表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユグレシアの地で  作者: とうみ
静かな世界
2/5

2

 ごとごとと揺れる荷台の中が次の居場所だった。

 あの男に買われた“商品”は私を含めて5人。私、黒髪、紫髪、エルフ、ヴァンパイア。全員が違う方を眺め、誰も言葉を発しない。それもそのはず。エルフが罵声を飛ばし、黒髪とヴァンパイアが泣き叫ぶから全員、口枷をはめられた。そして、全身をきつく拘束された。私たちは動くことも話すことも許されない。ここに一切の自由はない。

 私は荷台に転がされたまま、あの日のことを思い出していた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 平和な日。なんてこともない日常。その夕方。

 玄関をノックする人がいた。父は警戒することなく扉を開けた。次の瞬間、父を貫いたのは弾丸。溢れ出る血液。弾丸。血液。弾。血。弾。血。

 母親は叫んだ。私と兄は動けなかった。妹は泣き叫んだ。

 銃口が次にとらえたのは母だった。

 母は許しを請う。子供だけでも、と許しを請う。男たちがニヤッと笑う。弾丸が母の胸を赤く染める。

 涙が、鼻水が、叫びとともに体中からあふれ出る。私は叫んだ。叫んだ。叫んだ。

 弾丸。


 静寂。


 兄が私と妹を庇う。

 弾丸が兄を殺す。鮮血が体中に付着する。妹が私の後ろで泣き叫ぶ。

 私が妹を庇う。にやついた男たちが私と妹の腕を掴む。そのまま、外に引っ張り出される。私に銃口が向けられる。妹は泣き叫ぶ。

「どうして、どうして、こんなことを…………」

 やり場のない感情が、声になる。這い出てくる。

「ねえ! どうして! どうしてなの!」

 私は無様に、不格好に、叫んだ。それを笑い声が蓋をする。

「それはな、お前の運が無かったから」

 男たちの中の誰かが答えた。

「それだけだ」

 私は叫んだ。現実から逃げるように、絶望から逃げるように叫んだ。叫んで、叫んで、叫んでいた。

 男たちはそれを気にしない。私は無理やり薬を飲まされる。視界が薄くなる。耳が聞こえなくなる。手足の感覚がなくなる。 

 その少しだけ前。

 煙が空を覆っているのが見えた。火が村を焼き尽くすのが見えた。同じような叫び声が遠くからも聞こえた。

 日常の崩壊が見えていた。

 私の崩壊が聞こえていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 妹の行方を私は知らない。きっと妹も私の行方を知らない。

 生きている保障はない。でも、きっと妹は死んでいる。天国で、私以外の全員が楽しく暮らしている。そのはずだ。それが一番楽で、幸せな答えだった。


 そんな答えを雨音が遮る。雑音が世界に広がる。

 何もかもが鬱陶しい。

 水が流れる音が鬱陶しい。

 金属の擦れる音が鬱陶しい。

 車輪の音が鬱陶しい。

 服が擦れる音が鬱陶しい。

 呼吸の音が鬱陶しい。

 心臓の音が鬱陶しい。


 静かな世界が恋しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