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8話 契約不履行

 村長達に集会所へ呼び戻され取引の了承を告げられた。その後取引方法の打ち合わせを行なう。

 日時は明日の昼、場所はライド村の集会場だ。

 此方からはアメ玉を数える為に合計で10人を揃え、ライド村からも確認の為に同人数を揃える。そしてアメ玉が渡された後に食料の受け取りをする。


「村長よ、俺達が受け取る食料は何処に置いてあるんだ?」


「食料の備蓄は村の中心にある食料庫の中だ。施錠をしてあるから勝手に入る事は出来んぞ」


「取引前に実際にどの位食料があるか、確認させてくれないか? 量を見てから明日持ってくる台車の数を決めたい。別に問題は無いだろ?」


「チッ!」


 苦虫を噛むように舌打ちをした村長は他の村人に顔を向ける。彼達が頷いたのを確認した後、渋々とこっちに来いとばかりにクイッと顎をしゃくり上げた。


「付いて行けばいいのか?」

 

「ああそうだ。食料庫に案内してやる。だが拝んだらすぐに帰れよ」


 村長の後に続くと村の中心に高床式の建物が見えた。入口のドアには南京錠の様な鍵が付けられている。時代劇でよく見る、蔵の施錠と同じカンヌキ型であった。


(へぇ~ この世界にも鍵はあるのか……)


 村長は鍵を開け、中に入ると建物内一杯に食料が積まれていた。


「ほう、こりゃ凄いな」


「当然だ。村人1カ月分以上の食料を保管しているからな、これだけあれば冬は十分越せる」


「あぁ、これで安心した。契約成立だな」


 俺の言葉を聞いて嫌らしい笑みを浮かべる村長に対して、俺は怒りを増大させていた。


「最後に契約書に署名をして終わりだな」


「契約書? 何だそれは?」


「今回約束した内容を書き留め互いに名前を書いて持ち合うんだ。約束している内容と違う場合や、約束を守らない場合は互いに罰が与えられる」


「ふんっ。何故そんな物に名前を書かねばならん!」


「俺達がアメ玉を誤魔化して持ってきてもいいのか? 損をするのはお前達の方だぞ」


 俺はそう言いながら食料庫を後にすると、後ろから村長が追いかけてくる。 その様子は獲物を逃がすものかと、必死で追いかけてくるハイエナの様だった。


「おい、待たんか。契約書だな? 名前位書いてやるから。数を誤魔化すんじゃないぞ」


「それでいいんだよ。数はちゃんと用意するからそっちも頼むぞ」


 その後、契約内容や互いに決めた罰則事項を書いた紙に村長同士が名前を記入し、俺達は村を後にした。


 帰り道の途中で俺は長へ声をかける。


「長よ、俺は今から別に動くから明日の昼に台車を3台、それに数を数える事が出来る者を10名用意してくれ。集合はこの場所だ。解ったか?」


「解りました。ですが数を数える者を10名ですか……それだけいるかどうか……」


「長なら数えれるだろ? 1~10まででいい。絶対に数えれる様にを教え込め。死ぬ気でやればそれ位は出来る筈だ」


「わかりました。ご指示の通りやらせて頂きます」


 長達と別れた俺は彼達の姿が見えなくなるのを確認した後日本へと戻る。時刻は夕方で今なら必要な道具を揃える事も出来るだろう。


(契約不履行をすると、どんな目に合うのか思い知らせてやる。村長よお前達はもう終わりだよ)


-------------------------------


 時刻は深夜2時辺りは暗闇に包まれていた。静寂なる闇の中で小さな音が聞える。その音は家屋の中で熟睡している者には聞えない程小さい。村へ忍び込んだ俺は作戦を開始していた。


シャッ、シャッ、シャッ


「おし、切れた。心棒とカンヌキ錠は無くさない様にしないとな」


 暗闇の中で俺は金切り鋸で鍵を切断していた。切断したのは横一文字に走る心棒の付け根だ。鍵が外れると静かにドアを開き中へ入る。携帯用ライトを点灯し食料を順番に転移させて行った。

 全ての食料を運び終えた後、ドアを閉めカンヌキ錠を鉄用接着剤で直しておく。 今回使用しているのは鉄でも接着出来る耐衝撃用のボンドだ。これを使えば鍵を開け閉めしても接合部が外れる事は無いだろう。


「村長よ、これでお前は終る。これは決定事項だ」


--------------------


 次の日、約束の場所で待っていると、長達が台車を引きつれやってくる。男性より女性の方が多く見えた。計算は体を使う男より、女性の方が得意なんだろうか?


「遅くなって申し訳在りません。 数を教えるのに苦戦しまして……」


「大丈夫だ、飴の方は用意しているから台車に載せて運んでくれ。それとお前達にやって貰いたい事がある……」


----------------------------------


 村に到着した俺達は集会場を目指す。10名を超える他の村人が自分の村を歩いているのだ。今回の件をしらない村人達は、俺達の事を怪訝そうに眺めていた。


「それじゃあ、早速取引を始めよう。最初は俺達が数を数えながらアメ玉を分けて行くから、お前達はそれを見て確認してくれ。10人が100個づつ数えそれを150回続ける。それで今回の契約の量だ。それでいいな?」


 契約ではアメ玉15,000個、重量にして50kgである。今回はそれより少し量を増やしていた。相手側が難癖付けて来た時の保険である。ライド村の村長達はニヤニヤとした表情で俺の提案を了承していた。こちらは女性の比率も多いので余計に油断しているのだろう。


