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4話 VS盗賊

 村の男を四方に見張りとして立たせてから1時間が経過した頃、村の入口を見させていた男が走って来た。息切れを起こし肩を上下に揺らすその姿で、全力で走ってきた事は理解出来た。


「盗賊が来たのか? 何名だ?」


「入口側から来ました。馬に乗っている者が10数名程だけ、後は解りません」


 俺はコンパウンドボウを手に取ると、入口へと急いだ。村と盗賊の間にはまだ距離が在るようで、俺の方が先に到着するだろう。

 入口の門付近へ到着すると、盗賊の姿を確認する。報告通り馬に乗った男が10名程、馬に跨り村へ向って近づいて来ている。奴等がここへ来るまでにもう1~2分って所だろう。


 自分の心音が大きくなって行くのが解る。それはまるでリズムよく心臓を叩かれているかと思う程に大きい。


(この後、俺は初めて人を殺すだろう……)


 日本に居た自分に大人達が叩き込んできた、道徳と倫理が俺の決意の前に立ち塞がり、身体を恐怖で震わしてくる。 


「怖い……だけど……あいつ等は村を襲いに来ているんだ。戦わなければ、こっちがやられる!」


 近づく盗賊に向けて俺はコンパウンドボウを構えた。今でも射程範囲に入っているが、俺は引き金を引いてはいない。

 出来るだけ引き付ける。盗賊は入口のそば待て来ると、リーダーと思しき男が餌を前にした獣の様に口を広げて叫ぶ。


「ここに、昨日俺達の仲間を襲った者と女が居るはずだ。大人しく引き渡すなら、村は見逃してやる。嫌だと言うなら皆殺しだ!!」


(リアを差し出せだと!? そんな事は絶対にさせない!)


 その声に大きな怒りを感じた。高らかにそう言い放つ男の額に向け俺は矢を放った。

 狙い通り矢はリーダーの額に突き刺さる。意外な事に俺の気持ちは至って落ち着いていた。

 馬から落ちる男に、周りの注意が向かっている間に再度弦を引き矢を放つ。 

 今度は別の男の首に矢が刺さり、その男も倒れていった。流石に周りの男達も俺を危険と理解する。だが俺との間には柵があり、直ぐに攻撃する事が出来ない。そう判断した盗賊は一度距離を取ろうと動き出すがもう遅い。

 3射目、4射目を続けて放つ。一瞬の内の4人がやられた事を理解した盗賊達はついに離脱を始める。 


「後一人だけでも!」


 遠ざかる男に向かって矢を放つと、背中の腰部分に刺さり、馬から落ちた。他の者たちは逃げ続けており、もうコンパウンドボウでも届かないだろう。

 俺は入口の封鎖を解かせると、先に倒れた盗賊の装備を奪い、最後に矢を放った男の元へと向う。彼は死んではおらず、地面でうずくまって悶えている。村人を呼び寄せ、治療をする様に指示を出した。


「どうして盗賊を治療するんだ? 止めを刺さないと逆に襲われるのではないのか?」


 村人の一人が、不思議そうに質問を投げ掛けてくる。


 「手足を縛って置けば大丈夫だ。それに盗賊共の情報を手に入れるに生きて貰わなければ困る。喋れる程度には治療してやってくれ」


 村人は納得した感じで手足をロープで結んだ後、数人で担いで村の中へ盗賊を連れて行った。


「ここからが本番だ。やつ等は再度襲ってくる筈……急いで仕込みをしないと」


 俺はホームセンターで買った道具を土を掘り地面に埋め、次に柵の上部にへと取り付けて行く。あらかた設置が終った頃は辺りは夕焼けに染まっていた。

 

 そして村へ戻ると、村長に声を掛けた。


「やつ等は夜襲を掛けてくる可能性が高い。その場合は村の周囲が同時に襲われる可能性もある。俺は村の近くで盗賊を待ち伏せるが、バラバラに攻められると順番に倒して行くしかない。その間、お前達は襲って来る敵に対してこの道具で撃退してくれ」


 俺は村長に催涙スプレーを手渡す。彼はそれを手に取り、不思議そうに眺めている。俺は使い方を説明してから、村の外に身を隠した。


-------------------------------------------


 それから2時間程度たった頃、辺りは暗闇に包まれていた。照り輝くのは夜空に浮かぶ星だけだ。済んだ空気がプラネタリウムの様に夜空を輝かせている。だが星の光だと近くなら認識できるが、10mも離れると暗闇で何も見えない、辺りはそんな状況であった。


 俺は柵より20m程度離れた場所にある、岩の上にに身を潜めている。 岩の高さは2m程度あり辺りを見下ろす感じだ。まだか、まだかと息を潜めていると村から20m程度離れた場所が突然地面から光が飛び出した。 


