表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユグレシアの地で  作者: とうみ
静かな世界
3/5

3

 私たち5人の“商品”は、今度は舞台の上に並べられた。仮面が座席にずらっと並ぶ。無表情が私たちを見つめていた。

 “商品”は飾られていた。上質なドレスに着替えさせられ、壁に拘束されていた。動くことはできない。エルフの少女がすごい形相でもがいていたが、それは無駄だった。カチャカチャと煩わしい音が静寂の中に広がる。

「離せ! 離せったら!」

 全員、口枷は外されていた。だから、喋ることはできた。だが、エルフの少女以外、誰も言葉を発しない。

「レディースアンドジェントルマン」

 司会らしき男が大きな声で呼びかける。仮面たちに少しの緊張が走るのが見えた。

「今宵のショーにようこそおいでくださいました」

 男が喋るのに被せるようにエルフは叫び続ける。しかし、男はそれを気にせずに進行していく。男は私5人を雑に説明した。

「さて、皆さん、お待ちかね。ショータイムの始まりです!」

 司会の男がそう言うと、4人がかりで大きな椅子を持ってこられた。しかし、それを椅子というには、あまりにも恐ろしい形状だった。

 背もたれ、ひじ掛け、台座、全てに鋭利な突起が取り付けられている。それは隙間なく並び、赤茶色のシミがこびり付いていた。

「さて、最初の犠牲者はこちら!」

 陽気な司会の男の指先がエルフの少女を指す。エルフの少女が照らされた。少女の顔から血の気が引いていく。男たちがその少女の拘束を解いた。一瞬の隙をついて逃げようとする少女。捕らえられる少女。

「やめろ! 何でもするから!」 

 男たちは少女の必死の懇願を意に介さない。慣れた手つきで、針付きの椅子の前に少女を立たせた。

「座らせろ」

 無慈悲な言葉が少女を貫く。暴れる少女を押さえつけ、男は少女を椅子に座らせる。針が少女の肉体を貫く。血が滴り落ちる。


「うあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 絶叫が空間を包む。悲痛な叫びが響く。少女の足元に血の海が広がった。

 それとは裏腹に、男たちは着々とエルフの少女を椅子に固定する。


 再びの絶叫。


 仮面たちが笑っていた。座席から拍手が溢れ出す。

 

 少女の絶叫と仮面たちの拍手。それが繰り返される異様な舞台。それが私の目の前にある。

 私は目をそらした。

 それと同時に隣から別の絶叫が聞こえた。

 隣で拘束されている黒髪の少女が叫んでいた。その叫びはあの日に聞いたものに似ていた。目の前の絶望から逃げるための声。全てから逃げるための声。


 拍手はそれをも掻き消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