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捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~  作者: 天野ハザマ


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オフトゥン

「……完成した、な」

「ああ。中々の力作だと思うぞ」


 完成した家を見上げ、雄太達は満足そうに頷く。

 平屋の家は雄太作の扉もしっかりと取り付けられ、最初期の頃の建物と比べると格段に上手くなっている。

 

「おー、出来たか」

「ああ、どうだ? 中々いいだろ」

「そだな」


 やってきたバーンシェルはそう言うと、雄太の胸をトンと叩く。


「ご苦労さん。いい仕事だぜ」


 そう言って、バーンシェルは家の中へと向かっていき……ドアを開けると、そこで振り返る。


「あ、そうだ。フェルフェトゥが呼んでたぜ。お前の家に行きな」

「分かった、ありがとう」


 雄太に頷くとバーンシェルは家の中へ入っていき……その後を追おうとして、コロナはふと思い出したように「そうだ」と雄太に声をかける。


「ユータ殿。そういえば、この村の名前についてだが……まだ決まっていないのだろう?」

「そだな。わざとじゃないんだが……」


 なんとなくそういう話をするタイミングを逃していたというか、忘れていたというか。

 日々が忙しくて、そういう事を考えるような思考力も残っていなかったのかもしれない。


「村の名前を決めたら、慣習的にそれがユータ殿の家名となる。意外と知られていない事だが……慎重に決めた方がいい、代々継がれるものだからな」


 そう言い残すと、コロナもバーンシェルの後を追って家の中に消えていく。


「……なるほど」


 前に雄太がユータ・ツキバヤシだと名乗った時に「ツキバヤシ村」とコロナが言ったのはそういう理由だったのかと雄太は納得する。

 しかしそうなると迂闊に「ツキバヤシ」の姓を名乗らないようにするべきなのか、それとも「ツキバヤシ村」としてしまうべきなのか。


「うーん……フェルフェトゥに相談してみるか」


 そんな事を呟きながら歩いていると、何かが頭の上にボフッと乗っかってくる。


「ユータ! 今日のお仕事終わりですか!?」

「あ、セージュ。まあ……終わりかな?」

「ユータは働きすぎだと思うのです。たまには私と遊ぶのもいいと思うですよ?」

「って言ってもなあ……働いてると落ち着くんだよ」

「それはなんかダメな人の言う事です……」


 社畜がまだ体に染みついてんのかな、などと言いながら雄太は歩く。

 元々雄太が力仕事をしているのはスキルを反転させる為なのだが、ぎっくり腰を反転させるにはまだまだ足りていない。

 発動すると酷い事になるので早めに何とかしたいのだが、フェルフェトゥ曰く「まだ結構な時間がかかりそう」であるらしい。


「でも遊ぶって、何して遊ぶんだ?」


 セージュを頭に乗せたまま雄太がそう聞けば、セージュは「んー」と唸ってしまう。


「どうやって遊ぶんでしょう……」

「おいおい」

「だって私、誰かと遊んだことないですよ?」

「……あー……」


 あんな場所に居れば、確かに「誰かと遊ぶ」なんて事とは無縁なのかもしれない。

 考えてみれば雄太も、遊ぶなんて単語とはしばらく無縁だったように思う。

 

「そうだなあ。何処かのタイミングで皆で思いっきり遊ぶのもいいかもな」

「えー。私はユータと2人で遊びたいですよ」

「いや、同じ村の仲間なんだからさ……」


 不満そうなセージュに髪の毛を引っ張られながら、雄太は自宅の扉を開ける。

 そう、今の雄太にとってはもう此処が自宅だ。

 元の世界の家は今頃どうなってるのかあまり考えたくはなかったが、たぶん「アラサー男性行方不明」みたいな処理をされてるんだろうな……などと思う。

 どのみち、あまり未練はない世界だ。


「ただいまー」

「あら、お帰りなさい。バーンシェルはしっかり伝言伝えてくれたみたいね?」


 聞こえてくるフェルフェトゥの声に、雄太はホッとする。

 家に帰ると、誰かが「お帰り」と言ってくれる。

 それだけの事が、嬉しいのだ。

 ……まあ、それがフェルフェトゥだからなのか、それとも単純に寂しくないからなのかは分からないのだが。


「なんかフェルフェトゥが呼んでるって聞いたけど」


 パタパタと奥から歩いてくるフェルフェトゥは人差し指で雄太の胸元を突くと、悪戯っぽい顔で見上げてくる。


「……この前みたいにフェル、って呼んでくれてもいいのよ?」

「え、ええ?」

「ユータになら許すわ。ユータにだけ、ならね?」


 グリグリと指を動かすフェルフェトゥから目を逸らし「か、考えとく」と雄太が答えると、フェルフェトゥはあっさり「そう」と答えて雄太から離れる。


「ユータを呼んだのはね、ようやく完成したからなのよ」

「完成って……前から縫ってた布か? あのでっかいやつ」

「そうよ」


 フェルフェトゥの後を追うように雄太が奥の部屋に入ると、そこには雄太が見慣れたもの……けれど、この世界ではまだ一度も見たことが無かったものがあった。


「え、ええ……!? これって、まさか……」

「そうよ。素敵でしょう?」


 そう、そこにあったのは毎夜の健やかな眠りを約束する寝具。

 フワフワの優しい感触が幸せな、人生の多くを共にするもの。


「ふ、布団……!? え、マジでか!?」

「ニワトリ達の抜け毛と、ベルフラットが育ててる綿花から作った布で作ったわ。中々素敵でしょう?」

「すげえ! 凄いぞフェルフェトゥ!」

「あら」


 思わず雄太はフェルフェトゥの手を握るが、フェルフェトゥはクスクスと笑いながらされるがままだ。


「分かってたはずなのに思いつかなかったよ……いやほんと、凄いな!?」

「そんなに喜んでもらえると、作った甲斐があるわ?」

「早速……あ、いや。まずは風呂だな! 行ってくる!」


 そう叫ぶと、雄太は頭の上のセージュをそっと近くに降ろし……タオルと着替えを掴んで温泉へと走っていく。

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