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雄太、神器を手に入れる(嘘はついてない)

 村を作る。神官になる。邪神。

 なんだか一気に言われてしまった結果、雄太の頭は処理が追いつかなくなった。

 もう若くないのだ。働き盛りではあるかもしれないが、決して10代20代の若者ほどに柔軟じゃないのだ。

 一気に新情報を詰め込むのは勘弁して欲しい。

 しかし、この新情報に対しどう反応して良いものかが雄太には分からない。

 邪神の神官になって村を作る。そこまでは分かった。

 目の前の少女の名前はフェルフェトゥ。それも分かった。

 ならば、聞くべきは。


「……なんで?」

「理由が必要?」

「あれだけディスっといて、俺を養うとか村を作れとか、意味が分からない」

「ディス? 変なスラング使わないでくれる、貴方の言動が私の評価に繋がるのよ」

「いや、だから」


 分かるように説明してくれ、と。そう言おうとした雄太の言葉を、フェルフェトゥの溜息が遮る。


「私にしてみれば30なんてガキもいいとこだけど、人間だと一応30代っておっさんでしょう? なのに一から十まで聞かなきゃ動けないからダメ人間なのよ、貴方」

「ぐうっ!?」


 いつか誰かに言われたような事を言われ、雄太は胸を押さえて後ずさる。

 確かにちょっと言われただけでパッと動ける人間はいる。

 いるが、そうでない人間がいたっていいはずだ。


「でもまあ、いいわ。分かったフリをされるよりは大分マシよ」


 そう言うと、フェルフェトゥはパチンと指を鳴らし……気が付けば、雄太とフェルフェトゥは何処かの荒野に移動してしまっていた。


「な、なんだ此処!? え、ワープ? ワープなのか!?」

「転移魔法よ。それより、周りをちゃんと見てくれるかしら」

「は? この荒野が一体……」


 そう、周囲は荒野。何処を見ても何も……いや、山はある。

 あるが、そのくらいだ。乾いた荒野には草一本生えておらず、「死の荒野」とかそういう名前が似合いそうだ。


「此処は、未踏地域ヴァルヘイム。人類の手が未だ及ばぬ、夢にあふれた土地よ」

「夢っていうか……死に満ちた土地ってほうがあいたあっ!?」


 脇を抓られた雄太が呻く横で、フェルフェトゥは人差し指を振る。


「未踏地域、よ。人類の夢見るフロンティア。黄金や宝石が眠っているかもしれないし、奇跡の金属があるかもしれない。未発見の動物だっているかも。そんな可能性が溢れた場所なのよ?」

「そ、そうなのか?」

「さあ? 夢見るのは自由だし?」


 それは「無い」と同義なのではないだろうか。

 そんな事を言うとまた抓られそうなので呑み込みつつ、雄太は周囲を見回す。


「で、此処に村作れって……なんか国の許可とかいるんじゃないのか?」

「要らないわよ。言ったでしょ? 此処は未踏地域。何処の国の手も及ばぬ地域よ。慣例として、そういう場所を最初に開拓した者に権利が与えられるのよ」

「……俺が王様ってこと?」

「そこまで大きく出来るならね?」


 勿論、そう上手くはいかないのだろう。

 開拓すれば王様だというのなら、夢見る若者がたくさん来ていてもいいはずだ。

 こんな土地が残っているはずは無い。


「何か穴っていうか……罠があるんじゃないか? こう、別の国に取られちゃうとか……」

「ないわ、そんなの。単純に自活できずに去っていくのよ。作物が育たないとか、水が出ないとかね?」

「致命的過ぎるだろ」


 そんなの、開拓以前の問題だ。

 水がなければ生活できないし、作物も育たない。

 確か砂漠で生きるサボテンだって、完全に水なしでは生きていけないのだ。

 人間が、水の出ない場所に暮らせるはずが無い。


「どうするんだよ、そんなの……って、まさか」

「そのまさかよ。私なら、水の出る場所が分かる。こう見えて私、水も権能の範疇なのよ?」

「おお!」

「というわけで、貴方に神器を授けるわ」


 神器。その言葉に、雄太の忘れていたアドベンチャーハートが蘇る。

 神器。神器。聖剣とか聖槍とか、そういう選ばれたものの道具。

 無くしてた青春を取り戻すような輝きが、フェルフェトゥの手の中に現れる。


「さあ、受け取りなさいユータ。これが貴方の神器よ」

「は、ははーっ!」


 思わず跪いて、両手を上へと掲げる。

 一体何を貰えるのか。ワクワクしながら待つ雄太の手に、ずっしりとしたものが乗せられる。


「これ、は……」


 それは、暖かくも冷たくも無い不思議な金属で出来ていた。

 それは、刺すことも払うことも出来るだろう。

 戦うだけではなく、生み出す事にだって長けている。

 間違いなく人類の叡智であり、それ故に誰もが知るその形。


「……シャベル?」


 そう、金属の柄を持つ、大き目の穴掘り道具。

 自分の手の中にあるシャベルとフェルフェトゥを見比べ、雄太は疑問符を浮かべる。


「え? 神器は? 俺の異世界無双は?」

「何言ってるのよ。貴方、剣とか槍で井戸掘れるの?」

「いや、ほら。土魔法とかでドバーッと」

「貴方、魔法を勘違いしてるわね? いいから掘りなさい。魔法の講義も後でしてあげるから」


 フェルフェトゥは溜息をつきながら、スタスタと歩いていく。

 自然と雄太の視線もその後を追い……フェルフェトゥの足は、ピタリと止まる。


「うん、此処ね。掘りなさい、ユータ。なあに、簡単よ? ほんのちょっと本気で頑張ればたくさんの水が手に入るわ。それですぐに何かが変わるわけではないけれど、少なくとも渇いて死ぬことはなくなるわ」


 幸せね? と本気の顔で言うフェルフェトゥに……雄太はこっそりと「邪神……」と呟いた。

早速チートが手に入ってしまったようです。

これだから異世界ってのは!(目を逸らしつつ)

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