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終わりまで書く練習です。
いっぱい書けたらいいなあ。
薄暗い部屋の中心を、長身の女と太り気味の男が歩いている。部屋の壁には少女たちが鎖でつながれていた。叫ぶ少女、耐える少女、諦める少女、様々な“商品”が並んでいる。その中に私はいた。
「こちらはいかかでしょう。種族はエルフですね」
耳の長い少女が鎖でつながれているのが見えた。私と同じように手枷足枷を付けられ、動くことは叶わない。目つきだけが、歩く2人を殺そうとしている。女はそれを気にすることなく、淡々と説明を始めた。
「等級は下級。言動は粗暴。逃走を図ったことがあるので、運搬中は気を付ける必要があるでしょう」
「クソババア! とっとと鎖を――――」
女が鎖を持ち上げる。エルフの少女の首が締まり、苦しそうな表情になった。もがこうにも、手枷がつけられた手では、どうすることもできない。
「静かにしてください。お客様の前ですよ?」
女が鎖を離すと、エルフの少女は床に転がった。咳き込む音が部屋の空気を震わせる。
「エルフとは珍しい。これは盛り上がりそうだな。他のも見せてくれないかね」
「承知いたしました」
女はコツコツと音を立てながら歩く。その後ろを、太った男がついていく。その足音は私の隣の黒髪の少女のところで止まった。黒髪の少女がびくっと震える。
「こちらはいかがでしょう。種族は純血。等級は中級。言動に問題はありません」
「声を聞かせてもらっても?」
「ええ、いいですよ」
女の視線が黒髪の少女を捉えた。その途端、甲高い絶叫が部屋中に響き渡る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
手枷のせいで耳を塞ぐことができない私は、その音にじっと耐えるしかなかった。
「もういい。黙れ」
女がそう言っても、黒髪の少女は焦点の合わない目のまま、叫び続けた。女が鎖をぐっと上に引き、首が締まることで、それは収束を迎えた。
「失礼いたしました」
「これは素晴らしい叫び声だ。候補に追加しておいてくれ」
「承知いたしました。あとはですね――――」
女は紙にメモを取ると、そのまま指を私に向けた。
「こちらもどうでしょう。種族は純血。等級は中級。こちらも言動に問題はありません」
「おお。これも良さそうだ」
女が、分かっているよな、とでも言いたげな顔でこちらを見ている。私は逆らうわけにはいかない。何をされるか、分かったものではないから。
私は硬直した唇をできる限り動かし、声を発した。
「こんにちは……」
か細く弱い声だった。それが気に入らなかったのか、女は他の少女にしたように、鎖を持ち上げた。首が締まる。呼吸ができない。
「もっと大きな声で言え」
「は…………い…………。わか……り……まし……た…………」
女が鎖を離す。私はしばらく咳き込んでいた。大きく息を吸い込み、「こんにちは」と、声を発する。先ほどより大きな声が出てくれた。
「ほう。これも良い声だ。これもいい。これも候補に追加してくれ」
「ありがとうございます。他にもご覧になられますか?」
「ああ、頼むよ」
2人はそのまま過ぎ去った。私は壁にもたれ掛けた。足音が耳から離れない。力の抜けた手が冷たい床に触れる。その冷たさが、私を殺していく。