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夜と愛と

作者: 野火俊弥

トミーは、時たま死にたいと思う時が在って、そんな時には決まってローゼスを普通の人なら死んでしまうような量を飲んで、最後には横になって朦朧とした意識の中で私の膝小僧を求めて左手を伸ばし私を探して見つけると、安心した様に眠る。

私の膝に擦り寄せた酒の温度で震える体を擦りながら冷笑的に見る私は、何て寂しい人間だろうと思う。

トミーは、泣きながら自分が生きている心地が分からないと言うが現実に生きて居るのに、何故そんな事を考えるのだろうと思う。

彼曰く、心が一つ所に落ち着かないのだそうだ。その心の動きが生きている事よ、と云うと不思議そうに隈の浮いた目を瞬かせた。

トミーは、いつも卑屈な性分が滲んでいる様な前屈姿勢で歩く。

子供の頃に車に撥ねられて以来曲がったままの左足に付けた恰好悪い矯正具を重たげに、がちゃつかせながら不器用に体を揺らして歩くトミーは酷く滑稽で愛らしい。

私はトミーの温度が好きだ。

私はトミーの匂いが好きだ。

私はトミーの傷が好きだ。

私が愛しているのは、トミーの影ばかりだ。私の愛何ていうのはとても薄っぺらだ。

「君は俺の事を好きかい」

「好きだよ」

「死んだら、泣いてくれるかい」

「泣かないよ」

ナンセンスな質問と答えの向こうでトミーがあまりに悲しそうにするから私はニコリと笑って、一緒に死ぬ?と言うとトミーは、更に悲しそうな顔をして、君が死ぬのは嫌だなぁと言った。

床に置いた矯正具のヒンジが放つ鈍い銀色が何時もの事のように小さく私とトミーを映す。

また今日も泣かしてしまったが、私はトミーの慰め方はキスくらいしか知らない。トミーの中はローゼスの苦い味だ。キスの後に現れる悲しそうな笑顔が好きだ。

光の無いぽかりと開かれた目の奥には、私やその他の人間なんかは映っていない。

涙ばかりの存在を、私は溺愛している。そんな理由だけで私のトミーは存在できる、涙を流さないトミーは好きじゃない。

瞑った目蓋にキスをして、死んじゃ嫌よ、と言ってはみたけれどその言葉も届かない。


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