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捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~  作者: 天野ハザマ


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テイルウェイの来訪

 そして、その日。

 ミスリウム村に訪れたテイルウェイの前にフェルフェトゥが立ち塞がっていた。

 エレメンタルアーマー達から「穢れなき光のテイルウェイがユータを訪ねてきた」という報告を受けてやってきたのだが……その表情は不機嫌そのものだ。


「ソレを持って帰りなさい、テイルウェイ」

「そうは言うけどね、フェルフェトゥ。彼は酷く衰弱してるんだ」

「なら水と食糧を今から買ってきてあげるわ。そのアホをこの村に入れないでちょうだい」


 断固とした態度を崩さないフェルフェトゥに、テイルウェイは困ったような顔をする。

 まさか此処まで強固に拒絶されるとは思ってもいなかったのだ。

 雄太を拾ったフェルフェトゥであればあるいは……と思ったのだが、どうやらそうではないらしい。


「……ん? けれど、さっきからの反応……この彼は知り合いかい?」

「人間を装ってる時の知り合いよ。あまり知り合いたくない部類のね」

「ああ、なるほど」


 つまりフェルフェトゥに個人的に嫌われているらしいとテイルウェイは理解する。

 実際、「冒険者フェル」はサイラスを嫌っている。

 わざわざこんな場所で関わりたいと思うわけもないし、そんな人間を雄太に近づけたいと思うはずもない。


「でも、そうか。そういう事情なら……」

「あれ、テイルウェイじゃないか! どうしたんだ!?」


 サイラスを抱えてテイルウェイが去ろうとしたその瞬間、雄太が遠くから走ってくる。

 最近は視力まで強化されてきた雄太の目には遠くに居たテイルウェイもハッキリと判別出来て、まさか遊びに来たのかと雄太は駆け寄り……やがて、宙にフワフワと浮いているサイラスに気付く。


「うわっ!? なんだその人!?」

「えーと……まあ、これから何処かに連れて行こうとしてるとこでね」

「凄い痩せてるぞ。まさか遭難者ってやつか?」

「気にする必要はないわよ」

「いや、気にするって!」


 アワアワとする雄太を見て、フェルフェトゥとテイルウェイは顔を見合せ……やがて、フェルフェトゥは溜息をつきながら「この貸しは大きいわよ」とテイルウェイに告げる。


「ああ、分かってるよ。とりあえず僕は変な影響を与える前に去るからさ」

「そうなさい」

「え、おいおいテイルウェイ。折角来たのに」

「ごめんねユータ。また今度」


 言いながら歩き去っていくテイルウェイを追いかけようとして、雄太はテイルウェイに止められる。


「ユータ。貴方が拾う事にしたんでしょ? ちゃんと面倒見なさい」

「え、いや拾うって……ああ、テイルウェイ! またな!」


 ヒラヒラと手を振って遠ざかっていくテイルウェイを見送ると、雄太は意識を失ったままのサイラスを見下ろす。


「えーと……呼吸はしてるな。出血も無し。意識はなし、と……。てことは心臓マッサージの出番ってわけでもないか。どうすりゃいいんだコレ。熱中症なのか栄養失調なのかも分からんぞ」

「両方でしょうね。まったくもう……ユータ、その腰の水筒貸しなさい」

「え? ああ」


 雄太がコロナ作の金属製の水筒を渡すと、フェルフェトゥは蓋を開けて中の水をドボドボとサイラスへとかけていく。


「お、おいおい。そんな事したら」

「これでいいのよ。聖水っていうのはね、一般的には万能な治療薬としても使われるわ。どうしたらいいのか分からない時には聖水をかけておけ、というのは人間社会での格言よ」

「そうなのか……」


 知らなかったな、と感心する雄太の目の前で、水筒の中の水は全てサイラスへとかけられて。

 やがてサイラスの身体がビクリと跳ねると、その目を勢い良く見開き起き上がる。


「こ、此処は!? まさか神の国!」


 言いながら辺りを見回し……やがて落胆したかのように「なんだ、ただのド田舎か」と呟いて。

 その瞬間、イラッとしたらしいフェルフェトゥに蹴り倒され踏みつけられる。


「もう仕事戻っていいわよ。コレは私が適当に捨ててくるわ」

「え、いやいや。まだその人目を覚ましたばかりだろ」

「起き抜けの発言聞いたでしょう? こいつはこういう類の馬鹿なの」

「な、なんだ!? その声はフェルか!? 何故君がこんな所に! どうして僕を踏んで……いたた!?」


 捻りを入れて踏みにじるその姿に、雄太は懐かしいものを見たような……そんな気持ちになってしまう。

 そういえば自分とフェルフェトゥのファーストコンタクトもこんな感じだったなあ、と。

 ほっこりした気持ちになってしまったのだ。


「おい、そこの現地人! ボケッとしてないでぼぶべばばばあ」


 顔を踏まれたサイラスの言葉が意味を成さないものに変わるが、バタバタと暴れてもフェルフェトゥは揺らぎもしない。


「いいかしら、サイラス。それ以上くだらない口をきくなら放り出すわ。分かったら「はい」と返事なさい」

「ぼば。ぼべば!」

「あら、私が指定した以外の返事をするなんて良い度胸ね?」

「ぼば、ぼば、ぼばぼば!」

「私は「はい」と言えと言ったのよ? ぼば、じゃ答えにもなってないわ?」

「ぼばぼばぼばあ!」


 恐らく「はい」と言ってはいるが顔を踏まれているせいで言葉にならないのだろう。

 バタバタと暴れるサイラスをフェルフェトゥはクスクスと笑いながら踏みつける。


「返事が無いわねえ。捨てられたいってことなのかしら」

「ぼばー!」

「あー、えーと。フェル、そのくらいで……」


 一瞬「女王様」という単語を浮かべた雄太が顔をヒクつかせながらフェルフェトゥに恐る恐る提案すると。

 フェルフェトゥはサイラスに向けていた嗜虐的な笑みとは全く違う慈愛に満ちた笑みを雄太に向けながら「そうね」と答えるのだった。

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