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5話 アジト襲撃

「入るぞ、様子はどうだ?」


「はい。最初は暴言を吐いたりもしてましたが……昨日、盗賊が全て殺された事を知ってからは大人しくなっています」


 助けた盗賊を監禁している家へ向かい、監視を任せている男性と声を交わす。

 盗賊の方に目を向けると、目が合い怯えている様子が伺えた。


(俺もこんな目をしていたんだろうなぁ~)


 日本に居た時は非力な弱者で、いつも他人を恐れていた。この世界では現在の道具を使える事と危なくなれば確実に逃げる事が出来る。この大きな2つのアドバンテージが俺を強くしてくれているが、根本的には何も変わっていない。

 もしアドバンテージのそれらが使えない状況に出くわした時は、この男の様に怯えてうずくまっているだろう。


(よし、それじゃ始めるか)


「おい、お前に聞きたい事がある。正直に言えば殺さないでいてやる」


 男の頬を両手で挟むと顔を自分の方に向けさせ、言葉を掛ける。


「なっ、何が聞きたいんだ?」


「お前達のアジトの場所だよ。教えてくれるよな?」


 ブルブルと震える男の眼は泳いで喋ろうとしない。喋って他の仲間に狙われるのが怖いのだろうか? 俺に殺されるのが嫌なのか? だがどちらでも関係ない。

 俺は男から離れると、スタンガンを押し当てスイッチを押した。


「アアガァッ」


 ビクンビクンっと体を震わせ、男が涎を垂らしうな垂れる。直ぐに体を起こし、再度質問を投げかけた。


「早く言わないと、何度も喰らわせる事になるぞ!」


 この世界の者にとってスタンガンは今まで体験した事の無い未知の痛みだ。血の気が引いて真っ青な顔で男はポツリポツリと話しだしていった。

 情報を聞きだした俺は村長の家へと向かう。家へ入るとリアが嬉しそうな顔で近づいて来る。頭を撫でてやると、その笑みが一層崩れていった。その後俺は村長に指示を出す。

 

「それじゃ、俺は一度家で休むから誰も近寄らせるなよ。日が一番高くなった時にアジトへと向かう。捕まえている盗賊も連れて行くから厳重に縛り、台車で運べる様にしてくれ」


 村長にそう告げると現世へ戻りアジト襲撃の準備に取り掛かった。男の話では野党は奥行き20m程度の洞窟を掘り隠れ住んでいるらしい。

 盗賊は全員で25名。今まで俺が殺した数は21名、確保している男を加えると22名である。


「アジトには最低3名はいる事になる。吐いた盗賊が本当の事を言っている確証もない。一人、二人は多くいる事も考えて動いて行かないとな……」


 まずは今回の襲撃で使う物の取説をネットで調べ、その後いつものホームセンターへ向かって行く。幾つかの商品を買い込み再び異世界に戻った頃には、日は高く上がっており予定の時刻となっていた。俺が家の外に出るとすでに準備を終えた村長が待っている。


「お待ちしておりました。準備は出来ています」


「ああ、待たせたな。村の男の中で力の強い者、5名を連れて行きたい。選別してくれ」


「解りました。 直ぐに選別しますが、他の者達はどうすれば?」


「残りの者達は村の出入り口を塞いで、俺達の帰りを待ってくれ。昨日渡した武器も置いて行くから、誰かに襲われた場合はそれで迎撃してくれ」


 そして俺は盗賊から奪った装備を着けた村人5人を引き連れ、捕虜が吐いた場所へと向かった。


-----------------------------


 俺達は目的の場所から大分遠い場所で身を潜めていた。うつ伏せの体勢だが顔だけは上げ、双眼鏡で洞窟を観察している。1時間程観察していたが、人の出入りは確認できなかった。 

 今回の盗賊達は俺達を警戒している筈だ。今までの様に相手が油断している時とは勝手が違う。そう考えると緊張と恐怖から額からどっと汗が流れ出す。


(大丈夫だ。シミュレーションは出来ている。後はやるだけ…… これは決定事項だ!!)


