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36話 動き出す帝国

明けましておめでとう御座います。

去年は皆様の応援で大変充実した年になりました。

本年も宜しくお願いします。


 翌朝、詰所に行くと所々で戦闘の跡が見て取れた。此処も襲撃された様である。詰所には兵士を増員していたお陰で、被害を出しつつも撃退に成功していた。この襲撃の目的は仲間の救出及び暗殺だろう。再び狙われる可能性が高い為に男達の公開は中止となった。

 

 俺を襲い新たに捕まった密偵は顔の激痛も治まり大人しくなっている。今後は捕らえた男達を拷問に掛けて目的を吐かせる事が決定していた。

 今回の襲撃でフェリィ側の被害は兵士20名を超える。一方殺害した密偵は両方合わせて10名だ。詰所を襲った密偵の内、数名は取り逃がし何処かへ消えたと報告を受けた。


 その後、俺達は密偵達の拷問を開始する。自殺する事も許さず、絶えず苦痛を与え続けて行くが、密偵達が口を割る事は無かった。

 

 そこで俺は一計を講じる事にする。用意したのは車や家の窓に張るマジックフィルムだ。外から見た時スモークフィルムの場合は黒く見えて中を、見え辛くする物だが、今回の選んだ物は鏡の様に反射するタイプで反射率も最大の物を選んでいる。

 尋問室と隣の部屋を仕切る壁に一枚ガラスの窓を作り、それにフィルムを貼り付ける。出来上がった窓は殆ど鏡の様に見えた。そして尋問している様子を隣の部屋から別の男に見せる。

 ターゲットに選んだのは俺を襲った者だ。理由は特に無いが、強いて言うならリアを傷付けようとしたからだ。


「今日は辺境伯が直々に相手してくれるのか?」


「あぁ、悪いが今日は俺に付き合ってもらおうと思ってな」


 男には余裕があった。今まで受けた拷問が効いていない様に見える。拷問を耐える訓練を受けていたのかも知れない。


「なんだこの部屋は?」

 

 連れてこられた薄暗い部屋には椅子が一つ置かれているだけで、そのまま男は椅子に座らせれた。目の前には壁と一つのカーテンが在る。


「お前の為に特別に用意した部屋だ。楽しみにしてくれ」


 そう言って俺がカーテンを開けると、窓の向こうには今まで尋問を受けていた部屋が見えた。


 俺は拷問が始まってから男達を別々の牢へ入れている。今回は密偵達が打ち合わせ出来ない様に24時間体制で見張らせている。

 尋問室に移動する際には、仲間の姿を見えなくする為に牢をカーテンで覆った後に連れ出す。それ位の徹底振りであった。理由は幾ら見張りを外したとしても、襲撃に失敗した今では油断して口を滑らす事など無いだろうと言う判断からだ。なら出来るだけ情報を共有させない為に、出来る限り接触させるなと兵士に指示を出していた。

 

「これは……?」


「お前は覚えていないか? 尋問室の壁に一枚の鏡が在っただろ? あれは鏡に見えるが、実はこの部屋から中を見る為の物だ。お前も気になっていたと思うから、仲間の尋問の様子を見せてやろうと思ってな」

 

「準備にかかれ!」


 俺が指示を出すと、椅子に座らされた男の腕が椅子の背もたれ部分に括り付けられ口を布で防がれた。

 

 窓の向こうにある尋問室へ仲間の男が入って来た。だが此処に居る俺を襲った男と違い、顔や身体には傷一つ見受けられない。

 机に設置されている椅子に座り、兵士に尋問されている。だがそれは口答尋問だけであり、この男が行なわれている物に比べれば天国と地獄程の差があるだろう。


「そろそろ話してもらわなければ此方も身体に聞くしか方法が無くなってしまうがいいんだな?」


 兵士がそう言って拷問道具を取り出した瞬間に男は座った状態で下を向いたままポツリと声を出す。


「喋るから拷問はしないでくれ……」


 その瞬間、俺の部屋に居る男が大きな呻き声を上げた。


「ウーッ、ウウーッ」


 だがその声は兵士によって口を押えられた上、腹を何度も強打され消えていく。俺はカーテンをそっと閉めると兵士に指示を出す。


「こいつに騒がれると、向こうに気付かれる。別室に運んで尋問を開始する。一人が喋り出したんだ。後一人の証言が在れば情報の照らし合わせが出来る。こいつが無理ならもう一人の方から聞き出せ!」


 俺はそう告げると部屋を出て行く。向った先は隣の尋問室だ。窓から見えた尋問室とは違いその部屋は一部を除いて真っ暗である。俺はそこで作動させていたモバイルプロジェクターの電源を切った。

 実は拷問は3人とも同じ様に行なっている。だが口を割らない事も想定して一人だけ顔は傷付けなかった。

 

