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42話 グラン皇帝

所用で更新が遅れてすみません。

 俺とザイクル達は日が沈むまで休憩を兼ねて身を潜めていた。周囲が薄暗くなったのを確認すると、バイクのエンジンは始動せずギアをニュートラルにしたまま下山して行く。

 山道は殆ど人が通っていない為に状態は良いとは言えなかったが、オフロードバイクを選んでいたのでどうにか下山する事が出来た。

 此処から帝都までは目測で5km程だろう。俺は木陰に隠れると日本に戻り置いてあった彼等の武器を手に持ち異世界へと戻る。兵士達に武器と防具を渡し後に俺もいつもの装備に身を包んだ。


「さぁ、今から城へ奇襲を掛ける。バイクのエンジンは始動せずに手で押して城まで向かい。警戒の兵士に気付かれない様に塀からロープで進入した後に、城中で兵士を捕まえ皇帝の部屋を聞きだして倒す。

 皇帝がいる場所にたどり着くまでは出来る限り目立たなく行動しろ。皇帝をを倒した後はバイクに乗って速やかに撤収するぞ!」


「兄貴、内乱の時もそうだったが、入った事の無い場所で誰かを探すってのは意外と難しいぞ。何かいい方法はあるのか?」


「皇帝はかなりの高齢との事だ。戦場に出ていないなら城内にいる筈だ。なら俺が皇帝を必ず探し出してやる」


 俺はその為の道具も色々と用意していた。


-------------------------------------


 腕時計で時間を確認すると、午前2時に差し掛かっていた。俺達はゆっくりと城を目指して進んでいる。どの国でも深夜になると外に出ている人は見当たらない。電気が無いこの世界では夜になると直ぐに寝てしまう習慣なのだろう。


 城門の近くまで来ると俺はナイトスコープを装備し門の周りを視察に向った。門の両側に松明を灯しその側に一名づつ兵士が立っていた。兵士は暇そうに欠伸をする者、居眠りをする者と暇そうにしている。敵もまさか城に奇襲を掛けられると思っていないのだろう。

 

 最初に門が無い西側へ回り込んだ。塀の高さは10mと言う所だろう。俺は日本に戻り二段梯子を2つ持ってくる。梯子を伸ばし静かに壁に立てかけた。梯子は丁度、塀の天端まで届いている。敷地側にも梯子を設置し1人づつ順番に進入して行く。


 敷地内に進入すると俺は敷地内を見渡すが警戒している兵士は見当たらない。門番だけで他は別の場所にいるのだろうか?


 城の側まで近寄ると城壁一階の窓にガラスサークルカッターをセットする。これはテレビで泥棒が窓ガラスを円形に切り取る時に使われる道具でホームセンターやネットでも購入できる。中心部に吸盤が付いてあり、切り取ったガラスを落とす事も無い。

 サークルカッターを何度も回して行くと、窓ガラスが綺麗に外れた。中はカーテンでよく確認出来ない。そこで俺は穴に手を突っ込むと静かに施錠を外し窓を開けた。カーテンを少しだけ捲りナイトスコープで中を確認すると、その部屋はかなり広く何かの舞踏会や行事で使われるホールの様であった。幸い今は誰もいない様で、兵が順番に部屋の中へ入って行く。

 

 今から俺達は3つの班に分かれる大体30人づつで捜査をする予定だ。各班にはナイトスコープと外国製のトランシーバーを渡している。前回と同じ失敗をしない為にもトランシーバーにはイヤホンを設置し、イヤホンを付けている者だけにしか声が聞えない様にしていた。


「取り合えず、部屋を捜索しながら兵士を発見したら騒がれる前に口を塞げ、人数が多い場合は速やかに行動を停止させろ。皇帝の部屋が解れば俺に連絡をいれてくれ。俺達の結果しだいで王国の運命が変わる。皆頼むぞ!」


 そう告げると俺達は行動を開始する。俺はザイクルと同じ班で行動している。各部屋のドアを開くと静かに中へ兵士達がなだれ込んで行った。だがその部屋には人気は無く無駄足に終わる。

 次の部屋で数十名の兵士が仮眠を取っていた。俺はザイクルに指示を出し、2、3人を残し他の者には喋れない状態へとなって貰う。数名には反撃されたが、ラフな服装で武器も所持していない兵士だった為、此方の被害は無かった。

 生き残った兵士の口を塞ぎ大きな声を出せない様にしている。その兵士に近づき俺は皇帝の居場所を尋ねた。


「声を出すなよ。皇帝の部屋は何処だ? 他の奴等と同じ様に殺されたくなければ素直に教えろ! それにこの城にいる兵士の数もだ!」


 兵士達もやっと状況を理解したのだろう、額には大量の汗が流れている。命が惜しいのだろう。何度も頷いていた。

 常駐している兵士の数は100人程度だそうだ。殆どの兵士が遠征に駆り出されており、今は必要最低限の兵士達で守っているとの事であった。

 その後、俺達はその兵士達と共に皇帝の部屋へと進んで行く。兵士は腕を繋がれ首には剣が当てられたまま俺達は兵士の先導を頼りに進んでいった。途中で別の隊からも兵士確保の連絡を受けたので、捕まえた兵士に案内させて皇帝の部屋に来る様に伝えてある。


「ここが皇帝陛下の寝室だ。なぁこれでいいだろ? 助けてくれよ」


 兵士がそう言っているがまだ放す訳にも行かない。俺は部屋の中に数名の兵士を突入させた。

 皇帝がいるなら捕らえろと指示を出している。

 兵士達は部屋の中へなだれ込み捜索していたが直ぐに出てくる。


「中に人は居ません。無人の部屋です」


 俺は捕らえている兵士に詰め寄り、声を掛ける。


「どう言う事だ? まさか騙したのか?」


「いや!? そんな筈は無い。 ここが皇帝陛下の寝室で間違いないんだ!!」


「見せしめに一人殺してやろうか?」


 俺の脅しが効いたのか? 兵士達は互いを見合い本当だと何度も言っている。この様子だとこの部屋は本当に皇帝の部屋だろう。俺が部屋に入って確認してみると調度品やベッドの質など高級な物が多く置かれている。グレードの高さから皇帝の部屋で間違いないだろう。

 なら皇帝は何処に消えたのか? 騒ぎに気付き何処かへ逃げたのか?


