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星空の下で

 温泉に浸かり、夕食を食べ終わると雄太の体力も大分回復してくる。

 あとは寝るだけ、といったところだが……なんとなく眠れずに、雄太は神樹エルウッドの下に座っていた。

 神樹エルウッドに背中を預けて空を見上げれば、そこには満天の……などという言葉が陳腐に思えるくらいの星々が輝いている。


「……」


 特別なものなど、自分には何一つないと思っていた。

 今を生きるだけの歯車である事すら許されず、異世界に来てまで捨てられて。

 何もないはずの自分には、実は物凄く希少な能力が備わっていたという。


「こういうのも異世界チートっていうのか……?」

「チートって何かしら?」

「うわむぐっ」

「しーっ。ベルフラットが気付くでしょ?」


 雄太の近くにやってきていたフェルフェトゥが、悪戯っぽく笑いながら雄太の口を手で塞ぐ。

 ふわりと漂う良い香りは、フェルフェトゥがその姿相応の少女であるかのような錯覚を雄太に抱かせる。

 フェルフェトゥは雄太の口から手を離すと、そのまま雄太の隣に座り込む。


「で? チートって何かしら」

「あー……なんていうのかな、強すぎてズルい力みたいな、そういう意味……だったかな?」


 元々の意味は確か不正とかそういう意味だったような気もするが、雄太の意図した「チート」だとそんな風な意味であっているだろう。


「強すぎてズルい、ねえ……」


 フェルフェトゥは雄太の顔を見上げると、手で雄太の前髪をかきあげる。


「な、なんだよ」

「えいっ」

「いっ……!?」


 バチン、と響くくらいに強いデコピンに、思わず雄太は額を押さえる。

 ジンジンと痛む額を押さえながら涙目で雄太は「な、なにすんだよ」と抗議する。


「あら、ズルいくらいに強いのはどこいったのかしら?」

「あ、いや。そういうのじゃなくてだな。ほら、能力の話なんだよ」


 たとえば誰にも負けない魔力を持っているとか、世界一の天才と言われるような頭脳があるとか、伝説の怪物レベルの召喚獣を使役できるとか、一撃で相手を打倒できる能力を持っているとか。


「そんな風な「ズルい」って言われる力を、俺も持ってたんだな……って」

「それはどうかしら?」

「え?」

「不可視の状態の神を見れる、触れるっていうのは……いい事ばかりではないわよ?」


 そんな事を言うフェルフェトゥに、雄太は疑問符を浮かべる。

 実際、その能力のおかげで雄太はフェルフェトゥに拾われたし、現状もあるというのに。


「その力の名前、知ってる?」

「いや……確か名付けられる事もなかった能力だって……」

「そうね。人間に名付けられる事はなかった。でもね、とある神からこう呼ばれたことはあるわ」


 雄太の耳元に口を寄せると、フェルフェトゥは小さな声で囁く。

 神殺し、と。


「……え?」

「見えざる神を見つけ、触れざる神に触れうる。それ即ち、神を殺しうる力である……とね。そう宣った奴が居たのよ」


 そいつはもう居ないけどね、とフェルフェトゥはなんでもない事のように語る。


「神と人の橋渡し、神の友であると……すなわち「神眼」であると、そう呼んだ神もいるわ。というかそっちのほうが多数派ね」

「神眼……」

「まあ、目に起因する力ではないのだからその呼び方もどうかとは思うのだけれども」


 そう言って、フェルフェトゥは肩をすくめる。


「なあ、フェルフェトゥ。フェルフェトゥはさ……俺に神官になれって言ったよな」

「ええ、そうね」

「他の神の神官ってさ……俺とは違う力を持ってるってことでいいのか?」

「その通りよ」


 雄太の疑問に、フェルフェトゥはアッサリとそう答える。


「常人には見えぬ状態の神を見ることが出来る者、そして見えずとも神の声を聞ける者は結構居るわ。善神や悪神はそういう人間を集めて神官としているのよ」


 触れられぬ事で人間は神々を特別なものと崇め、見えない人達からは見える、聞こえる神官達は聖人として扱われる。

 要所要所で姿を現して「降臨」することで、その特別感を煽ってもいるのだ。


「笑えるわよ。「降臨」する時に神官が戸惑わないように、わざわざ光ったりするんだから」

「ああ、なるほどなあ」


 確かに普段から見えている雄太からしてみれば、フェルフェトゥが消えたり現れたりしても何も変わり無いように見える。

 しかし神を崇める事を仕事にしている神殿の神官はそれでは拙いということなのだろう。


「それで満足してるから、ユータみたいな極上の人間を見逃す程に目が曇るんでしょうけど。私としては好都合だったわ」

「……フェルフェトゥだって、最初分かんなかっただろ」

「私はいいのよ。結果的に雄太に目を付けたんだから」


 自慢げにするフェルフェトゥに、雄太は「はは……」と小さく笑う。

 そういう意味では、雄太とフェルフェトゥの出会いは偶然だっただろう。

 もしあの時、子供に財布を奪われていなかったら……雄太は、今此処に居なかったかもしれない。


「もしかすると、俺はどっかの神殿の神官として成り上がってたかもしれないわけだな」

「あら、それはどうかしら?」


 今はもう有り得ない未来を語る雄太に、フェルフェトゥはそんな事を言う。


「どうかしら……って。なんでだ?」

「言ったでしょ? 触れるっていうのは、いい事ばかりじゃないって」

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