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王都にて2

「ああ? ……あー、お前ついに怒らせたか。いつかやると思ってたよ」


 理論魔法士の男の依頼で何度か採取の護衛に行った冒険者の男オグマは、納得したようにそう頷く。


「お前態度悪ぃし、結局毛生え薬作らなかったんだろ?」

「作ったさ! だがあの男の頭には効果がないと分かっていて出すわけにもいかんだろう!」

「ならそう言やいいのによ」

「出来ないなんて言えん! 僕は天才なんだぞ!」

「おう。んで天才様よ、どうすんだお前。手の届かないところったって、お貴族様は横で繋がってんぞ? いっそエルフかドワーフの国にでも行ってみるか?」

「ぬう……」


 それもいい。それもいいが、どちらもヒューマンには優しくない。

 行ったところで、肉体労働かつ下働き以上の仕事があるとも思えなかった。


「……君に何かツテはないのか?」

「あるわきゃねえだろ。あったら、そのツテで仕事してるわな」

「確かに。しかしそうなると、僕は何故君なんかに相談してるんだ?」

「ブッ飛ばすぞ?」

「やめてくれ、死んでしまう」

 

 あっち行け、と手を振られた理論魔法士の男は周囲を見回すが……こういう時に相談できそうな相手など、他にはいない。


「ううむ、どうしたものか……」


 悩む理論魔法士の男の耳に聞こえてきたのは、2人の女の会話する声だ。


「わあ、流石フェルさん。ポイズンスパイダーの討伐って誰も受けたがらないんですけど……助かります!」

「いいのよ。誰も受けない仕事をやってる分にはやっかまれないし。最低限だけ稼げれば、ね?」

「もったいないですねえ。もっと上目指せるでしょうに」

「やあよ。変なのに目つけられたくないもの」

「あ、目を付けられるっていえば噂の勇者様が優秀な仲間を探してるとか言ってて……」

「私の事言ったら怒るわよ。それよりほら、報酬ちょうだい?」


 聞き覚えがある。

 その声が誰の声なのかを悟ると、理論魔法士の男はそこへとダッシュする。


「フェル! フェルじゃないか! 君、今日はこっちに来てたのか!」

「あら、サイラス。どうしたの? ついに伯爵に見捨てられたのかしら」


 カウンターの受付と話をしていた小柄な冒険者……魔法剣士のフェルに突撃するように理論魔法士の男……サイラスは向かっていくが、フェルの突き出した剣鞘がサイラスの鳩尾に突き刺さる。


「ぐ、げぼ……ぐふっ、そ、その通り、だ」

「やだ吐かないでよ、汚いわ」


 本当に嫌そうな顔で自分を見下ろすフェルに、サイラスはニヤリと笑いながらも立ち上がろうとして……しかし、立ち上がれない。鳩尾への一撃は、文系引きこもりには重すぎるのだ。


「じ、実は……新天地を探したくてだな。君に何か心当たりがないかと」

「心当たり、ねえ。エルフかドワーフの国にでも行けばどうかしら」


 フェルの提案に、受付嬢もうんうんと頷く。


「そうですよ。普段天才とか言ってるんですから、売り込めばいいじゃないですか。上手くいけば凱旋できますよ?」

「いいや、僕は彼等を知ってる。エルフはプライドが高いし、ドワーフは口より先に手が出る。しかも閉鎖的だ。僕には合いそうにもない」

「そんな事言われてもねえ?」

「ねえ」


 呆れたようにフェルと受付嬢は顔を見合わせるが、やがて受付嬢が「あ、なら獣人の国はどうですか?」と声をあげる。


「駄目だ、僕は彼等の国には出禁だ」

「何したんですか……」

「女子供が不審者やモンスターから自衛できるようにする為の噴霧式の魔具を作ったんだがな」


 それは魔力を籠めると強い香りを持つ空気が中に生成され、指定された場所を押す動き一つでそれが噴霧されるという魔具だった。


「いいものじゃないですか」

「そうね」

「ああ、僕もそう思った。だが……思った以上に香りの力が強すぎてな」


 魔具から噴出された「強い香りを持つ空気」は魔力を纏ったまま周囲の空気を連鎖的に汚染していき、ただでさえ鼻の良い獣人達の王都を埋め尽くしてしまったのだ。

 当然阿鼻叫喚の地獄絵図となり……アイツをぶっ殺せという怨嗟の声の響く中「役立つ道具を作ろうとした心に罪なし」という温情で国外追放、そし入国禁止となったのだ。


「その場でどうにかなった方が良かったんじゃないかしら」

「ですねー……なんで生きてるんですか?」

「酷いな。原因は簡単なミスだったんだ。僕だって同じ事は繰り返さないぞ」

「繰り返してたら吊されてるわよ」

「ですねえ……」


 呆れたような様子のフェルと受付嬢だが、フェルはふと思いついたようにサイラスを指差す。


「そうだ。コレを勇者とやらに推薦すればいいんじゃない? 一応優秀な魔法士でしょう?」

「んー。でも理論魔法士ですし。実践魔法士じゃないとギルドの面目ってものが……」


 囁き合う2人だが、それを聞いていたのかサイラスは「勇者か!」と声をあげる。


「何を隠そう、僕は当時の実践魔法士のナンバー1を魔法で吹っ飛ばしたことがあるぞ」

「え? それは凄いじゃないですか!」

「ああ。開始の合図を待ってぼうっとしているアイツを爆炎魔法で」

「駄目じゃないですか!」


 そんな話をしているサイラスと受付嬢からそっと離れ、フェルと呼ばれた冒険者は報酬を仕舞う。

 今後どう生きるつもりかは知らないが、精々自分達に迷惑をかけないように生きればいい。

 そんな事を考えながら……人気のない場所で、「魔法剣士フェル」の姿は掻き消えた。

魔法剣士フェル……一体何者なのか(棒)

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