 ネタとしては実に簡単な事だ。もし密偵が口を割らない場合は、顔が綺麗な男に台詞が書いてある紙を渡し、俺がイメージする感じになるまで何度も読ませる。その状況をハンディーカメラで撮影、編集を行い。モバイルプロジェクターに接続させ隣の部屋から窓越しに男に見せたのである。


 モバイルプロジェクターとはホームシアターのコンパクトサイズの物だ。電源もバッテリー式なので異世界でも使え、専用のコードを使用すればカメラやスマートフォンの動画を壁やスクリーンで上映できる。

 次に何故マジックフィルムを使ったかと言うと、フィルム越しで動画を見ると色が変色し立体感が無い映像でも誤魔化せると考えたからだ。さらに窓の近くに100インチ用のスクリーンを設置することで、窓の視界全体を映像として見せる。

 

 密偵は俺が異世界の道具を使うと知っている。だがどの様な異世界の道具があるのか全部は知らない筈だ。俺は出来るだけバレる要素を減らしたかった。

 

 別室に運ばれた男は既に心が半分折れていた。自分だけ辛い拷問に耐えていたのに他の者は、簡単に口を割る……たぶんそんな感じなんだろう。

 それから長い尋問の末、遂に男は発狂した感じで全てを吐き出した。


 その結果今回の騒動を起こしたのはグラン帝国の者だと解る。目的は指輪の保持者と指輪の回収との事だ。

 帝国にも今回の事は報告済みで俺達が失敗したから次は帝国が動くだろうと笑っていた。


 それらの様子をハンディカメラで撮影し、同じ方法で別の男達にも見せる。放火で捕まえた男達も終に観念し、同じ事を喋っていた。


-----------------


 俺は一人でリアに求婚した丘の上に座って街を見下ろしている。俺の所為で再びこの街や国は戦火に巻き込まれるかもしれない……そんな事を考えていた。


 俺の後ろに気配を感じ、振り向くとそこにはハイブとザイクルが立っている。


「密偵の話は聞きました。どうやら帝国の狙いは航太郎殿が持つ力の様ですな」


 ハイブの言葉に俺が頷いた。


「どんな相手だろうと兄貴なら大丈夫だろ?」


 何時もの偉そうなポーズを取りながら、ザイクルが得意げに言っている。


「調べてみたが、以前王都を攻めて来たガリア帝国は王が勝手に付けただけの名ばかりの帝国だった。

 だがグラン帝国は本当に大きな国の様だ。戦争が起きればあの時以上に多くの人が死んでしまう。俺はそんな事したくない……」


「航太郎殿よろしいですか? 貴方の力をもし帝国が手に入れたら、帝国はどうすると思いますか?」


 俺はハイブの言葉を真剣に考える。現代の道具を使えば大概の事は出来るだろう。ならば平気で他国を攻める事を行なうこの世界でやる事は一つかも知れない。


「大陸を統一させる気なのか?」


 ハイブも俺の意見に頷いた。


「もしその様な事になれば、考えられない程の民が死んでしまう。それだけは阻止しなければ行けません」


「俺は兄貴に付いて行く。俺が何も考えていない訳じゃない。このフェリィを守りたいと思うからだ。兄貴も同じだろ? なら共に戦うだけだ。なんせ俺達は兄弟だからな」


 もう此処までバレてしまったら、今更日本へ逃げ帰ってもグラン帝国はルイーダ王国に攻め込んでくるだろう。俺が蒔いた種だ……最後まで抗ってやる。


「お前達と出会えて本当に良かった」


「私も貴方には恩があります。たぶん死ぬまで共に居ても返せないでしょう。これからもお付き合い願いますよ」


「俺が唯一勝てないのは兄貴だけだ。兄貴を越えるまで俺は離れる気は無いぜ」


「それじゃ、今後の対策を練るとするか。お前達には迷惑を掛けるか知れないが、共に戦ってくれ!」


 俺は二人の肩に手を置いてそう言い放った。


--------------------


 それから俺は何週間もグラン帝国について調べ上げている。国力、兵力、属国に至るまで細かな所まで調べ上げた。

 だが知れば知る程強大な敵の姿しか見えない。もし攻められた場合は勝てる見込みなど全く無かった。唯一の救いはルイーデ王国と離れていると言う事位だろう。もし攻めてくるなら2つの国を越えて来なければ辿りつく事が出来ない。


 アルシール帝国の調査資料に目を通している俺の所へハイブが焦った様子で駆け込んできた。


「航太郎殿、王宮にグラン帝国からの使者がやってきている様です!」


「なんだと!? それで使者は何て言っているんだ?」


 執務室の椅子から立ち上がり、ハイブの元へ駆け寄った。


「詳しい事は解りませんが、女王が応対したと聞いています。それで……女王が航太郎殿に王宮へ来る様にと……これが書状です」


 ハイブから書状を受け取り、内容を確認する。内容は至急王宮へ来る様にとだけ書かれていた。

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