厄介かもしれない来訪者2
「な、なんだ。嫌なのか? かのゴヴェルをも超える超都市が出来上がるかもしれないんだぞ?」
「ゴヴェルって……アレだろ。一夜で消えたとかっていう」
「ドカーンと大爆発なのです」
テイルウェイの加護を受けた都市だったというから、たぶん科学的に見てもヤバい消滅の仕方だったはずだ。
ミスリウム村がそういう風になるのを想像して、雄太はブルッと震える。
「いや、最近はスローライフも楽しいし……そういうのはちょっと」
「ぐっ……だが僕は役に立つぞ。こんな場所じゃ魔具職人だって居ないだろう」
「一応俺も簡単なものなら作れるけど」
言いながら雄太が近くに置いていた送風機を差し出すと、サイラスは受け取ってまじまじと眺め始める。
「これは……風を出す魔具か。何に使うんだ? 扇の代わりか?」
「手を乾かすんだよ。一々拭き布を使わなくて済む」
「ほう、それは面白い発想だ」
何度か風を吹かせていたサイラスは頷くと、興味津々の目を雄太へと向ける。
「で? 他には何がある?」
「え? あー、冷房と暖房は作ってるけど。部屋を冷やしたり暖めたりするやつ」
「ふうん。どういう理屈の魔具なんだ」
「冷たい風とか暖かい風とかだな。そういうのを部屋の中に送る事で部屋の中を調整するんだ」
ふむふむ、とサイラスは何度か頷き……何かに納得したかのように大きく頷く。
「だが、そればかりじゃないだろう? 見る限りこの村には水に不自由していない。水の魔具もあるんじゃないか?」
「あー……いや」
言いながら、雄太は井戸へと視線を向ける。
まさかフェルフェトゥが神の力で水が湧き出るようにしたとも言えない。
「此処はさ、水が出るんだよ……」
雄太の視線の先にある井戸に目を向けると、サイラスは立ち上がり井戸へと近寄っていく。
「……これは。強い魔力を感じるぞ!? 神殿で感じる類のソレに似ている……まさか水神がこの村に奇跡を齎したとでも!?」
「まー、似たようなもんっていうかなんていうか」
「いや、待て。よく見てみれば先程の麦粥も……この辺りも似たような力を感じる。それ以外の力も何処となく感じるが……一体どういうことだ。まさかこの地が何らかの聖地だというのか!」
「落ち着きなさい」
フェルフェトゥに脇腹を殴られて、サイラスは短い悲鳴をあげながら蹲る。
「この村はユータがいい子だからそういうものに恵まれたの。分かったかしら?」
「りょ、了解だ」
サイラスは脇腹を抑えながら「そ、そういえば」とフェルフェトゥを見る。
「君は一体こんなところで何をしてるんだ、フェル。王都でも指折りの冒険者だろう」
「移住したのよ」
サラリと嘘をつくフェルフェトゥだが、サイラスに「本当か」などと聞く度胸はない。
「そ、そうなのか。しかし、いや……ああ、なんでもない」
目を逸らしたサイラスは、雄太の家の向こうから顔を出している幽霊じみた何かにヒュッと声をあげる。
勿論幽霊ではなくベルフラットだが……ベルフラットは近づいてくると、サイラスをじっと見下ろす。
「な、なんだ君は!」
「ベルフラットよ。貴方は何処の誰かしら」
「僕はサイラスって、待て。ベルフラット? ベルフラットだって!? それは本名か!?」
全員が「あちゃー」と言いたげな顔をするが、もう遅い。
空気を読むだろうと思っていたのだが、マイペースなベルフラットにそんな機能は搭載されていなかったようだ。
「当たり前でしょ。私以外にベルフラットがいるなら……会って、みたいわ?」
「てことは……腐れし泥のベルフラット!? 本物の邪神!」
「あー、もう」
溜息をつきながら、フェルフェトゥはサイラスの顔を鷲掴みにする。
「大したことじゃないわ。神殿にだって神はいるでしょう」
「は? いや、しかし神が目に見えるなど」
「見えるようにしてるの。騒ぐ事でもないわ」
「いや、だが僕の知る限りでは神との直接対話の記録は」
フェルフェトゥは舌打ちすると、ベルフラットを睨みつける。
「貴女のせいよ、ベルフラット。責任とって引き取りなさい」
「……もう1人引き取ってるじゃない。貴女が世話すべきだわ?」
「私はユータで精一杯よ。丁度いいじゃない、貴女の信徒にしちゃいなさい?」
「私がユータを貰うわ……」
「駄目よ」
サイラスを押し付け合う2人だったが……やがてベルフラットが根負けしたように息を吐く。
「……仕方、ないわね」
「そいつの根性は腐れてるから丁度いいわよ。健康的にしてあげなさい」
「は? いや、一体何が」
「畑仕事よ。その楊枝みたいな身体を鍛えなさい?」
「なんだと!? 嫌だ、僕の無駄遣いだ!」
叫ぶサイラスの襟をベルフラットは溜息混じりに掴むと、ズルズルと畑の方角へと引きずっていく。
「……まあ、仕方ないわね。しばらく面倒見てあげる。逃げたら殺す……わ」
「待て待て待て! 待ってくれ! そうだ、僕が畑仕事を楽にする魔具をだな!」
「要らないわ……」
引きずられていくサイラスを見送りながら、雄太は「あー……」と呟く。
「新しく作った家……早速一軒埋まった、な?」
「そうね。まあ、歓迎しない住人ではあるけれど」
「ハハ……」
そんな会話をしながら、3人は麦粥を口に運ぶ。
早速畑から悲鳴が聞こえてくるが……まあ、大丈夫だろう。たぶん。きっと。
次回、最終回。
本日の21時更新です。