 思案していると、別部隊の兵士達がグラン兵に引き連れられ違う後方からこの部屋に向ってきた。

 やはりこの部屋が皇帝の部屋で間違いは無さそうであった。


「お前達、ここに来る間に誰かとすれ違ったか?」


「いえ、誰とも接触しておりません。戦闘はありましたが速やかに終らせたので、守備兵に気付かれなかったと言うのもあると思いますが……」


 そうこうしている間に最後の隊も駆けつけてくる。俺達が互いに情報を交換すると3隊の合計で80名近い兵士達を殺している事になっていた。この城にはもう殆ど兵は残って居ない。


「恐らく、皇帝は騒動に気付き何処かに隠れているのだろう…… だが俺達は誰も見ていない。となると何処かに逃げる道や隠れ部屋があるかもしれないな」


 俺はザイクル達と少しだけ離れ直ぐに日本に戻るとある道具も持ち帰る。そして皇帝の部屋を道具を使って調べてみた。


「この壁の一部分だけ温度が違う…… この奥に何かかるのか!?」


 手に持っているのはネットで購入したコンパクト高性能サーモグラフィカメラだ。このカメラはデジカメの様な形状で液晶画面にカメラで写された部分が表示されるが温度によって赤から青と違う表示される。

 ベットは薄っすらと赤く表示されており、壁は冷たいのだろう青く表示されているが、ある一部分だけが確実に違う色で表示されていた。これは壁の内側に違う空間があり壁の温度に違いが出来た所為だろう。


「ザイクル。 この壁に吊るされている絵の向こう側に何か在るぞ。調べてみてくれ」


 俺がそう言うとザイクルは数名の兵士に指示を出し、大きな絵は人の身長程あり、数人掛りで持ち上げようとするが何かに固定されているのか? 動く事は無かった。

 するとザイクルは剣を抜き思い切り絵に向って斬り掛かる。だが剣は高い音と共に表面を滑っただけであった。そしてその切り口の下から鉄板が見えていた。


「やはりこの奥には何かあるな! 兵士達は部屋の外で警戒に当らせろ。数名はこの扉の両脇で待機だ。今からこの扉を開けるぞ」


 俺は日本からバッテリー式のディスクグラインダーを持って来た。これは両手用の道具で先に用途にあった円盤型の研磨や切断刃を取り付けて回転させ使用する道具である。鉄用のレジトン製の刃を取り付けると切断が出来る。またダイヤモンドカッターを取り付けるとコンクリートでさえ切断する事が可能だ。

 今回は鉄用の刃を取り付けて鉄板を切断してく。幸い使用している鉄は薄いのか柔らかいのか解らないが、苦も無く切断する事が出来た。 人がしゃがんで通れる程度の穴を空けた俺は兵士達を中へ突入させる。


「中を調べろ! 皇帝を発見したら捕まえて俺の前に引きずり出せ!」


 そして兵士達が中へ突入した後に穴の中から射撃音が何度も聞えて来た。直ぐに兵士の一人が戻って来て状況を報告してきた。


「中に数名の兵士と皇帝らしき者を発見しました。ですが敵は銃を装備しており、迂闊に近づけません。突入隊も数人やられています」


予想はしていたがやはり銃を持っていたな。ならば方法は一つだ!


「よし、捕まえた帝国兵を盾に使って突撃を行なってくれ。幸い敵の銃は連射が聴かない筈だ。一気に攻め落とせ!」


 俺の指示を受けて帝国兵を穴の中へ放り込み数十名の兵が隠し部屋へと突入して行く。その後数発の銃声が響いた後に静かになる。突入した兵士が戻ってくると俺に結果を告げた。


「鎮圧は完了しました。中にいた者も捕らえています。どうしますか?」


「よし俺も中へ入ろう」


 隠し部屋の中は壁にランプが灯されており明るく暖かかった。そこには武器を取り上げられロープで縛り上げられた10名程度の帝国兵と2人の老人の姿があった。

 1人の老人は王国に使者として来ていた男だ。そしてもう1人の老人が皇帝だろうか? 衣装は上等な物を着ている。

 その考えと共に俺は皇帝を知っている様な気がしていた。


「お前が皇帝か? 今回はよくも王国に攻め入ってくれたな覚悟はいいか?」


俺は剣を皇帝らしき男に向けながらそう告げた。だが俺の言葉に老人はクックックと笑っている。


「何が可笑しい?」


「何大した事では無い。お主メビウスに良く似ておるが違う者だな? そうか奴が若返った訳では無いのか…… 若返りの薬で若返ったのでは無いな。ならば奴の子孫と言う事か? メビウスはどうしておる?」


「メビウスだと? それは一体誰の事だ?」


「お主が付けておる指輪の持ち主の事だ。奴は我々一族を裏切り指輪を持って異世界へ逃げた男だ」


「お主も指輪が使えるのならば知っているだろう。その指輪が一族にしか使えない事を!」


 皇帝が放ったその言葉に俺は衝撃を受けていた。 

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