「やはり、夜襲を掛けて来たな。だがこれでお前達の負けだ!」


 光に照らされたのは3人の男だ。男共は突然光を浴びせられた現状が、理解が出来ず混乱している。今回はこの場所から矢が届く距離だった為、その場から3名の男に向けて矢を放つ。順番に倒れる男を確認した後、次の場所へ移動を開始する。

 俺が設置したのは、乾電池用、感知センサー付き玄関用ライトである。村の周囲に動かない様に固定し、センサーに反応しなかった場合は、柵に取り付けたライトが敵を照らす仕組みだ。


 また別の場所で発光を確認する。俺は見付からない様に近づき矢を放つ。暗闇の中で標的だけが、光っているのだ、標準制度も上がる。 

 そうして次々と夜盗を仕留めて行くと、突然俺の耳に柵の方から「ぐぁぁぁ、目がぁ、目がぁぁ」 っと悲鳴が聞えてくる。どうやら、村長の方もちゃんとやってくれている様だ。

 俺は悲鳴が聞えた場所へ向い、地面を転げ廻っている男達に矢を放ち動きを止めた。


「今で何人だ? 確か10人はやっている筈だ。居ても5人位か?」


 再び身を潜め、周囲に注意を向けると数人の男の声が聞えた。どうやら逃げ出す話をしている感じだ。だが逃す訳には行かない。

 すぐさま声のする方へ向うと、背中のリュックから取り出したのはLEDの超強光度ライトである。スイッチを入れ声のする方向へ照らす。すると男が3名、目を抑えている。暗闇で突然、強力ライトを喰らったのだ、彼等は目がイカれて身動きが取れないでいた。俺はその3人を射倒すと再度移動を繰り返す。

 その後は周囲を何度か周ってみたが、人の気配は無い。


「これで終わりか…… ふぅ何とかなったな」


 俺は村の入口に向かい、村人に声を掛ける。封鎖の一部を解いて貰い村の中へと入った。


「航太郎様、ありがとうございます」


 村長の後ろには村人が数名着いて来ており、皆が頭を下げる。


「俺の事は気にしなくていいが、村人は無事か?」


「はい、お借りしていました。この武器のお陰で誰も怪我をしておりません」


「それは良かった。捕獲した盗賊の様態はどうだ?」


「今は手足を縛っていますが、傷口は治療しています。命に別状は無いでしょう」


「生きているなら十分だ。日が昇ったら、村の周りの盗賊共を回収するぞ。倒した数を把握したい」


「はい、仰せのままに」


 後は交代制で周囲を警戒する様に指示を出した後、空き家へと向った。

 中へ入ると、暗闇の中で初めて人を殺した時の状況を思い出し吐き気が込み上げてきた。その後、身体全体に疲れが襲ってくる。


「我武者羅に戦っている時は何も感じなかったが、気を緩めると流石にキツい……」


 気分の悪さと身体全体を包む倦怠感で、ベットに腰掛て肩で息をしているとドアがノックされる。


「だれだ?」


「リアです……入っていいですか?」


 リアの声を聞き、ドアの施錠を外し中へ招き入れた。


「航太郎様、村を救ってくれてありがとうございます」


 リアの顔を見ると少し楽になった気がする。俺は頭を下げるリアの頭に手を載せた。


 「いや、まだ終っていない。だが明日でケリをつけるつもりだよ。そうすればこの村も少しはマシになるだろう……」


 そう言いながら頭を撫でると、手に振られてリアの頭もフラフラと動く。可愛いなぁ~と癒されているとリアが胸に飛び込んでくる。


「こんなに汗だくになるまで、戦って……私は航太郎様に何を返せば……?」


 俺はリアの背中をポンポンと叩いている。彼女の甘い香りが、俺の決意を試すが如く誘惑していた。


「リアは何もしなくていい。この村が豊かになった時に約束を果たしてくれたら……それで十分だ」


 だが俺の言葉に納得がいかない様子のリアは不本意な顔をしていた。だが急に何かを閃いた顔をする。


「航太郎様、少々お待ちを」


 そう言って家を飛び出した。戻って来たのはそれから10分経った位だろう。リアは水が入った桶を手に持って入って来た。


「せめて……航太郎様の汗を拭わせて下さい……駄目……ですか?」


 下から不安げに伺いたてる彼女を見て、俺は吹き出してしまった。


「ああ、それじゃあ宜しく頼むよ」


 そして装備を脱ぎ、上半身をさらけ出す。リアは布を水に浸し、確りと絞った後に丁寧に身体を拭いてくれた。それが気持ち良くて俺は途中で眠ってしまう。

 次の朝、ベットで目覚めた俺の横にはスヤスヤと寝息を立てるリアの姿があった。俺はリアが目覚めるまで、彼女の寝顔を堪能していた。

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