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捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~  作者: 天野ハザマ


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続アラサークエスト10

 クワガタムシの鋏丸が枝を引き、その上に雄太が乗る。

 ジョニーと比べてもパワーのある鋏丸は中々に安定した引き方をしていて、先導しているテイルウェイの後を大人しくついて行く。


「中々いい子ですね、このハサマル」

「鋏丸な」


 セージュは中々鋏丸が気に入ったらしく、上をポンポンと跳ねているが、硬い鋏丸の上ではゴツンゴツンと中々に硬質な音を立てている。


「しかし、今度はクワガタかあ……お前、いいのか? メスがいないから一匹だけだけど」

「あー、その事ですけどユータ……」

「ん?」

「上」


 言われて雄太が上を見上げると、木々の上に何かがチラチラと見えている。

 何か黒っぽいソレは……もしかしなくても、巨大クワガタムシのメスだろうか?


「なんだアレ……いつの間に?」

「少し前からついてきてるです。ハサマルの奥さんなんじゃないですか?」

「鋏丸な……って、あ」


 空の上から降りてきた光の線に、雄太は「やっぱりか……」と呟く。


「なんか、いいのかな……凄い簡単に従魔契約持ち掛けられてる気がするんだが」

「普通はそうはならねーのです。たぶんですけど、ユータの才能だと思うのですよ」

「才能ねえ……」


 自分とは縁遠そうな言葉を雄太は胡散臭げに繰り返すが、先導していたテイルウェイが「そうだね」と返してくる。


「魔獣使いの才能かな? 勿論、主にはそれに相応しい魔力が求められるとも聞いたことはあるよ」

「ふーん……とすると、普段の労働が活きたってところか」

「僕はそれについては知らないけど、そうなのかもしれないね」


 降りてきた光の先に雄太が触れると、上から「ギイ」と声が聞こえてくる。


「それじゃ、お前は黒姫だな」

「ギイ」

「クロヒメ?」

「黒いしな」


 何やら鋏丸からも嬉しそうにギイと声が聞こえてくるが、まさかもう恋人関係か奥さんなんじゃないだろうかと雄太はそんな事を考える。


「そういえばジョニーとキャシーも夫婦だったよな。この森の生き物ってリア充なのか……?」

「リア獣ってなんです?」

「リアルが充実してる奴っていうか……」

「ユータは充実してないです? あの邪神共捨てて私と暮らすです?」


 セージュの台詞の後半は聞き流しつつ、雄太は考えてみる。

 充実していないのか。その問いについて、自分の中で繰り返しながら考えて。


「ああ、いや。充実してるな。たぶん、今までの人生の中で一番充実してる。それは間違いない」

「ふーん、そですか」


 セージュはそう言って頷くと、雄太の頭にポフンと着地して撫でてくる。


「今までのユータの人生がどうだったかは知らないですけど。よかったですね?」

「ん、そうだな。それは間違いない」


 地球に居た頃は、こうしてクワガタムシに乗って森を進むなんて人生は想像もつかなかっただろう。

 こういうのをスローライフというんだったか、などと雄太は思い出すが、スローというには中々刺激的な毎日であるようにも思う。


「良い事だね。人生、充実してる方がいいのは間違いない」

「まあな。なあ、テイルウェイ。もう1度聞くけどさ……」

「君の村には行かないよ、ユータ。たまに会うだけで充分なのさ」


 そう言って、テイルウェイはピタリと足を止めて振り返る。


「誤解しないでほしいけど、君が嫌いなわけじゃないよ。これは単純に僕の問題なんだ」

「分かってるよ。俺とテイルウェイは友達だろ?」


 雄太のその言葉に、テイルウェイは少しだけ驚いたように目を見開いて。

 しかし、すぐに晴れ渡るような笑顔になる。


「……ああ、そうだね。僕と君は友達だ」


 そう言って、再び前を向いて歩きだす。


「ふふ、友達か。中々くすぐったい言葉だ。でも、悪くはない」

「俺もこっちだと友達って呼べるような関係は居ないしなあ」


 元の世界でも仕事を始めてから元の友達とは疎遠になったし、会社では同僚とは単純に仕事上だけの付き合いだった。

 まあ、下手に呑みに誘えばパワハラとかを問われる時代なので仕方ないが……。

 ともかく、そんなこんなで元の世界でも友人関係とは疎遠だった。

 フェルフェトゥ達が「友達」かといえばまた違う気がするし、ガンダインも微妙に違う気がする。

 ガンダインはどっちかというと近所のおじさん的なポジションだ。


 そういう意味では、テイルウェイがこっちの世界で初めての友人と言えるだろう。


「たまには一緒に酒でも……あ、酒造りとかしたいなあ。ベルフラット、造り方とか知らないかな……」


 早速次の事を考え始めている雄太に、テイルウェイは笑う。

 本当に楽しく過ごしているのだな、と。そう思ったのだ。


「そうだね。僕はこういう生活だからお酒は用意できないけど。いつか酌み交わせたらいいね」

「いつか、じゃなくて近いうちがいいよな。何か連絡方法とかないのか?」


 雄太の質問に、テイルウェイは「そうだなあ……」と考えるような様子を見せる。


「まあ、僕も世界樹の森の近くになるべく寄るようにするし。それでいいんじゃないかな?」

「そうかなあ……」

「そうさ」


 そんな事を話しているうちに、雄太達は世界樹の森を抜ける。

 此処を抜けてしまえば、後はもう平らな荒野を抜けて村に帰るだけだ。


「うん。じゃあ僕はここまでかな。ユータ、元気でね」

「テイルウェイはまた何処かに行くのか?」

「勿論だよ。このヴァルヘイムは広大だからね」


 ヒラヒラと手を振って見送る姿勢のテイルウェイに、雄太もまた手を振る。


「……そっか。じゃあテイルウェイ、またな」

「うん、またね」


 その挨拶を合図にするかのように、止まっていた鋏丸が歩き始めて。ホバリングしていた黒姫も、その横に降りて歩き始める。


「よし、じゃあ……一気に帰るか。鋏丸、ダッシュいけるか?」

「ギイ!」

「うおっ!?」


 雄太の声に応えるように、鋏丸は速度をあげる。


「速い速い! 鋏丸、もうちょい遅く!」

「ギイ」


 弾丸かと思うような速度で走ろうとした鋏丸は、その声に常識的な速度まで落とす。


「コケッ」

「ギイ……」


 隣にやってきたジョニーに怒られてシュンとした風の鋏丸を見て、雄太は思わずセージュに「この2匹、会話できるのか?」と聞いてしまう。


「たぶんですけど、ユータを通じて会話出来てると思うですよ?」

「俺は中継器みたいなもんなのか……」


 妙な納得をしながら、雄太達は荒野を走っていく。

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