表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒノモトノタビ  作者: イチ
1/4

1話:地獄の爪痕

よろしくお願いします。

倒れたビル。崩れた民家。ひび割れたアスファルト。

真っ黒に焦げた車にもたれかかる白骨死体。


青年はチラと目を向けたが、剥ぎ取れる物が何も無いのは一目瞭然。歩みを止める事なく彼は前に進む。


今にも落ちてきそうな灰色の空。

一呼吸でゴリゴリと命を削る淀んだ空気。


(どれもこれも、相変わらず最低だな。)


思わず溜め息を吐きたくなったが、青年は思い留まった。


(フィルターは節約しなくちゃ…)


彼が顔に被っているのはガスマスク。所持しているフィルターはそう多く無い。


彼の服装は安全靴に灰色のカーゴパンツ。Yシャツの上には茶色の革ジャンを羽織り、腰には弾帯を巻き、バックパックを背負っている。


ここ、 東京 は放射能の影響が強い。

その影響を少しでも和らげるため、肌を出す訳にはいかない。


弾帯に装着している大きめのポーチから、彼は革製のシステム手帳を取り出した。


パラパラとページをめくり、手書きの地図を開く。


(あの建物にはもう何も無し…野宿するにも適さないな。)


ある地点に印を付け、コンパスを見ながら自分の位置を改めて確認する。

ここから1番近いのは六本木駅近くの地下拠点「ミッドタウン」だ。


(そろそろ暗くなって来た…地下に戻ろう。)


パタン と手帳を閉じる。


表紙に彫られた自分の名前に目が行った。


不知火 ユウ


(母さん…父さん…)


この手帳は彼、ユウが6歳の誕生日に両親が買ってくれた物だった。


たくさん勉強して、賢い子になって欲しいと。

色々な出来事を書き留めて、感情豊かな子になって欲しいと。

きっと両親はそう願ったんだろう。


ユウは今、18歳になる。

良く言えばフィールドワーカー

悪く言えば死体漁り、流れ人

それが彼の生業だ。


だがそんな事はこの世界で当たり前。

崩れた民家から物を回収

死体から装備を剥ぎ取り

殺した生物…「獣蟲じゅうむ」の革や肉を剥ぐ。


ユウはそれらを売りながら、各地を旅していた。

「通貨」はその国・村・組織により違うが、売れる物は同じだ。


(両親は、僕がこうなる事を望んでいたのだろうか…)


ふと考えてしまったその時


ゴトッ ヂッチチチッ


「ッ!!」


物音、そして鳴き声が聞こえた。

この声は…


(六脚ルージャオ!!)


数匹のネズミが姿を現した。

だが、ただのネズミでは無い。


六脚ルージャオ体長60cm前後のネズミ。

名前の通り、脚が6本あるため素早く、天井に張り付くなどどんな体勢も取る事が出来る。

新宿周辺に生き残った中国人ギャングが呼んでいた名前がそのまま浸透している。


ヂヂッヂッ


六脚がジリジリと近づいて来る。

ユウはバックパックに突き刺さしていたフリントロック式風の短銃を引き抜いた。


これは日本帝国製「滑腔式小銃丙型」である。

「短マスケット」と呼ぶ人もいるこの銃は、事前に弾と火薬を装填しておく事が可能で、鉛弾・散弾・信号弾等数種類の弾丸を発射出来る。


しかし、ユウは「9mm拳銃」を所持していた。何故、9発装填出来るこの拳銃を使わないのか。

それは威嚇の為である。


「滑腔式小銃丙型」は黒色火薬を使用する。そのため、他の銃より発砲音と爆煙が大きいのだ。


ユウは歯を食いしばり、轟音に僅かながら怯えつつも、六脚に向けて散弾を放った。


カチッ ドゴォン!!!!

ヂヂヂヂヂッ!


身を翻し、煙に姿をくらませながらユウは走り出した。


(目的地までは遠くない…入り口付近には巡回兵や警備兵もいるはず!

それまで持ちこたえれば…)


走りながら熱くなった短銃をバックパックの外に引っ掛け、留め具を掛ける。

9mm拳銃を取り出し背後を伺う。


3匹の六脚が煙の中から出てきた。

走りながら拳銃を撃っても当たる確率は低い。だがこういった状況は前にもあった。


(やれる…絶対…!)


前方を注視し、走るコースを見定め、

後ろを向いて六脚に銃を向けた。

とんでもなく照準が狂う中でも、合う瞬間がある。


そこを見逃さない。


バンッ バンッ!


六脚の顔が飛ぶ。

声もなく絶命した。


(ヨシ!)


怒って追いかけていた六脚だったが、仲間が殺されて退却した。


今度は流石に堪える事が出来ず、ユウはため息を吐く。


(今回は数が少なくて助かった。だけど奴らは一匹いたらなんとやら…)


ユウは「もしかしたら」を考えゾッとした。



瓦礫を乗り越えると、

「ミッドタウン」の入り口が見えてきた。


(なんとか日が暮れる前に到着出来たな。)


警備兵が銃を構えながら近付いて来た。


「誰だ!何をしている?」


「フィールドワーカーです。物資を回収して戻ってきました。」


「通行証を見せろ。」


ユウはポケットから木の札を取り出し、警備兵に見せた。


「良し。行っていいぞ!

帝国万歳!」


「…帝国万歳!」


ユウは軽く敬礼し、階段を降りた。その顔は嫌悪感に満ちていた。


エアロックの扉を通り、宿に向かう。


(疲れた。今回は腐るものも無いし、売るのは明日にしよう。)


借りている宿部屋に入り、荷物を置く。

そのまま布団に転がりたい所だが、ユウには日課があった。


ユウは手帳を机に広げた。

彼の日課。それは日記を書く事だった。


両親からもらったこの手帳。出来る限り色んな事に使いたくて、いつからか始めていた。

紙も安くは無いが、ユウにとってそんな事は関係無い。



ーーーーーーーーーーーーーーー

神歴33年4月8日


そろそろガスマスクで行動するのも嫌気が差してきた。比較的空気が綺麗な 埼玉 にいた頃が懐かしい。4.5年前に帝国と戦争をしていたという甲斐国に行ってみようか。

僕は、拠点に入る前に行う警備兵とのやり取りがどうしても好きになれない。僕は何に対して万歳と言っているのだろうか。まさか、両親を殺した帝国に?


お目通しありがとうございました。


アルファポリス様で先行掲載しております。

どうぞよろしくお願いします。


http://goo.gl/6IJs9v



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