「それでは、数を数えてこの箱に入れてくれ」


 俺の指示の元、一斉に村人達がアメ玉を数えて行く、その様子を涎を垂らしながら見ている。そんなライド村の村長達が滑稽に見えていた。全てのアメ玉を数えるのに掛かった時間は約3時間。全てを終えた俺が村長へ声を掛けた。


「アメ玉は約束の数だけ渡した。次はお前達の番だ。食料を分けてくれ」


「はぁ何の事だ? お前達に渡す食料は無いと最初に言っただろう……忘れたのか?」


 ニヤニヤと俺達を嘲笑する様に言葉を返してきた。村長の後ろに控える者達も全く同じだ。弱者を見下す余裕に満ちた顔がそこにはあった。


「約束が違うじゃないか? 契約書を交わした筈だが?」


「そんな物に意味は無い。痛め付けられたく無かったらさっさと村から出て行け」


「それなら、アメ玉は返して貰おう」


「ふんっ、残念だな。これは俺達の物だ。さっさと出て行かないと本気で痛め付けるぞ!!」


 この光景は今までに何度も見た。俺が苛められている時と全く同じだ。その時の事を思い出して、怒りが俺の中で爆発しそうになるのを必死で押え付けた。


(ボウガンやスタンガンで痛め付けるのは簡単だ。だが今回はそれでは駄目だ)


 一度大きく深呼吸を行い気持ちを落ち着かせると。俺の後ろに控えていた長に指示を出した。


「まぁ、それなら仕方ない。長よ俺達は帰るぞ」


「航太郎様、いいのですか? これでは余りにも理不尽な……」


「心配しなくていい。早く行くぞ」


 俺は集会場を出ると、出来るだけゆっくりと村を出て行く。 出来るだけ時間を掛けてだ。

 俺達が村を出ようとした時、後ろから村長達が怒りに満ちた表情で追いかけてきた。


「食料が無い。お前が盗んだのだろう!」


 俺の胸倉を掴み揺すって来る村長を睨み、俺は空の台車に指を差した。


「台車を見てみろ。食料が積んであるのか? 俺達が盗んだ筈が無いだろう」


「昨日、お前と確認した時はちゃんと在った筈だ。お前以外に誰が盗んだと言うんだ!」


 俺は周囲に聞える程の大声で叫ぶ。


「備蓄の食糧が盗まれたと言っているぞ。こりゃ大変だ。みんな食料庫へ来てくれ!」


 俺の近くに居た村人は知人や近くの者へと声を掛ける。備蓄の食糧が無くなると言うのは命に関わる事だ。話を聞いた村人は次々に食料庫へ押し寄せてきた。今は食料庫の周りを300人の村人で囲われている状態だ。

 長達は騒然となっているライド村の人達に囲まれて怯えている。


「お前が取ったのだろう。早く返せ!!」


村長の一声を皮切りに周囲の村人から暴言が飛んでくる。俺はそれらをスルーすると周囲に聞える様に叫んだ。


「皆おかしい思わないのか? 村長よ、何故俺達が取ったと言い切れる。食料庫はどう言う状態だったんだ?」


「アメ玉を保管しようと鍵を開けたら、中はもぬけの殻だ。お前達以外考えられん!」


 怒りに身を任せ。大声を発する村長であった。


「皆、聞いたか? 鍵は掛かっていたそうだ。ならおかしいんじゃないのか? 鍵を開ける事が出来るのは誰だ?」


 そうする周囲を囲む人々の中からポツリ、ポツリと声が出てくる。


「村長と役員なら開ける事ができるぞ!」


 その言葉に俺は口角を吊り上げた。俺は食料庫のドアの側に落ちている鍵を拾い頭上に上げながら周囲の者に問いかけた。


「村長と役員以外は開ける事が出来ない。鍵は閉まっていたが、犯人は鍵を持っていない俺達だと言う。鍵はご覧の通り、傷一つ付いていない。俺達より鍵を持っているやつ等の方が俺は怪しいと思うぞ。皆はどう思う?」


 静まり返る状況の中で、突然、糾弾する声が飛び出した。


「村長、お前達が俺達の食料を盗んだんだな。返せ~!!」


 その声を皮切りに300人が一斉に村長へと詰め寄って行く。村長が必死に抑えようとするが、勢いが止まる事は無い。


「違う、俺じゃない。お前達聞いているのか!? 誰か助けてくれぇぇぇ!」


 その叫び声と共に彼の姿は、人混みに飲まれ見えなくなる。


 俺達はその混乱を潜り抜け村の出口へと向った。その後ライド村を出て少し歩いた時、連れてきた村人に俺は声を掛けられる。


「航太郎様、ご指示通りに叫びましたが、あれで大丈夫でしたか?」


 その男に対して俺はグッジョブと親指を立てて見せた。そして背中に背負うリュックの中から契約書を取り出し内容を確認する。この世界の文字は理由は解らないが読む事は出来る。それが解ったのは大きい。因みに契約書の一文にはこう書かれていた。


 もしライド村が契約を守らなければ、村の食料を全て差し出す。 


 その文字を読み返し、遠ざかるライド村を見つめた。ハイエナ村長を思い出すと俺は晴れ晴れとした顔で言い放つ。


「村長よ、これでお前はその村で生きて行けない。約束を破ると、どうなるか解ったか」

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