表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~  作者: 天野ハザマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/142

初めての訪問者13

 呪われた鎧、リビングアーマー、魔族との混血。

 今までの全てがひっくり返るかのような何かが目の前で展開され、コロナは思わず眩暈を感じる。


 訳が分からない。

 何が、何故。

 グルグルと回る疑問は「全てが何かの間違い……いや、誰かの仕掛けた罠なのではないか」という思考にコロナを導きそうになる。

 

 だが、有り得ない。あんな濃厚な呪い、ほんの少しの時間で仕込めるようなものではない。

 長い時間をかけて仕込み、守護魔法をかけたミスリルで覆う。

 そういう手順を踏まなければ、あんなものは出来ない。

 だからこそ、理解できてしまう。

 あの鎧は本気でコロナを呪う為に用意されたのだということに。


「私の両親はホワイトエルフだ……魔族の親など……」

「聞いた感じ、たぶん父親が魔族だったんだろうなあ。お前がそういう事言ってるってこたあ、なんかゴタゴタした事情はありそうだが」


 シェルの……バーンシェルの知る限りでは、魔族……エルフと子を成せるであろう魔人は、邪神に負けず劣らず自由主義者が多い。

 そんな魔人の中に、エルフと愛を育んだ者が居たとしても別におかしくはない。

 無論、愛だとかそういうのとは無縁であった可能性もあるが……その辺りの事情はバーンシェルにはどうでもいい。

 どっちにしろ、その父親はコロナに存在すら知られていないのだから。


「あー……つか、お前の剣も焼いちまったな。ま、いいか。どうせ呪い塗れになってただろうしよ」

「……」


 放心したように座り込んだコロナに、バーンシェルは「ま、元気出せよ」と気楽に肩を叩く。


「……どう元気を出せというのだ」

「世界を見回しゃ、お前より不幸でも元気に生きてる奴はいるぞ。そいつ等よりゃ、お前はまだ幸運だろ」

「そんな慰め方があるか……!」

「つってもなあ。お前は五体満足だし。なんなら、あの鎧作った連中に復讐でもしてみるか? そういう展開は嫌いじゃないぜ?」


 楽しそうに笑うバーンシェルに呆れたような目を向け……何もかもが馬鹿らしくなってコロナは大きく息を吐く。


「そんな事が出来るわけがないだろう。真意を問いたいところではあるが……悪手だろうな」

「まあな、だが気にすんなよ。えーと……」


 バーンシェルはリビングアーマーの溶けた辺りに蹲り掘り返すと、何かを掴み取る。


「お、あったあった」


 言いながらバーンシェルの掴み上げた手のひらサイズの黒い球を見て、コロナは「うっ」と声をあげて後退る。


「な、なんだその禍々しい珠は……いや、その気配……! 先程のリビングアーマーの!」

「おう。アタシの炎で呪いだけ集めて成型した。こういうのは得意なんだよ」

「そんなものをどうしようと……!」

「どうしたい?」


 バーンシェルの問いに、コロナは疑問符を浮かべる。

 だが……バーンシェルから……シェルという名の人間だと理解している少女から湧き出る気配に、思わず息を呑む。

 何か、抗いがたいような……とても神聖なような……そんな何かを感じたのだ。


「お前はどうしたいんだ、コロナ。これは大事な問いだ……義務感とか立場による反射とかじゃなくて、お前自身の魂で答えを導け」

「なに、を」

「たとえば、だ。こいつをエルフの国の何処かに埋め込めば、込められた呪いが大地に染み込む。傍目には悪夢じみた奇病が流行るように見えるだろうな。こいつをお前が持って念じれば、呪いを込めた奴に「返す」ことだって出来る。お前にあの鎧を寄越した奴に投げつければ、お前が「なる」はずだった結末にしてやることも出来る」 


 そう、バーンシェルの権能によって成型された呪いの珠ならば「そうする」事が出来る。

 呪いの詰め込まれたリビングアーマーから呪いだけを抜き出した、有り得ざる物質。

 神の手によって作られた、呪い返しの道具。

 それを見つめ……コロナは「要らない」と小さく、しかしはっきりと答える。


「そんなものは要らない。そして、そんなものは何処に在るべきでもない」

「正義感か?」


 つまらなそうに聞くバーンシェルに、コロナはゆっくりと立ち上がりながら答える。


「呪いに呪いを返せば、私も同じになる。そんなくだらないものになる気はない」

「赦す事が正解とは限らねえぜ? 良心の呵責なんてものは幻だ。罪を贖うのは、同じ重さの罰だけだ」

「許すつもりなどない。あの鎧が私を殺す為の呪いの鎧であったことは充分に理解した。ならば、私が生き続ける事が何よりの復讐となろう」

「ほー?」


 言いながら、バーンシェルは手の中の呪いの珠を焼く。

 神の力で浄化された呪いは何処にも還る事無く消え去り、何も残りはしない。


「国にでも帰る気か?」

「……いや、帰れば私は何らかの罪に問われよう。王より賜った鎧を無くしたのだからな」

「なら、あてもなく彷徨うか」

「それしかあるまいな。なに、名を変え冒険者として生きるという方法もある」


 自嘲するように言うコロナに、バーンシェルは「ふーん?」と呟いて。


「鋼の自制心ってやつか。よくそれだけ自分を殺せるもんだ」


 どれだけ綺麗事を言おうと、諦めた風を装おうと……見えるのだ。

 バーンシェルには。忘れ得ぬ炎のバーンシェルには。

 コロナの内側で燃え盛る炎が、見えている。


「だがまあ……嫌いじゃないぜ。そういう風に生きるのも人間だ。アタシは、お前を肯定しよう」


 その上で提案がある、と。

 バーンシェルは、コロナにそう告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