倉庫を作ろう2
石を積む。すでに慣れてきた作業だが、ふと眺める光景に雄太は満足感を覚える。
雄太達の家、鍛冶場、集会場、温泉。
色々と作ってきた。どれも職人からしてみれば鼻で笑う程度のものでしかないのだろうが、それでも雄太が額に汗して作ってきたものだ。
「俺達の家は、もう少し大きくしてもいいかもしれないなあ」
「そういえば一番小さいですよね」
「最初に作ったからなあ」
ふよふよと浮いているセージュにそう返しながら、雄太は苦笑する。
フェルフェトゥに最初に捧げた「神殿」であり、雄太達の家。
たった二部屋の小さな家であり、けれど一番愛着のある建物。
ベルフラットも一緒に寝ているため手狭だが、今の雄太なら上手く拡張できるかもしれない。
「やっぱり、ちゃんとした居間は必要だよな。そこに煙突と暖炉作って……台所も欲しいけど水回りがなあ」
「水回りってなんですか?」
「んー? なんて言えばいいんだろうな。住居における水使う場所の諸々……だったかな?」
虚ろな記憶を頼りに答えると、セージュは「ふーん」と首を傾げる。
「それの何に悩むですか?」
「ん? ほら、台所だと水……を……」
言いかけて、雄太は石を積む手を止める。
台所は「食材を洗って、切り、調理する」場所だ。
水道やら何やらが整備されたのは地球でも結構近代のはずで、それまでは井戸などから汲んできていたはずだ。
すると「洗う」のは絶対要件ではない。煮炊き出来ればいいとなると、むしろ必要となるのは竈の類だろうか?
「いや、台所に水は必須じゃないか。トイレもいらないし……となると。あれ、水回りは結構どうでもいいのか?」
言いながら、石積みを再開する。
そもそも水回りをどうにかするには上下水道の整備が必要なはずだが、考えてみれば上下水道を必要とする設備が必要ない。
「他に人間が住むってんなら必要だろうけどなあ……」
しかし上下水道をどうにかするとなると雄太の手には余る。
古代ローマでは上下水道が整備されていたというが、雄太はローマ人ではないし知識もない。
「うーん……意外に要らない設備って多いんだな」
「よく考えながら出来るですね……」
「ああ、うん。慣れだな。反復作業だし」
どういう風に積むかさえ決めてしまえば、あとは体力と慣れの問題だ。
無論、こういった作業は慣れてきた時は一番怖いものだが……。
「セージュは必要な施設とか、何か意見ないか?」
「んー? 私達はそういうのにこだわらないですし、ちょっと分かんないです」
「それもそうか」
セージュはこうして実体を持ってはいるが、本体は恐らくは世界樹だ。
寝ている時も世界樹の苗木に乗っかるようにして寝ている姿を見る事が多い。
まあ……此方に持ってきた苗木もセージュであるらしい事を考えると、どういう仕組みなのかは謎だが……。
「んー? どうででしたですかユータ。私に何かついてるです?」
「そういわけじゃないけど。セージュって世界樹の精霊だよな?」
「そですよ?」
「あの森に世界樹があって、ここにも苗木があって。どっちが本体なのかなってな」
「どっちも本体じゃないですけど」
あまりにも意外過ぎる答えに、雄太は思わず「なぬっ」と間抜けな声をあげてしまう。
「え、どうして世界樹が私の本体って思ったです?」
「どうしても何も。え? 世界樹の精霊なんだろ?」
「そんな事言ったら火の精霊とかどうするですか。焚火消えたら死なないといけないです?」
「え。いや……あれー?」
言われてみるとその通りなのだが、何か納得いかなくて雄太は首を傾げる。
「一部の精霊は物に依存する事もあるですけど、そんなのは子供なのですよ?」
「ふーん……って、ちょっと待て」
雄太はそこで、以前セージュから聞いた話を思い出す。
「この前、世界樹の苗は自分の分身とか言ってなかったか?」
「言ったですよ?」
「つまり世界樹はセージュなんだろ?」
「違うですよ?」
意味が分からない、と雄太は頭を抱える。
世界樹の苗がセージュの分身であるならば世界樹はセージュそのものではないのだろうか?
「んーとですね、前にも説明したですけど精霊とは、物や現象に宿る意思なのですね」
「ああ、それは聞いた」
「けれどそれは、親から子供が生まれるようなものです。自分の起源ではありますが、自分の意思持つ精霊は其処から独り立ちするです」
たとえば火の精霊は火山などから生まれるが、その火山が常に燃え盛っていなければ生きていられないわけではない。
剣から生まれる精霊などは自分の生まれた剣に執着する事もあるが、そういうのはまた例外だ。
「んん……とすると、世界樹は実家みたいなもの……ってことか?」
そして苗木はセージュが独り立ちして建てた家みたいなもの……なのだろうか?
「たぶん、その認識であってると思うですよ。ついでに言うとあの世界樹は私に魔力を供給してるので、今ユータが作ってる倉庫みたいなものでもあるです」
「……魔力供給してるんだったら、やっぱり消えたら拙いんじゃ」
「もー、分かんない人なのですねー。魔力だけなら世界の何処からでも取れるです。武具精霊だって自分の宿る武具作ったりするですよ? その程度のものなのです」
「え、何その話。ちょっと気になるんだけど」
武具精霊。実に男心を刺激する響きに雄太は思わず目を輝かせるが、セージュは一気に不機嫌そうになる。
「ユータには私がいるのです。武器が欲しかったら私が作ってあげるから浮気はめっ、なのです!」
「あー、悪い悪い」
浮気扱いなのか……などと雄太は思いながら石を積む。
それなりに大きな建物にする予定の倉庫に相応しい屋根の石材はこの場に無いから切り出してこないといけないが……。
「ちょっと作り方を考えないといけないかもなあ……」




