木材について考える
「ユータ、ユータ! 何してたですか!?」
「何って。作業の打ち合わせだな。鐘楼作る事になったから」
「鐘楼ですか……ついに縄張りの主張するですね」
精霊からしてもそういう認識なのか、と雄太はそんな事を思う。
神だのなんだのといったものに宗教的な観念抜きで接するのが得意な現代日本人の雄太としては「へー」程度のものなのだが……セージュにとっては、なんだか重要な事であるらしい。
「私の力も混ぜとかないとですね。好き放題やらせるわけにはいかないです」
「……一応聞くけど、混ぜたらどうなるんだ?」
「精霊が集まりやすくなるです」
「なんかますます当初の目的から遠ざかるな……いや、いいけどさ」
ダメならフェルフェトゥが止めるだろう。そんな事を考えながら雄太は集会所へ向かうべく歩き出し……その肩に、セージュが乗っかる。
「で、これから何するですか?」
「とりあえず集会所の上にガンダインの家作って、それから鐘楼作る。石材足りるか……?」
「ユータは石好きですよねえ」
「好きっつーか、石しかないからな……」
元々が不毛の地だったというのもあって、この近辺の山は草一本生えてはいない見事な岩山だ。
そのおかげで遠慮なく石材を切り出せるのだが、木材が手に入らないというのは弱点でもある。
まあ、あまり山の木を切ると土砂崩れの原因になるというから、それでもいいのかもしれないが……。
「でも、木も喜んでると思うですよ」
「ん? なんで?」
「だって、切られたら成長できないじゃないですか」
「いや、まあ……な?」
木を切るのは可哀想とか雄太は言うつもりはないのだが、セージュのような「世界樹の精霊」などというものを目にしている今ではそれも微妙になってきている。
「勿論、落ちた枝を拾ったり余計な枝を切るのはいいと思うですけど。バッサリいかれてしまうと、それはそれで悲しいのです」
「なんとも言い難いなあ……」
木材というのは貴重な建築資材だし、木を切って作る薪は重要な燃料だ。
そういうものを使わないというのは、中々難しい事であるように雄太には思えた。
「あ、でもブラックツリーは別ですよ? あいつらは根こそぎ切っていいです」
「なんだそりゃ」
「周囲の木の分まで大地の力を吸い取って育つ木です。あれが増えると、それだけで既存の木は減るですし、大地の力が枯れていくです」
「外来種みたいなもんか」
元々いた国内種を外来種が駆逐してしまう……という話は雄太も聞いたことがあった。
ブラックバスだのブルーギルだの、動物や虫でもそういう例があると聞いたことがある。
まさか木の世界でもそういうものがあるとは思わなかったが……。
「ちなみにだけど、それを木材に使ったらどうなるんだ?」
「エルフが魔法の杖か何かにしてるの見た事あるですよ?」
「なるほど」
そういう方面で扱える特殊素材ということなのだろうか。
木なのであればベルフラットが何か知っているかもしれない……などと考えるが、どちらにせよこの近辺には生えていない。
「つまり、木材を使うならそのブラックツリーとかってのにすればいいわけか」
「です」
世界樹の森から切ってこようとか言い出さなくてよかった、と雄太は心の中でほっとする。
もしそれを言ったら、セージュが激怒していたかもしれない。
いうなれば今の状況は「対話できる自然」と一緒にいるようなもので、上手く付き合わなければ酷いしっぺ返しがきそうだった。
「木っていえば、セージュは神樹と仲悪いのか?」
「悪いですよ?」
世界樹の苗木を植える時の事を思い出しながら雄太がそう問いかけると、セージュはアッサリとそう答える。
「だってあいつ等、気位高いですし。下手に「神」なんてついてるから、他の木が全部下だと思ってるです」
「あー……」
人間で言えば高貴な血筋みたいなやつか、と雄太はなんとなく納得する。
それは実に庶民と仲が悪そうだ。
「でもさ、セージュは世界樹だろ? 世界樹っていえば木の中でもナンバー1なんじゃないのか?」
「ふふん。ユータは分かってるですね」
セージュは自慢げに胸を張るが、同時に溜息をつく。
「でも、それで納得するなら問題はとっくに解決してるですよ」
「ふうん……?」
「自分が一番上だと思ってると、他人を自動的に下に見るです。現実なんか見ないですよ」
「そんなもんか」
言いながら、雄太は集会場の前に到着する。
余った石材は結構な量があるから、なんとか足りるかもしれないが……やってみないことには分からない。
そもそも、鐘楼の屋根は何か凝りたいような気もしてくるのだ。
「まあ、そんなんだから神樹なんて次々滅びて……そういえば、なんであの神樹はあそこに植わってるです?」
「色々あるんだよ」
ベルフラットが蘇らせたと言うと何かめんどくさそうな気がしたので雄太はそう言ってごまかすが、セージュはそれで何かを納得してしまったようだった。
「確かに色々あるですよね」
うんうん、と頷いているセージュをそのままにして、雄太は集会場を見上げる。
二階。そんなものをどうやって作っていくかは、中々悩みどころであった。




