない、わ」
少しの躊躇も無く答えたのはベルフラットだ。
ベルフラットは雄太に顔を寄せると、その目を覗き込む。
「私は、優しいユータに惹かれたのよ……能力は、私達の出会いが運命だった証拠でしかない、わ」
「そっか……ありが」
「だから、一緒の泥に溶けましょ?」
「ごめん、それはちょっと」
油断ならねえ。冷汗をかきながら雄太はもぞもぞとベルフラットから距離を取ろうとするが、そうすると反対側のフェルフェトゥと密着する事になる。
そして、そのフェルフェトゥは……雄太を、じっと見つめていた。
「フェルフェトゥ?」
「……そうね。関わらなかったかもしれないわ」
「え」
そんなフェルフェトゥの言葉に、雄太は思わずそんな声をあげる。
「一通りからかって、それで終わりだったかもしれないわね。私が貴方を拾ったのは、間違いなく能力があったからよ」
それは、予想していた答えではある。
神官になれ、とフェルフェトゥは言った。
養ってあげるから、自分を信仰する村を造れと……そう言った。
最初からビジネスライクな関係。それは分かっていた事だ。
「でもね、ユータ」
フェルフェトゥが、雄太の頬に触れる。
「たとえば今この瞬間、貴方が能力を無くしたとして。今更その程度で、逃がしてはあげないわよ?」
「えっと……?」
「私は、貴方自身を得難いものだと思っているわ。何を悩んでるかは想像つくけど……あまり心配は要らないわよ?」
優しく笑うフェルフェトゥに、雄太は思わず衝動的な感情を感じる。
口にすると戻れなくなるような、そんな何かを雄太は感じて。
「……ズルい、わ」
反対側から漂ってきた冷たい気配に、思わず「うっ」と呻く。
「私だってユータが大切だって言ってるのに」
「いや、泥に溶けるのはちょっと……」
「ズルいわ」
抱き着いてこようとするベルフラットを、手を伸ばしてきたフェルフェトゥが遠ざける。
「やめなさい。本気で追い出すわよ」
「嫌よ……」
自分を仕切り代わりにバタバタとやり始めた二人に、雄太は少しだけホッとしたような顔をする。
安心なような残念なような……心、安らぐような。
そんな気持ちを感じながら、雄太は目を閉じた。




