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9話 同盟

 ライド村の食料を手に入れてから俺の出費も抑えられた。農園も種を撒き終え、後は結果を待つばかりだ。少し時間に余裕が出来たので、俺はリアと二人でデートに出かけている。デートと言っても少し離れた森へ果実を取りに行くリアに俺が付いて来ているだけだが……


「リア、その木に登るのか? 危ないぞ」


「大丈夫です。これでも私は身軽なんですよ」


 目の前に在るのは高さ4m程度の木、枝には赤い果実がなっており、甘くて美味しいらしい。枝は2~3m程度の場所から水平に伸びている、枝元から先に行くほど細くなりその先に果実が3個付いていた。

 リアは木の窪みに指を引っかけると、スルスルと器用に登り始める。


「へぇ~、凄いな」


 枝元まで来たリアは枝に這いつくばると、バランスを取りながら枝先へと進んで行った。枝が細くなって行くのでフラフラと危なっかしく進むリアに、俺はハラハラしながら見ている。すると幾らリアが軽いと言え、細い枝はリアを支えられなくなり、弧を描くように枝先が垂れて来た。その高さは俺が手を伸ばせば果実が取れる程度である。

 俺が果実を掴み3つもぎ取った時にリアが文句を言ってきた。


「あ~っ。航太郎様、ズルいです。せっかく私がいい所をお見せしようとしていたのに……」


「えっそうか……悪かったよ。取敢えず危ないから枝から降りてくれ」


 バツが悪そうに俺がそう言うと、リアは頷き枝から降りる為にバックを開始する。だが小枝が足に引っ掛かりバランスを崩して枝から落ちそうになった。俺は咄嗟に果実を投げ捨てリアの下に滑り込むと、上から落ちてくるリアを抱きかかえる。

 以前抱き閉めた時より重く感じた。最近は三食をきちんと食べている、少しづつ本来の在るべき体へと戻ってきているのだろう。俺にはその事が嬉しく思えた。



「航太郎様、ありがとうございます。その……重くなかったですか?」


 抱かれている状態に赤面しながら、そう言って来るリアが可愛くて、恋愛の経験不足な俺はテンパってしまう。


「ああ大丈夫だ。前より重くて嬉しいよ……」


 つい思った事をそのまま声に出してしまった。その瞬間にリアの表情が彫刻の様に固まる。


「航太郎様のバカ……」


 目に涙を浮かべそう言うリアに動揺してしまい。機嫌を直してもらうまで俺は謝り倒す事になる。女性の涙が最強の武器だと初めて知った瞬間だった。

 その後何とか機嫌を直したリアは、地面に転がる果実を手に取る。3つの内一つは投げ捨てた衝撃で傷んでいた。傷んで居ない方の果実を俺に渡し、リアは傷んだ方を手に持っている。


「航太郎様、食べてみてください。アメ玉程では在りませんが、この果実は私達の村ではご馳走なんですよ」


 屈託のない笑顔と青い髪が木漏れ日に照らされ、俺にはリアが妖精の様に見えていた。


「ああ、頂くよ。だけど俺が喰うのはそっちだ」


 そう言って傷んだ果実をリアの手から取ると、皮のまま上からかぶり付いた。 確りとした水分と甘みが口の中に広がる。丁度さくらんぼを大きくした感じか。


「旨いなこれ」


「よかった~。ちょっと心配だったんです」


 リアは嬉しそうにそう言っていたが、俺はリアが果実を食べようとしない事に気付いた。


「リア、お前は食べないのか?」


「はい。私はいつも食べてるので大丈夫です」


 果実を背中に隠しリアはそう言っていた。リアの事だ、きっと弟や父親に渡すのだろう。 

 俺は食べ掛けの果実をリアに差し出した。


「リア、悪いが俺はもうお腹が一杯で食べれない、良かったら残りを食べてくれないか?」 


 俺が空いている手でお腹をポンポンと叩きアピールしていると。リアは差し出した果実を取ってくれた。


「そうなんですか? はい……解りました」


 そう言ったが、リアは先ほどと同様に食べようとしない、俺の果実も渡す気なのか? そう思いもしたが、今回は少し違う様だ。リアは果実を大事そうに手に持ち在る一点を見続けていた。


(あっ、これって間接……)


 この世界では、いつも気勢を張り強がって来た俺だが、今回ばかりはヘタレなままである。目前で頬を桜色に染めているリア同様に俺の顔も熱くなる。

 そしてリアはゆっくりと果実に口を付けた。モグモグと果実を味わい、ゴクンと飲み込む。俺もドキドキしながらその様子を見つめてしまった。


「えへへ。美味しいですね航太郎様」


 リアは上機嫌でそう言ってくる。その一言が嬉しくて、こんな些細な事にも幸せを感じる事ができる、今の状況に俺は感謝していた。


-----------------------------------


 その後果実を少し集め、村へ帰ると村人が俺の方へ走り寄ってくる。どうやら来客が来ているとの事だった。


(俺に来客だと? 一体……)


 来客が待つ長の家へ俺が入ると、3人の男が椅子から立ち上がり俺に一礼を行う。俺は見定める様に男達に視線を向けた。3人の先頭に立つ男は40歳後半の中肉中背で、ゆったりとした雰囲気を持っていた。そして彼が頭を上げ言葉を発する。


「お初にお目に掛かります。私はライド村の新しい村長になりました。ハイブと言います。今回は航太郎殿にお返しする物を持って来ました」


 彼の口からライド村と言うキーワードが出た瞬間、眉に力を込め警戒を強めた。


「返す物だと!?」


「はい、航太郎殿が取引の為に持ってきていたアメ玉です」


 ハイブ村長は眉ひとつ動かさず淡々と告げる。


(飴の事はどうでもいいんだけど……。このおっさんの狙いは何だ?)


