神殿完成
さらに数日が経過して、ミスリウム村に立派な神殿が完成していた。
……といっても建物だけであって内装は何もないのだが、それでも立派なものだ。
雄太のここまでの経験と技術を全力で詰め込んだ建物は立派で、ある程度の腕を持つ職人といっても良い程だ。
「ついに完成か……素晴らしい建物だな」
「随分かかっちゃったけどな」
「あれ以上建築速度を上げるのは無理だったと思うぞ……」
コロナは苦笑交じりに雄太にそう言うと、ちらりと集まった邪神達へ視線を向ける。
そう、今日は珍しく居たガンダインも含め、全員集合だ。
その邪神達は神殿を見上げ、満足そうな顔だ。
デザイン的には西洋の神殿を参考にしているが、雄太の朧げな記憶を元にしているので細部は雄太のセンスで作っている。
「ま、とにかく入ってみましょうか」
平屋造りの神殿は入口を丸い柱で飾り、ミスリウム村では初の両開きの扉が訪問者を迎える。
それをフェルフェトゥが開くと、その先には大きな広間がある。
部屋としては、それだけの建物だ。
しかし採光の為の窓を作り等間隔に並べた柱で飾った室内は手間がかかっており、質の良い調度品を並べれば一流の神殿と呼んでも差し支えない空間だった。
「ふーん……どう?」
「いいと思う、わ」
「だな」
「これを一人でやったってか。中々のもんじゃねえか」
「凄いですよ、ユータ!」
邪神達もセージュもそれぞれのテンションの差こそあれど一様に雄太を褒め、雄太は照れたように笑う。
「ま、内装とかは流石に手が回ってないんだけどさ。あの窓も……ガラスでもあればいいんだけどな」
そう、明り取りの窓には何も嵌ってはいない。
こういう場所であればステンドグラスでもあればいいのだろうが、雄太にはそんなものを作る技術はない。
「それなら問題ないわよ。ねえ?」
フェルフェトゥの呼びかけに全員が頷く。
「ねえユータ。井戸の時の事……覚えてるかしら?」
「井戸? あれは確か……」
雄太が井戸を掘り、フェルフェトゥが立派な井戸の形に仕上げた。
その時の事を雄太が思い出すと同時に、フェルフェトゥ達の手の中に光が生まれる。
「とりあえず私好みでいいかしら?」
「……仕方ない、わね」
「任せる」
「だな」
フェルフェトゥの手の中にベルフラットの、バーンシェルの、そしてガンダインの手から離れた光が集まり、一つの大きな輝きになる。
「よく頑張ったわね、ユータ。貴方の捧げたこの神殿に、私達から祝福を授けるわ」
そして、フェルフェトゥの手に集まった光が弾け広がっていく。
石の床には真っ赤な絨毯と立派な祭壇が。
窓には透明な水晶窓が嵌り、壁には荘厳な飾りつけがされていく。
「すっげ……」
「これが神の祝福……」
その光景を見ていた雄太とコロナは絶句し、あっという間に内装が揃ってしまった神殿内部を見回す。
「これで神殿も完成……ってところかしら?」
「あ、ああ」
一気に煌びやかな空間になってしまった神殿を見回して、雄太は頷く。
「……凄まじいな、神の権能とは。ユータ殿、此処にある物品は全て魔具だぞ……?」
「だろうなあ……」
フェルフェトゥ達の権能で作られたのだから、当然魔具なのだろう。
どんな効果があるのかまでは、雄太には分からないが。
「こんな事まで出来るんだな、権能って……」
「ふつーは出来ないのですよ」
雄太の頭の上で呟くセージュに、雄太は「ん?」と聞き返す。
「出来ないって……でも、出来てるだろ」
「ふつーは出来ないのです。たぶん、フェルフェトゥが特殊なのです」
「特殊って」
確かフェルフェトゥは水神の一柱だったはずだ、と雄太は思い出す。
いや、しかし星の海もフェルフェトゥの範疇だっただろうか。
ああいうのは水神の範疇でいいのだろうか?
そうでないのであれば……フェルフェトゥとは、一体どういう神なのか。
雄太のその疑問が膨らむ前に、フェルフェトゥがフッと笑う。
「そうね、確かに私はちょっとばかり器用だわ?」
「……そういう問題じゃねーと思うですが」
「そういう問題なのよ。私にだって出来ない事はあるけど、こうして他の神の力を合わせる事で出来る事は格段に増すわ。ただそれだけのことでしょう?」
フェルフェトゥが水。
ベルフラットが土。
バーンシェルが火。
ガンダインが風。
なるほど、確かにこの四つが揃っていれば出来ない事などほとんど無いに違いない。
「……確かにそうだな。四大元素全部揃ってるしな」
「納得いったなら良かったわ」
フェルフェトゥが肩をすくめ、セージュは何とも言い難い顔をするが……雄太の頭の上にいるので、雄太からはその表情は分からない。
「とりあえず全員の神殿って感じだけど……これが観光の役に立てばいいんだけどな」
「間違いなく観光客は来るだろうが……防犯の問題が出てくるな」
この神殿の中にあるものが全部魔具であることが知れれば、不届き者が出てもおかしくはない。
人間の町の神殿でだって、その類の騒ぎが定期的に起こるくらいなのだ。
こんな辺境の神殿ともなれば……。
「んー。じゃあ、その辺は私が請け負うですよ」
「請け負うって……此処に常駐するのか?」
「そんな事はしないですけど。 要は、此処に誰か居ればいいですよね?」
そんなセージュの質問に、雄太は「ああ」と頷く。




