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なんか出た!

「だ、だだだ……誰だアンタ!」


 窓から覗いている何者か。

 長いストレートの黒髪と、赤い目。白い肌が何処となく不健康そうな、およそ20代くらいに見える女。

 まるでおとぎ話の魔女そのものといった三角帽を被ったその女の表情は。何といえば良いのだろうか。

 目は何処となく焦点が合っていないし、そのくせにしっかりとこちらを見ているのが分かる。

 怖い。夜中に子供が見たら泣きそうだ。


「あたし? あたしはベルフラット。腐れし泥のベルフラット。貴方、人間よね?」

「そうだけど……その名乗り。アンタ、神様か」

「そうよ。で、人間。お名前は?」


 首を傾げるベルフラットに、雄太は若干引きながらも「あー……俺は雄太。月林雄太」と名乗る。


「ツキバヤシ、が名前でいいのかしら?」

「あー……そっか。そういう風に名乗るのならユータ・ツキバヤシってとこかな」

「そう……」


 ユータ、ユータ、と。何度か繰り返すとベルフラットは雄太をじっと見る。


「ねえ、ユータ。貴方、フェルフェトゥに何か弱みでも握られてるの?」

「へ? いや、そういうわけじゃないけど」

「……じゃあ、なんでフェルフェトゥと一緒にいるの?」


 そう聞いてくるベルフラットに、雄太は苦笑する。


「いやいや。そんな難しい理由じゃないよ。俺、人間の町から追い出されてさ。拾ってもらったんだ」

「そうなの……大変だったのね」


 意外に常識的な受け答えをするベルフラットに、雄太の警戒心は自然と解かれていく。


「それよりベルフラットさん。そんな所に居ないでもがっ」

「駄目よ、ユータ。それは駄目」


 中に来ませんか、と。そう言いかけた雄太の口を、今まで黙って藁を編んでいたフェルフェトゥが塞ぐ。


「此処は私の神殿よ。アイツは招かれないと入れないの。その意味が分かるかしら?」

「へ? で、でも……いい人そうだぞ?」

「何言ってるのよ。言っておくけどアイツ、邪神の中でも特に面倒くさい性格よ?」


 フェルフェトゥがそう言うと、窓から顔を覗かせていたベルフラットが大きく舌打ちをする。


「酷いわ……。あと少しでユータを貰えたのに……」

「え。何それ、怖っ」


 いきなり所有宣言をしてくるベルフラットに、流石の雄太もモテ期などとは思わない。

 だって、奇麗な顔なのに超怖いのだ。ヤンデレとか、そういう系統の表情だ。


「つまりね、あの女は私がユータという神官と、この拠点を手に入れたのが気にくわないのよ。だからユータを奪って自分の神官にしようと考えてるってわけ」

「ええ……? でもベルフラットさんには自分の神官が居るだろ」

「いないわ……あたし、邪神だもの……」


 疑問符を浮かべて見てくる雄太に、フェルフェトゥは「つまりね」と返す。


「邪神っていうのはつまり、主流じゃないのよ。信仰されやすい神々っていうのは善神にせよ悪神にせよ、分かりやすい権能と加護を持ってるの。で、私達邪神は違う。その時の気分次第でどっちにも傾くし、権能も混ざってて分かりにくい。だから信仰されない。自然と、放浪の身になるの」

「そうよ……なのに、ズルいわ……神殿まで建てて貰うなんて。私だってユータを拾いたいわ」

「余所を当たりなさい。なんか最近、勇者召喚されたらしいわよ?」


 フェルフェトゥがそう言えば、ベルフラットは再度舌打ちをする。


「駄目よ、あんなの。勇者なんて善神がこぞって加護を与えるようなお人形じゃないの。性格も悪そうだし、嫌いだわ」

「自分の性格を棚にあげて何言ってるんだか……」

「性格に関しては言われる筋合いはないわ……」


 思わずうんうん、と頷いてしまった雄太はフェルフェトゥに小突かれるが、それを見ていたベルフラットが雄太に微笑みを向ける。


「ねえ……ユータ。あたしの神官になりましょ? 大切にしてあげるわ。そこの発育不良よりも、ずっとずっと楽しいわ?」

「余計なお世話よ、ベルフラット。そんな事言ったって、少女趣味のユータには響かないわよ?」

「は!? 人聞き悪いデマを流すな!」


 断じてロリコンなどではない。確かに雄太は年齢=彼女いない歴な恋愛履歴書白紙の男だが、それでも嗜好は極めてノーマルだ。


「俺はノーマルだ!」

「なら、やっぱりあたしと一緒に来るべきよ……」

「駄目よ。ユータは私の神官だもの。性癖に関しても、しっかり矯正するから問題ないわ」

「問題しかねえよ……!」


 神様の台詞じゃない。何処の世界に自分の女性的魅力を押し出したり性癖を変えたりしようとする神がいるというのか。

 いや、意外に居た気がする。神様っていうのは地球でも性的にフリーダムなのが多かった気がする。

 まあ、それはともかく。


「とりあえず、不義理はできないよ。俺は一応フェルフェトゥに救われた身だし」


 そう、出会いこそ色々あったが、雄太はフェルフェトゥに救われている。

 まだ数日の付き合いではあるが、フェルフェトゥは決して悪い神でもない……と思う。

 そんなフェルフェトゥを捨てて、新しい神の所に行くなんて出来るはずもない。

 

「……そう。本当に良い人間なのね。やっぱり、フェルフェトゥにはもったいない、わ……」

「でしょう? 正直、良い拾い物だったわ」


 不敵な表情を浮かべるフェルフェトゥに、ベルフラットは冷たい視線を向ける。


「やっぱり、欲しいわ。興味があるんですもの」

「あげないわよ?」

「貰うわ。出てきなさい、フェルフェトゥ。勝負よ、私に勝てたなら、呪いは撒き散らさないであげる……わ」


 ゆらりと。雄太にすら見える程の濃い魔力を放つベルフラットに、フェルフェトゥは溜息をつきながら立ち上がる。


「厚かましい女ね、ベルフラット。でもいいわ。貴方が此処に来るのは、計算の内だったもの」

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