剣と魔法に憧れる
「本当にそういうの好きよね、ユータは」
「そりゃまあ、男だしなあ」
剣と魔法への憧れは、簡単に消えるものじゃない。
魔法学校に入るものとか火山に指輪を捨てに行くものとか、地球に居た頃には色々ファンタジーな映画も見に行ったものだ。
「バーンシェルの戦いもカッコよかったしな。なんかこう、必殺技とかも好きだなあ」
「必殺技ねえ……」
よく分からない、といった顔でフェルフェトゥは首を傾げる。
雄太としてもこういうのは分かって貰えるとは思っていない前提で話をしているのだが、少し寂しいものはある。
「ユータが考えてる……その、必殺技? はどんなモノなのかしら」
「え?」
そう言われてみると、中々悩ましいものはある。
やはり必殺技の王道というと必殺剣だろうか。
「雷鳴と共に剣に雷の力を宿らせたり……とか?」
「黒焦げになりそうね」
「斬撃と共に真空波を放ったりとか」
「そういうのをやりたいなら、魔法剣の範疇ね。確か一度バーンシェルにそういうの使った人間がいるって聞いたことがあるわよ」
言われて、雄太は驚き声をあげる。
「えっ……それ、大丈夫だったのか!?」
「大丈夫だから今日も山に行ってるんでしょ?」
「いや、そりゃそうだけど……ていうか。ええ? バーンシェルは悪神じゃないんだろ?」
確か悪い神は悪神という分類で、バーンシェルは邪神であったはずだ。
「ほとんどの人間からしてみれば、善神以外は全部似たようなものよ。細かい違いなんて分かってないんじゃないかしら」
「なんでそんな……」
「言ったでしょ? 姿を隠してる私達が見えるってだけでそれなりの才能なのよ。そして善神が神官に伝える内容には邪神と悪神の区分なんてものは「無い」の」
ならば姿を現していればいいかといえば、そういう問題でもない。
自分達の信じる神ではなく、しかし強い力を持つ何者かといえば魔族だの悪しき神だのと騒ぐ人間が多いからだ。
そしてバーンシェルの場合も、大体似たような理由であった。
「だから私達は人間の居る場所に何かをしに行く時には、力を隠蔽するわ。それが一番無難に済むからよ」
「そう、なのか」
「そうよ。これでも苦労してるの」
言いながら、フェルフェトゥは一枚のカードのようなものを懐から出してみせる。
銀色の板のようなものに見えるそれには読めない文字のようなものが色々と書いてあり……雄太は読もうとして諦める。
異世界の言語が分かっても、文字に対する理解はまた別であるようだった。
「えーと……なんて書いてあるか分からないんだけど、これって?」
「冒険者登録証よ。私みたいなのが人間の町でお金を稼ごうと思ったら、これが一番よね」
「冒険者ぁ!?」
やっぱり冒険者とかあるのか、と雄太は思わず声をあげ……その勢いにフェルフェトゥは珍しく気圧されたように後退る。
「ど、どうしたのよ」
「なんだそれカッコいい! え、もしかしてコレ銀色ってことは銀級とかシルバーランクとかそういうのなのか!」
「え、ええ。大体その通りだけど……詳しいわね?」
「そりゃもう! こういうの凄い憧れるよな!」
冒険者。剣と魔法の世界の代表格のような存在だ。
ダンジョンに潜ってモンスターを倒したり、お宝を手に入れたり。
愛と勇気と夢と希望の象徴のようなものだ。
「なんか夢見てるところ悪いけど、そんな華やかなものじゃないわよ?」
「え?」
「だって、冒険者っていうのは底辺の職業なのよ?」
職業に貴賤があるわけではないが、それでも人気の職業というものはある。
商人、職人、兵士……色々あるが、どれも基本的には「国民」向けのものだ。
冒険者というものはそういう身分を問わない、流れ者が覆い仕事なのだ。
「依頼一件ごとの稼ぎだから安定しているわけでもないし、身体を張る仕事だから怪我も多いし……日雇いで働いている方がまだ将来設計が出来ると言われてる程だもの」
なるほど、確かにそうかもしれない。
職業安定所というよりは単発バイト紹介所じみてきたが……。
「いや、ほら。なんつーか……カッコいい……じゃないか?」
「そうでもないわよ。食い詰め者が集まるからギラついてるし、私が行くと絡んでくる奴も多いから、つい殺したくなるし」
「絡んでくるって」
「女ひでりってやつかしらね。あるいは単純に自分より稼ぐ奴が気に入らないってのもいるわね」
「……それは」
邪神であるフェルフェトゥがそんなものに負けるとも思えないが、見た目が少女であるだけに心配になってしまう。
そんな雄太の視線の意味に気付いたのだろう、フェルフェトゥは可笑しそうに笑う。
「あら、心配してくれてるのね。でも大丈夫よ?」
「そりゃそうだろうけど。今フェルフェトゥが稼ぐ必要があるのって……つまり、俺の為だろ?」
食材を買う金だって、何処かから湧いて出るというわけではない。
だからフェルフェトゥが何処かで稼いでいるのは自明の理ではあった。
「それはいいのよ。言ったでしょ? 私がユータを養ってあげるって」
そう言うと、フェルフェトゥは雄太の胸元にトンと人差し指をつける。
「そうやって稼ぐ必要も、少しずつ無くなってきてるわ。あとひと頑張りね、ユータ?」
「……ああ、頑張るよ」
雄太はフェルフェトゥの視線を正面から見つめ返し、拳をぎゅっと握って。
「ユーター! あのヒヨコ共、私をつつき回すですよ! どうにかしてください!」
ヒヨコに遊ばれていたセージュに後ろから突撃されて、痛みに「ぐっ」と唸るのだった。




