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魔力を感じてみよう

 バーンシェルの鍛冶場に、トンテンカンと音が響く。

 魔具作成。

 ミスリウム村の特産となるかもしれないソレを雄太が作っているのかと思えば……そんな事はない。

 鍛冶場とは遠く離れた場所で、雄太は座ったまま瞑想していた。

 その手には筋トレマニアのシャベルが握られており、傍から見れば一体何をしているのか不明だが、ユータの前に浮かんでいるセージュの様子を見る限り、真面目な何かであるらしかった。


「どうです、ユータ。何か感じますか?」

「何かって言われても……風なら感じるかな?」

「むう、全然ダメなのです」


 雄太に呆れたようにそう言うと、セージュは指を揺らす。


「そもそも魔具作成に必要なのは、魔力を感じる事なのです」


 魔具。魔力を込めた物品の総称だが、人為的に作るには当然「魔力を籠める」動作が必要になる。

 目に見えぬ力を扱うには、当然その存在を感じる事は必須だ。


「そう言われてもなあ……」

「そもそもユータは、魔力の扱い自体は出来てるはずなのです」

「ええ……?」


 そう言われても、雄太には分からない。

 分からないの、だが。セージュの目には、雄太の抱えている筋トレマニアのシャベルに満遍なく魔力が通っているのが見えている。

 如何にも神器といえど、本人がやらなければ「そう」はならない。


「ユータ、その神器に魔力流してるですよ。気付いてなかったですか?」

「え、マジで?」


 確かに石の切り出しもやりやすくなっていたとは思ったが、そんな事になっているとは雄太には想像も出来ない。


「むー。そもそもですね、魔力を物品に通すというのが一番難しいのです。それをする為に魔力を感じるのであって、一体どうなったらそんな事に……」


 言いかけて、セージュは普段の雄太の重労働を思い出す。

 神器を使った、限界までの肉体労働の連続。

 更にはフェルフェトゥの聖水による内部からの肉体改造。


「あー……」

「なんだよ」

「あの邪神のせいなのです。ユータてば、魔法士を無理矢理作る手順をなぞってるのです」


 その昔、魔法士の修行として荒行などで無理矢理魔法の力に目覚めさせる手段があったが、恐らくわざとであろうが雄太の普段の生活はそれに近いものがある。

 雄太にはすでに魔法士としての素質が出来上がってしまっているのだ。

 それでも魔法を使えないのは、並行して行う「魔力を感じる手段」をすっ飛ばしているからであり、フェルフェトゥは魔具の作成がどうのといってセージュに丸ごと投げてきたのだ。


「あー……よく分かんないけど、俺にも魔法が使えるってことか?」

「むー」


 使えないわけではないだろう。

 しかし言ってみれば目隠しで精密作業をするのに似ている。

 魔力を感じるというのは、魔法という世界に対する目を開く事なのだから。

 そしてそれは、一朝一夕で出来る事ではない。

 

「んー……」


 見上げる雄太の目の前で、セージュはくるくると捻りを加えながら回転する。

 時間をかければ出来ないわけではない。

 無理矢理目覚めさせる方法だってある。

 しかし、なんとなく……それでは納得いかない気もしたのだ。

 出来ればセージュの自尊心を満たし雄太を満足させながら、邪神共にギャフンと言わせるような方法が良い。

 だが、そんな都合の良い方法は。


 ……考えて、セージュは思い出す。

 そういえば、一つだけある。セージュにしか出来ない、この難しい条件を満たす方法が。


「はあー……えいっ!」


 気合一発。雄太の目の前でセージュは元の姿へと変化する。

 いきなり現れた20代前後の女の姿のセージュに、雄太は慌てたように筋トレマニアのシャベルを放り出しその身体を受け止める。

 しかし、勢いのついたセージュの身体を受け止めきれずに雄太は転がり……セージュが雄太を押し倒したような格好になる。


「うわっ!? い、いきなりどうした!」


 いつものセージュとは違う綺麗で清楚な雰囲気漂う……いや、この状況は決して清楚ではないが、とにかくそんなセージュに雄太は思わず挙動不審になるが、セージュの顔は真剣そのものだ。


「ユータに、今から魔力を見て感じる力を与えようと思います」

「え、与えるって……そんなこと、出来るもんなのか?」

「出来ます。やってほしいですか?」

「そりゃあ……」


 そんなものが出来るなら最初からやってほしかった。

 そう言いたくなる雄太だったが、最初からしなかったという事は何か条件があるのだろうと気付く。


「ひょっとして、何かリスクがある方法なのか?」

「そうですね……ないわけではないです」

「もしそれでセージュに何かあるってんだったら、やらなくていいぞ?」

「ふふふ、そういうのはないです。安心していいですよ」


 そう言うと、セージュは自分の下にある雄太の身体に自分の身体を預けるように重ね合わせる。

 ふんわりと柔らかいセージュの身体が雄太に押し付けられ、雄太は慌てて逃げようとするが、その前にセージュの手が雄太の両頬を抑え込む。


「お、おい!?」

「私と貴方の契約を深化させます。ユータ、貴方に精霊の祝福を。貴方の持つ力を、更に強めましょう」


 雄太の唇に、セージュの唇がそっと重ねられる。

 甘い感触を感じたのも束の間。

 流れ込んできた魔力が雄太の中を蹂躙し、目を激しい痛みが襲う。


「ぐ、あ……!」

「心配しないで。それは貴方の持つ力が目覚めているだけ。今まで使っていなかった部分が開くだけです」


 やがて痛みが消えた、その後。セージュが、雄太をそっと抱え起こす。

 目を開いた雄太の視界に映ったのは、今までよりも色鮮やかになった世界。

 何が変わっているのかと言われると、具体的に言葉には出来ない。

 しかし、何かが違う。


「どうですか、ユータ」

「……分からない。でも、何かが違うような」


 あえて言うなら、気分もずっと爽やかなような。

 風や土も、なんだか輝いているように見えて。

 その風の中の輝きに触れようと手を伸ばすと、雄太に「輝き」が纏わりついてくる。


「これって……」

「見えてますね。「それ」が魔力です。さ、動かしてみてください」

「動かすって……えーと……なんかこう、竜巻的な?」


 そう言うと、雄太の手の中に小さな竜巻が生まれすぐに消えていく。


「よく出来ました。それが魔力を見て扱う、ということですよ?」

「え。ど、どういう……ことなんだ?」

「ユータの持っている神や精霊を見る能力を、少しばかり拡張しました。私達精霊が見ているものを見えるようにしたんですね。どうせいつかは目覚める能力でしたから、早めただけですけどね?」


 笑うセージュに、しかし雄太は完全には理解できない。

 出来ないが……どうやら、魔力を扱うどころか魔法的なことが出来るようになってしまったということだけは、確かなようだった。

魔力の扱いを勉強するはずが凄い精霊に好かれすぎて一瞬で魔法使いになってしまった件について

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