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ヒノモトノタビ  作者: イチ
3/4

3話:ユウの過去



弾薬を購入し、地上へ出る準備を終えたユウは、出口近くで待っていた シンヤ の元へ向かった。


「お待たせしました。」


「おうよ!…おいおい、銃は?」


ユウが身に付ける武装を見て、シンヤは目を丸くした。


右足のホルスターに入ってるのは「9mm拳銃」。

バックパックに留められているのは、単発式の「滑腔式小銃丙型」。

そして左腰には日本刀を携えていた。

ユウは小銃を所持していなかったのだ。


「先日壊れてしまいまして…使い勝手の悪いパイプ小銃でしたし、必要ならまた作ろうと思います。」


…『簡易歩兵小銃乙型』通称『パイプ小銃』。

パイプや鉄クズを加工して作られた小銃。

比較的丁寧に作られる甲型に比べ、生産性の重視を為されている。ある程度の道具で作成可能だ。


「作る…って事は乙型か。まあ、無いよりはマシ程度か。

っと、こんな事してる場合じゃねーな。出るぞ!」


警備兵がエアロックを開ける。


「帝国バンザーイ!」


合言葉と共に2人は地上へ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



(少し…風が強いな。)


外に出ると、相変わらずの光景が広がっていた。窓ガラスのないコンビニ。横倒しの高速道路。

だが、ユウには戦前それが何だったのかは分からない。


シンヤが今にも崩れそうな六本木ヒルズを指差して言った。


「あの建物はいつ崩れるんだかな。怖いのぉ。まーいいや、近道しながら行くぞ!」


2人は黒焦げのタンクローリーを越えた。

空になったタンクから何かが顔を出したが、すぐに引っ込んだ。


(臆病な獣蟲か。全部がこうなら良かったのに。)


ふとシンヤがユウに尋ねた。


「なあユウ、お前の出身はどこなんだ?」


「…6歳まで地下鉄駅のどこかに住んでいました。名前は分かりませんが。」


「ふむ。6歳まで。それからは?」


「埼玉のツクバ村で育てられ、14歳で村を出ました。

…周りを警戒しましょうよ。」


「おいおいこんな辛気臭い街歩いてんだからよぉ、良いじゃねぇか!

安心しろ。ちゃんと見てるからよ!」


そう言ってわざとらしく顔を振り辺りを見渡すシンヤ。


ユウは少し呆れ顔だ。


「で、なんで村に移った?」


(話したくないって言っても無駄だろうな…)


「…両親が共産主義者を匿ったとして、駅を追われました。

父はその事実が発覚し、家で兵士に殺されました。

母は、私を逃がそうとしているところを獣蟲に襲われ、トンネルで死にました。」


「…ふーむ。反共感情の強い北方の駅か。

すまん、辛かったら…もう良いぞ。」


暗い過去を話すのは辛い。だが、話し終えたあとは少し楽になるものだ。


「…ここまで話したんです。最後まで話しますよ。

匿った共産主義者…私の記憶には、宿を貸した優しい旅人でした。

自分にもこれくらいの子がいる

と、何度も頭を撫でられたのを覚えています。」


「俺は連中があまり好きじゃない…が、奴らも人だからな。

しかし、獣蟲に襲われたんだろ?そん時お前は6歳。よく生き残れたな。」


「ええ。何かが…助けてくれたんです。すぐに気を失ったため、顔は覚えていませんがね。

それが私をツクバ村まで連れてくれたようです。

ツクバ村では、それを「土竜神」と呼んでいました。」


シンヤはそれを聞き、小声で呟いた。

「土竜神…トンネル…掘人族かもしれんな。」


「え?なんて言いました?」


聞き取れずにユウはシンヤに尋ねる。

が、ここでシンヤが何かに気づいた。


「…僅かに地面が揺れてる。こりゃ何か来るな。隠れるぞ!」


(言われてみれば…)


2人は急いで近くの建物に入り、デスクの下に潜り込んだ。

隙間から外の様子を伺う。


(揺れを確かに感じるようになった。何かの群れが…来る!)


「ボウッバウッ ゴルルル」


(…狛犬か!!あんなに群れを成しているのは初めて見るな。)


…狛犬

体高80cm程体重は90kgにもなる犬のような獣蟲。例を取るならば、ゴールデンレトリバーの一回り二回りの大きさだ。

体毛はまばらであり、今なお変異し続ける様子が伺える。

1対1で対峙してもかなり脅威となりえる。


(2~30程の群れだろうか)


ドンッ!!


ユウが潜り込んでいるデスクが大きく揺れた。


「フーッ フーッ」

荒い吐息が聴こえる。


(嘘だろ…上に乗ってきた!)


ユウは口を手で押さえ、気配を消す。


ドンッ


狛犬がユウの目の前に降りた。

背を向けているためまだ見つかっていない。


(やばい…仲間を呼ばれたらどうにも出来ない…銃も音が出るし、この体勢では刀も抜けない…!)


「ゴルルル」

辺りを見渡す狛犬。


ゆっくりとこちらに顔を…


「オオーーーン…」


遠くから狛犬の遠吠えが聞こえた。群れの仲間だろう。


「オオーーーン!!」


目の前の狛犬が返事をすると、その場から走り去っていった。


(あ、危ない…)

ダラダラと冷や汗を流していたユウは、呼吸を整えた。



タタタァン… ドンッ… ドンッ…


「遠くで銃声が聞こえる。捜索隊が狛犬の群れにかちあったかな。

…大丈夫か?」


辺りの安全を確認し、シンヤが出てきた。


「大丈夫です。

捜索隊の方…かどうかは分かりませんが、我々は幸運でしたね。

今のうちに行きましょう。」


シンヤは先ほどの危機を忘れるかのように笑って言った。


「そうだな!お宝貰いに行こうや!」

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