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邪神と呼ばれる理由

 食事を終えたフェルフェトゥは立ち上がると、雄太に軽い手招きをする。


「え、なんだ?」

「ついてきなさい。いいもの見せてあげる」


 そう言いながらフェルフェトゥが歩いていく先は、昨日の井戸だった。


「これって昨日の……」

「そうよ。覗いてみなさい?」

「ええ? 落としたりしないだろうな……」


 雄太がそんな事を言うと、フェルフェトゥは明らかにムッとした顔をする。


「私をなんだと思ってるのよ」

「邪神」


 黙り込んだフェルフェトゥを見て思わずガッツポーズをすると、背後から蹴りが入る。


「ムカつくわ。本当に突き落としてやろうかしら」

「お、おいやめろよ。洒落になってないぞ」

「いいからさっさと中を見なさい。突き落とすわよ」


 ゲシゲシと蹴られながら雄太が中を覗き込むと……井戸の中には、キラキラと光る水が溜まっているのが見える。

 別に光を反射しているだけであって珍しくもないが、自分が掘った井戸ともあれば感動も一塩だと。

 そんな事を考えていた雄太は「んん!?」と叫んで井戸の中をもう一度覗く。

 そう、井戸の中の水はキラキラと光っている。

 だが……なんだろう。自力で光っているように見えるのだ。


「……なあ」


 雄太はフェルフェトゥへと振り返ると、井戸を指差す。


「なんか光ってるように見えるんだけど。あれ光の反射じゃないよな?」

「そうね」

「何あれ。俺、何掘ったの?」

「井戸でしょ?」


 そうだけどそうじゃない。頭を抱える雄太にフェルフェトゥは笑みを浮かべ「大丈夫よ」と告げる。


「あれは間違いなく水よ。水は水でも、聖水と呼ばれる類の水だけどね?」

「せーすい」

「そうよ。このフェルフェトゥの加護を受けたる水よ。とても素敵ね?」


 そういえば水も権能の一つとか言ってたっけ、と思い出しながら雄太はフェルフェトゥに尋ねてみることにする。


「そういえばさ。フェルフェトゥって……何の神様なんだ?」

「あら、今更?」

「昨日はそんな余裕なかったし……権能の一つってことは、別に水の神様ってわけでもないんだろ?」


 雄太がそう聞くと、フェルフェトゥは「あら」と意外そうな声をあげる。


「意外に考えてるのね。単純に水神だと納得してるようなら、貴方の評価を下げようかと思ってたのだけれども」

「そりゃまあ……ていうか「暗い海のフェルフェトゥ」だろ? その名前からすると水神っていうよりは海神っぽいけど」


 雄太の言葉にフェルフェトゥはふむふむ、と満足そうに……何処となく嬉しそうに頷いている。


「いいわね、中々考えてるわ。神の名からの考察は神を知る一歩よ。でも残念、私は海神と同一視されることもあるけれど、必ずしも海のみを司っているというわけではないわ」

「違うのか……」

「そもそもだけどユータ。貴方は水神と海神の違いは何処だと思ってるの?」

「へ?」


 言われて、雄太は考える。

 海神といえば、海の神様だろう。三叉の槍を持つポセイドンなんかを思い浮かべる。

 海の安全とか、そういうものを守っているイメージだ。


「なるほど? なら水神は?」


 水神ならば、水全般だろう。

 嵐、大波。あらゆる水災害もそうだし、人間が生きるに必要である水を齎す神だ。

 

「なるほど。なら、水神と海神はどっちが上かしら?」

「え? そりゃあ……水神じゃないか? だって、海も水なんだし」


 そう答える雄太に、フェルフェトゥは優しげにニコリと微笑む。

 これは正解か、とつられて微笑む雄太の脛にフェルフェトゥのキレのあるローキックが放たれる。


「あだあっ!?」

「ばぁっかじゃないの!? ていうかその理屈だと私が格下の神だと思ってたわね!?」

「え。だ、だってイメージ的にそうじゃないか!?」

「あのね! そもそも水神ってのは水の系統の神全般を指すのよ! たとえ貴方のきったない涎のみを司るような木っ端神がいたとしても、それも水神なのよ!」


 そんな神は嫌だが、なんとなく言いたいことは雄太にも理解できた。

 つまり焚火の神とか山火事の神とかがいたとして、それも全部火神の区分ということだ。


「え? でもそうすると、フェルフェトゥは区分的には水神ってことになるんじゃないか?」

「そこで思考停止するからダメ人間なのよ。私がどうして邪神と呼ばれてるか考えてみなさいな」

「ええ……?」


 フェルフェトゥ。暗い海のフェルフェトゥ。

 名前は確かに邪神っぽいが、「どうして邪神か」などと言われても困る。

 だがダメ人間呼ばわりされ……るのは結構慣れてるが、それでは終われない。

 必死で脳を動かして雄太は考える。


 暗い海。これがキーワードだ。

 まずは海。海神と同一視されてるとも言っていたから、これは単純に海神としての側面と考えていいだろう。

 

 暗い海、というのは夜の海とも考えられる。

 夜の海は危険なイメージだが、ロマンチックなものでもあったはずだ。単純にそれで邪神が云々と考えるのはまずいだろう。


 暗い海。夜。邪神。なんとなく海の底のイアイアな神様を連想するが、たぶんそれを言ったらまた蹴られるだろう。

 とすると……「夜」辺りが無難だろうか?

 夜、海。なんとなく何かが繋がりそうな気がして……雄太は「あっ」と声をあげる。


「まさか……星の海!?」

「あら」


 雄太の導き出した答えに、フェルフェトゥは楽しそうに微笑む。


「正解よ、ユータ。私は「それ」も司っているわ。複数の属性の異なる権能を所持し、既存の神の枠に収まらぬ歪なる神。邪神と呼ばれる理由はそれだけではないのだけれど……そう呼ばれる連中は、同じようなのが多いって事は覚えておきなさい」

井戸を掘ったら聖水の井戸になっていた。

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