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ごとごとと揺れる荷台の中が次の居場所だった。
あの男に買われた“商品”は私を含めて5人。私、黒髪、紫髪、エルフ、ヴァンパイア。全員が違う方を眺め、誰も言葉を発しない。それもそのはず。エルフが罵声を飛ばし、黒髪とヴァンパイアが泣き叫ぶから全員、口枷をはめられた。そして、全身をきつく拘束された。私たちは動くことも話すことも許されない。ここに一切の自由はない。
私は荷台に転がされたまま、あの日のことを思い出していた。
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平和な日。なんてこともない日常。その夕方。
玄関をノックする人がいた。父は警戒することなく扉を開けた。次の瞬間、父を貫いたのは弾丸。溢れ出る血液。弾丸。血液。弾。血。弾。血。
母親は叫んだ。私と兄は動けなかった。妹は泣き叫んだ。
銃口が次にとらえたのは母だった。
母は許しを請う。子供だけでも、と許しを請う。男たちがニヤッと笑う。弾丸が母の胸を赤く染める。
涙が、鼻水が、叫びとともに体中からあふれ出る。私は叫んだ。叫んだ。叫んだ。
弾丸。
静寂。
兄が私と妹を庇う。
弾丸が兄を殺す。鮮血が体中に付着する。妹が私の後ろで泣き叫ぶ。
私が妹を庇う。にやついた男たちが私と妹の腕を掴む。そのまま、外に引っ張り出される。私に銃口が向けられる。妹は泣き叫ぶ。
「どうして、どうして、こんなことを…………」
やり場のない感情が、声になる。這い出てくる。
「ねえ! どうして! どうしてなの!」
私は無様に、不格好に、叫んだ。それを笑い声が蓋をする。
「それはな、お前の運が無かったから」
男たちの中の誰かが答えた。
「それだけだ」
私は叫んだ。現実から逃げるように、絶望から逃げるように叫んだ。叫んで、叫んで、叫んでいた。
男たちはそれを気にしない。私は無理やり薬を飲まされる。視界が薄くなる。耳が聞こえなくなる。手足の感覚がなくなる。
その少しだけ前。
煙が空を覆っているのが見えた。火が村を焼き尽くすのが見えた。同じような叫び声が遠くからも聞こえた。
日常の崩壊が見えていた。
私の崩壊が聞こえていた。
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妹の行方を私は知らない。きっと妹も私の行方を知らない。
生きている保障はない。でも、きっと妹は死んでいる。天国で、私以外の全員が楽しく暮らしている。そのはずだ。それが一番楽で、幸せな答えだった。
そんな答えを雨音が遮る。雑音が世界に広がる。
何もかもが鬱陶しい。
水が流れる音が鬱陶しい。
金属の擦れる音が鬱陶しい。
車輪の音が鬱陶しい。
服が擦れる音が鬱陶しい。
呼吸の音が鬱陶しい。
心臓の音が鬱陶しい。
静かな世界が恋しい。