 俺は手で合図を送り、洞窟の入り口へと近づく。台車に乗せた男は叫ばれない為に今は布で口を塞ぎ、さらに気絶してもらっている。

 遠回りしながら出入り口の傍まで近寄り、監視の男が居ないのを確認すると、出入り口を5人の村人に囲わせた。穴の大きさは2m程度で聞いていた通り。俺は村人に大きめの平板を持たせて待機させる。


「やっぱり、害虫の駆除にはこれしかないよな!」


 そして今まで背負っていたリュックの中から取り出したのはガルサンである。

 ガルサンとは、ゴキブリやダニなど屋内にいる害虫を噴き出す煙で退治する奥さまに大人気の商品である。今回は水のいらない擦って使うタイプを採用していた。

 ガルサンを入口から1m程度入った所に10個並べて、順番に作動させていく。最後のガルサンに火が灯った時に最初のガルサンから煙が噴き出してきた。


「やべっ、早く逃げないと」


 洞窟から飛び出した俺は、村人に指示を出し入口を平板で塞いだ。


「そのまま待機だ。板から出る煙は絶対に吸うなよ」


 それから数分後に洞窟の奥から声が聞こえてくる。その声は段々と大きくなっていく。


「なんだぁぁ、これは!? 目がぁぁ、喉がぁぁ」


 煙の中で視界も悪く更に目はガルサンでやられているに違いない。幾つかの声が重なり合っているのを確認できた。


「よし。板をどけて入口の周りを囲んで辺りを警戒してくれ、中の奴等は俺が始末する」


 俺は弓を入口へ向け構えると、出てくる盗賊に向け矢を放つ。やっと煙から解放された瞬間に胸深く矢が突き刺さり、男は涙や涎を垂れ流したまま驚愕な表情でその場に倒れた。

 次の盗賊が出て来た時も同じだ。この男は足を引きずっており、俺がリアを助けた時に居た男だと解った。


「後一人で25人……」


 いつ出て来てもいい様に待ち構えていたが、それから10分待っても出てこない。煙は勢いを落とし今は出ていない。


(仕方ない……中にはいるしかないな)


 タオルを使い鼻と口を塞ぐように巻く、目には水泳用のゴーグルを付けて俺は洞窟内へと踏み込んだ。

 村人達には誰も入ってこない様、入口の周りで引き続き警戒して欲しいと伝えてある。


 中はランプが壁に吊るされており、薄暗く照らされている。試しにゴーグルを少しズラしてみると、目に痛みが走り涙が溢れてくる。


(しみるぅぅ~。流石にこれなら大丈夫か?)


 だが油断だけはしない様に慎重に奥へと進んで行く。途中に幾つもの横穴が掘られている。中を覗くと個人の部屋や休憩所の様だった。

 俺は横穴の中をライトで照らし盗賊が居ない事を確認ながら奥へと進んで行く。

 すると奥の方からすすり泣く声が聞こえる。緊張が一気に増し鼓動が跳ね上がった。身を隠しながらその場所にたどり着くと、中に居たのは、今まで略奪してきた物資を大事に抱えながら呻き声を上げる大男である。彼は鍛え上げられた筋肉に無造作に伸ばされた髭を蓄えていた。


(こいつがリーダーかもな)


 俺は一定の距離まで近づくと、弓を構え男に声を掛けた。


「略奪した宝がそんなに大事か?」


 俺の声に反応した男は、振り向き手に持つ剣を無差別に振り回しながら叫び出す。


「おまえがぁぁ、おまえがぁ、俺の宝は誰にも渡さねぇぇ~」


 だが目が潰れ前が見えていない男は検討違いの場所へ剣を振りまわしている。俺は捨て台詞を吐き矢を放った。


「お前にも略奪される気持ちを解らせてやる。宝は俺が上手く使ってやるから安心してくたばれ!」


「あぁぁが」


 近距離から眉間に矢を受けた男は、膝から順番に崩れ落ち動かなくなる。


「これで25人!!」


 俺は周辺に警戒しつつも、男の傍に積まれてあった略奪された物資を手に取る。


「金貨に宝石に武器か……さてこれどうすっかな?」


 腕を組み少しだけ考えてみると、いい案を思い付き早速行動を開始する。俺は物資を手に取り転移を繰り返して、日本の家に全ての物資を運び込んだ。


(これで大丈夫だろう。後はこの物資をどう使うかだな)


 その後、洞窟の出口まで出ると村人達は指示通り辺りを警戒していた。彼達に声を掛けて俺達は村へと帰って行く。

 情報を喋ってくれた盗賊は約束通り殺さない事にした。だがそれは俺が殺さないだけだ。手足を台車に固定されたまま、動物が出やすい森の近くに放置しておいた。腹を空かせた肉食獣に襲われるか、日中の日差しを受け干涸びれるしか道は残っていない。


 村の近くまで帰ると、入口を塞ぐバリケードの傍には村人が集まっている。彼等は心配そうな顔をして俺達の帰りを待っている様だった。遠くから近付く影が俺達だと解ると手を振って歓喜の声を上げている。

 その一番先頭にはリアがピョンピョンと飛び上がりながら、誰よりも喜びを表しているのが見える。その癒される光景を目にした俺の疲れは一気に吹き飛んでいった。

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