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ヒノモトノタビ  作者: イチ
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2話:悪夢

「あいつのせいだ………のせいだ…!」


母さん、何を言ってるの?


母さんの細い腕が僕をしっかり抱き締める。


なんでずっと走ってるの?


「あなたぁ…なんで…!…この子は…守らなきゃ…」


何から守るの?何から逃げてるの?誰から?


突然僕は空中に投げ出された。

痛い。母さんが転んだ。


「走って!前に!ユウ、お願い走ってぇ!!」


分からない。なんで、なんで。


後ろを振り返ると、数匹の何かが母さんに飛び付いていた。


走る。泣きながら走る。


母さんが後ろから照らしてくれてるが、トンネルの暗闇はそれを嘲笑うが如く…深い。


「私を食ええええ!!そっちに行くな!!いっっ、私を…ユウ!振り返、らなッ…いで!!走ってぇぇええ!!!!」


後ろから何かが追いかけてくる。

それと同じ足音が前からも…

僕はどうすればいいのか分からず、その場に止まって泣き出してしまった。


カサカサガサガサ


涙でよく見えないが、何かが僕を囲んでいるのが分かった。

怖い。怖い。


ボコッ


突然上から何かが…誰かが?出てきた。


僕の前に立ち、ゆっくりとこちらに顔を向ける。

その顔は………



「ウあッ!!!!」


肩を上下に動かしながら、ユウは呼吸を整える。

右手で顔を覆った。


(嫌な夢を見たな…)


肌着は汗でびしゃびしゃになっていた。


『走ってぇぇええ!!!!』


母さんの叫び声が頭の中で響く。

大好きな母さんの声を聞いたのは、それが最後だった。


ユウは濡れた肌着を脱いだ。


(あと1日は着ようと思っていたのに…まあ、仕方ない。)


サッと外着に着替えると、ユウはバックパックを背負って宿を出た。



地下空間には、トタンなどの廃材で造られたいくつもの部屋が出来ている。

特にここ「ミッドタウン」は短期の貸し部屋が多かった。


狭く歪な通路を歩き、ユウは市場のある「六本木駅」を目指した。

ミッドタウンと駅は地下の連絡口で繋がっている。階段をいくつか昇り降りした先の、日比谷線B2と呼ばれるエリアにその市場はある。


(弾薬を買っておきたいな。フィルターを買う程の金は…無いかなぁ。)



◇ ◇ ◇ ◇



「さあ見ていって!うちの缶詰めは美味しいよ!」

「我らが帝国製の新作武器が入荷した!数量限定だぞ!」

声を張り上げる商人。


「それで賭けに負けた岩井の野郎がよぉ…」

「なんだそりゃ?バカだなあいつ!あはは!」

タバコを吹かす休息中の警備兵達。


他にも走り回る子供やフラフラと足元のおぼつかない酔っ払い。


ここは六本木駅市場。


(本当に賑やかだよなあ。ここはいるだけで楽しい、が、疲れる。

早めに済まそう。

まずは装具店に行くかな。)


「おう!いらっしゃい!

何をお求めで?防具ならこれだ、そこまで重くなく…」


勝手に防具(剣道の胴)を勧めてきた店主。

ユウは少し困った顔で


「ああ、いや、売りに来たんです。」


「お?ああ…どれ、見せてみろ。」


ユウは、昨日死体から剥いだ工事用ヘルメットと弾帯、革手袋、ガスマスク(フィルターは自分の物にした)を取り出した。


「どうですかね?」


「ん~~、15円ってとこかな。」



…日本帝国の通貨

空気が汚染されている東京では、地上に安全で健康(地下と同程度に)な拠点を置くのは難しい。

日本帝国が東京に置く数少ない拠点の1つに、東池袋の造幣局がある。

ここで製造される「銅貨」が現在の日本帝国の通貨である。

1.10.100.円玉と1,000円棒が製造されている。


「うーん…20円!」


「…18、いや17円!」


「それで頼みます。」


17円を受け取る。


「あ、そうだ。フィルターってあります?」


「ああ、1個70円だ。」


(高い…)


値下げしてもらっても、「買い」の値段にはなるまい。


ユウは顔をしかめた。

すると横から、中年…に近い1人の男が話しかけてきた。


「なぁ兄ちゃん、フィルターが欲しいのかい?」


「ええ、まあ。」


急に話しかけられて戸惑うユウに構わず、男は話し続ける。


「いや良い話があるんだよ!でもここでは難だ。向こうで茶でも飲もうや。な?」


『良い話』が良かった試しは無い。だが『若さ』故に、ユウは興味心に勝てず、彼についていく事にしてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇



「勇敢なる若人に乾杯!!…って、お前本当に茶を頼んだのか…」


「そのつもりだったので。」


(変に飲まされてもロクな事は無いからなぁ)


「まあいいさ。兄ちゃん、数日前からここにいるだろ。

俺は見てたんだぜ?兄ちゃんが毎日拾得品を持って帰ってくるのを。

お前さん、出来る奴だろう?」


「しらみ潰しに探してるだけですよ…そんな大したことではないです。」


と言ったものの、少し良い気になってしまう。


「おっと、まだ自己紹介をしていなかったな。

俺の名は泉シンヤだ。よろしく。」


「不知火ユウです。よろしくお願いします。」


チンッ

グラスと湯呑みで軽く乾杯する。


「さあ、本題だ。

(小声で)さっき警備兵から盗み聴きしたんだが、数人の巡回兵が連絡を絶ったそうだ。

何を揉めてるのか捜索部隊もまだ出てない。

奴等の巡回コースは頭に入っとる。

奴等の装備を頂こうじゃないか!

フィルターは全部お前にくれてやる。どうだ?手伝ってくれんか!」


「…連絡を絶ったという事は、…未だ捜索隊を出さないのは、それなりの理由があります。巡回兵を殺った奴を僕ら2人でなんとか出来ますかね。」


「だ~から出来る兄ちゃんに頼んでんのよ!

それなら!巡回兵の武器も!何個か持ってって良いからさ!」


(取らぬ狸の皮算用って奴か。その狸ってのがなんなのか知らないけど。)


「まあ、1人で地上に出るのも飽きましたし。良いですよ。その話、乗りましょう。」


それを聞いた男、シンヤは

「そーか!そーか。ありがとうよ!

それじゃ4番出口に集合だ。俺は先に行ってるから、さっさと準備して来てくれよぉ!」


(元気だな…弾薬だけ買ったら行くか。)


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