ただいま魔具開発中2
雄太はエルウッドを見送ると、先程の氷炎竜巻発生器へと向き直る。
まずは手で触れて中の魔力を消し去ると、「起動」と呟いて何も起こらない事を確かめる。
ここで失敗して、温風と共に火炎竜巻が出るようになっても困るのだ。
「……よし、頼むぞ」
ストーンタクトに祈るように話しかけると、雄太は石をトントンとストーンタクトで叩く。
そうして深呼吸すると、ストーンタクトを触れさせたまま石へと魔力を流し込む。
今度こそ冷暖房(仮)にするように、一つずつ「仕組み」を作っていく。
まずは、風が吹く機能の為の風の魔力。
次に、風を温める為に火の魔力を流し込む。
先程は此処を間違えたために火が出たが、今度はきっと大丈夫。
そして、風を冷やす為の水の魔力を流し込んで。
起動、停止、温風、冷風と4つの魔法式を入れていく。
「……よし、これでどうだ」
雄太は念の為冷暖房(仮)から離れると「暖房、起動」と唱える。
そして雄太の期待通り、今度は火炎竜巻は出なかった。
火炎放射器になるようなこともない。
以前熱風になった為に見直していたが、元々風を温める為の魔法式作成に雄太は成功していたのだ。
「おお、今度はちゃんと風が出てるな」
期待通りの効果が出ているであろう事を確認して、雄太は近づいて。
「うっ!?」
冷暖房(仮)から出ているモノに気付いて後退る。
「な、なんだコレ! 水も出てきて……うわ熱! 水蒸気かこれ!?」
ブシュー、と音を立てて出始めた水蒸気を見て、雄太は慌てて「停止!」と唱える。
同時に水蒸気も消えるが……これではまるでサウナ作成機だ。
それはそれで需要がありそうだが、家をサウナにしたいわけではない。
「じゃあ冷風の方はどうなってるんだ……?」
試しに「冷房、起動」を唱えてみると……最初はちゃんと冷たい風が出ているのだが、しばらくすると冷たい霧のようなものが出てきてしまう。
「夏場のミスト噴霧器かよ……停止!」
冷暖房(仮)を停止させると、雄太はその場にどっかりと座り込む。
何故こんな結果になったのか。
今度の魔法式に間違いはなかったはずだ。
温風と冷風、それぞれ最初はちゃんと機能していたのだから。
それが途中から霧を吐き出すようになった。これは問題だ。
「うーん……?」
「あらユータ。順調かしら?」
いつの間にか背後にやってきていたフェルフェトゥへと振り返ると、雄太は渋い顔をする。
「これが成功して満足気な男の顔に見えるか?」
「見えないわね。苦悩する研究者って感じよ?」
「まさにそんな感じだ」
肩を落とす雄太を見て、フェルフェトゥはクスクスと笑いながら横に座る。
「何を悩んでるのかしら。さっきの火炎竜巻とかは中々の見物だったけど」
「見てたのかよ……」
思わず額を押さえてしまう雄太に、フェルフェトゥは「見てたわよ? 楽しかったわ」と素直に返す。
なんでも素直に言えばいいってもんじゃないな……などと思いながらも、雄太は冷暖房(仮)を見つめながらストーンタクトを手の中で弄ぶ。
「上手くいったと思ったんだけどな。なんか霧が出るんだよ。冷風の時にそうなるならともかく、温風の時にもだぞ? そっちには水の魔力使わないはずなんだけどな」
「ふむふむ」
雄太の説明にフェルフェトゥは頷くと、立ち上がって冷暖房(仮)を見つめる。
しゃがんでその場でつついてみたり、軽く撫でてみたり。
そんな事をしていたフェルフェトゥはやがて「なるほどね」と呟くと、雄太へ手招きする。
「こっち来なさい、ユータ」
「なんだ? 分かったのか?」
「ええ」
期待を込めて雄太がフェルフェトゥの元へと歩いていき、しゃがんでるフェルフェトゥの横にしゃがみこんで。
そんな雄太の額に、フェルフェトゥが「えいっ」と軽いデコピンをする。
「このおバカ。魔法式が互いに干渉してるわよ?」
「え? 干渉?」
「そうよ。そっくりな魔法式を入れたことで、1つが作動した時にもう1つも誤作動しちゃうのよ。その結果、火と水の魔力が同時に動いて霧になるのね」
「うげ、そうなのか……」
要は意図せず合体魔法になったみたいな感じだろうか、と雄太は納得する。
確かに冷房と暖房は同じ魔法式を改造しただけのものだが、まさかそんな事になるとは。
「……あれ? てことは最初の失敗の時にそうなってたら……」
「村全体を包む霧の魔法具になってたかもしれないわね?」
「村ごと強烈サウナとか洒落にならないぞ……」
思わずゾッとした雄太だが、ストーンタクトがあればそうはならないと気を入れ直す。
「よし、それなら」
「あと、その石。そろそろ自壊するわよ。次の使いなさい?」
「うっ、もう駄目か」
雄太が練習に使っているのは、ただの石だ。
当然魔力的な性能は高くなく、ある程度使用すると自壊してしまう。
しかし、だからといって練習でミスリルを使うのは雄太には躊躇われた。
「まだあるわよ?」
「え」
「火と水の魔力を籠めるのはいいけど、使い勝手が悪いわ。普通の魔力を籠めて変換した方が、誤作動が少なくなるわよ」
「あ、そっか……」
そうすれば万が一にも魔力が混ざり合う事はなくなるだろう。
「よし、やってみるか!」
「ええ、頑張りなさい。少しだけ見ててあげる」
そんな事を言いながら、フェルフェトゥは楽しそうに雄太の作業を眺め始める。
使える魔具の完成にはまだ遠く。
けれど、一歩ずつ雄太は確かな成長を見せていた。