 俺が思案しているとリアが入れた紅茶が出された。これは俺が持ってきた物だ。 考えを纏める為に俺は紅茶に口を付けた。


「これは珍しいお茶ですね。渋みと苦みが上手い具合に調整されている。実に美味しい」


 俺と同じ様にお茶を飲んだ、ハイブ村長がこぼした言葉に俺は喰い付いた。


「おい。あんたは一体何者なんだ? お茶にも詳しそうだが、あの村にお茶を嗜みそうな者など見なかったぞ。それに手に入れたアメ玉を素直に返して来る事も納得出来ん」


「いやはや困りましたね……私はライド村の村民で間違いはないです。でも村に来たのは5年前でして……お恥ずかしい話ですが、実は以前はフロアの街で商人をしておりました。まぁ商売敵と色々ありまして……街に居る事が出来ずに、豊かと評判であったライド村に引っ越した次第です」


 照れくさそうに頭を掻きながら説明する村長へ俺は質問を続ける。


「それは解ったが、何故アメ玉を返しに来た? そちらで有効に使えば、盗まれた食料も補充出来たんじゃないのか?」


 ぶっきら棒にそう言い放つ俺に対し、村長は先ほどのおっとりとした表情から鋭く厳格な表情に変えた。


「今回の件でコレを見つけました」


 彼が出して来たのは、前村長と互いに持ち合っていた契約書である。


「契約書か……それで?」


「私は元ですが商人です。商人にとって約束は何よりも重きを置く大事な事。彼の話を聞いて解ったのですが、前村長は約束を破っています。私にはそんな事、絶対出来ません。今のライド村では食料をお渡しする事は出来ませんが、せめてアメ玉だけでも返さないと……」


(確かに筋は通っている……)


「解った。そう言う事ならアメ玉は返して貰おう。用件はそれだけか?」


「いえそれだけでは御座いません。それと一つお願いがございます。返したアメ玉の内5,000個を貸して頂けませんか? それだけあれば、私が街へ赴き村の食料庫を満たす程揃える事が出来ます」


(そう言う事か…… アメ玉を一度返しに来る所が義理固い、この村長は信用出来そうだ。なら戻ってこないと思っていたアメ玉を有効に使わせて貰うか)


「解った。だが5,000個でいいのか? 当初の約束だと、1食1個だが?」


「実は私も一度アメ玉を食させて頂きましたが、実に素晴しい物で驚きました。それだけ貸して頂ければ十分です。こちらも余裕が出来次第、別の物で返させて頂きます」


 自信に満ちた表情を見せるハイブ村長はそう言い切っていた。俺は今後の事を考えていた、どう動けばこの村の為になるのか?

 そして俺は結論を出す。それが今後どう動くか解らない。俺にとって負担が増えるだけかも……だが俺はそれでも前に進みたい。


「ハイブ村長、提案があるんだが聞いてくれないか? もし提案に載ってくれるならアメ玉5,000個をタダで提供しよう」


「提案……タダでですか……」


 ハイブ村長は渋い顔をしている。確かにタダほど怖いものは無いとでも考えているのだろうか?


「そう、身構える程の事でも無いさ。提案は2つだ。一つはこの村と同盟を結んで欲しい」


「同盟ですか?」


「ああ、互いに困った事があれば協力し合う。後は食料とかの交換なども互いに格安に行うとかな。まぁ内容は話し合えばいいだろう。知っての通りこの村は弱い、俺はこの村には後ろ盾が必要だと考えている」


「なるほど……その為の同盟ですか。それと後一つは何でしょうか?」


「そっちはハイブ村長にとって簡単な事だ。残りのアメ玉10,000個を換金して欲しい。それも出来るだけ高値で頼みたい。村長も見ただろう……ボロボロの家やこの軋む椅子。換金した金で俺はこの村を良くしたいんだ」


 ハイブ村長をジッと見つめそう言い放つ。彼もジッと見定める様に俺を見ている。


「一つだけ解せぬ事があります。聞いてもいいですか?」


 そう問いかけてくる彼に俺は頷いた。


「貴方は旅の者だと聞いています。なぜこの村にそれ程まで力を注がれるのですか? 貴方に得な事は何も無いと思うのですが?」


 その質問に俺は笑いだす。そして辺りをキョロキョロを見渡しリアを見つけて声を掛けた。


「リア来てくれ!」


 俺に呼ばれポテポテと歩いて来るリアの腕を掴むと、俺の胸元に引き寄せ抱きしめる。


「俺はリアに惚れちまったからな。惚れた女を幸せにする事が男の役目じゃないのか?」


 顔を真っ赤にして固まるリアの耳元で俺はハッキリとそう宣言した。

 その様子を呆気に取られながら見ていた、ハイブ村長はクックックと堪える様に笑いだす。


「いや~。失礼しました。一人の女性の為にこれ程尽くせる者など私は知りませんよ、彼女も幸せでしょうね。解りました提案に載りましょう。私が出来る事は協力させて頂きます」


 俺はハイブ村長へ向かって手を差し伸べると、彼も手を握り返してくれた。


「宜しく頼むよ」


「こちらこそ、お手柔らかに」


 その日にリアの村とライド村は同盟契約を取り行った。

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