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34話  連続放火事件

 フェリィの新しい住民は孤児達を暖かく迎えてくれていた。フェリィ地方で最初から裕福だった場所はフロアの街とライドの村位だ。それ以外は多少の違いは在るが、貧しい生活を続けていた。

 この過酷な異世界では、弱い者が手を取り合い共に助け合いながら生きて行かなければ成らない事を、彼等はちゃんと知っていた。


 一ヶ月に及ぶ期間王都にいた俺は今リアと幸せな毎日を過ごしている。結婚式は王宮が修復されるまで、お預けと言われていた。まぁ殆ど結婚している様なものなので俺的には後になっても構わないが……リアはどう思うのだろう?

 夕食を終えリビングでリアと二人並んでソファーに座っている。リアは上機嫌で鼻歌を歌いながらコップを両手に持ち息を吹きかけながら冷やして飲んでいる。


「なぁ~リア」


「ん? なんですか航太郎様」


 いつもと同じ様に明るく返してくる。本当は聞いてはいけない事かもしれないが、聞かないと何だか落ち着かない。俺はそんな気分だった。


「なぁ~リア聞いていいか?」


 俺の言葉にキョトンとした顔で見つめてくるリアはコクンと頷いた。だがいざ聞こうと思うと何て聞けばいいか言葉が出ない。


「えっと……結婚式まだ挙げれて無いけど、リアはどう思っているかな? 何て……」


 リアとは目を合さず頬を指で掻きながらそう言葉を出してみる。


「大丈夫です。私は十分幸せですから……それに皆の前で求婚もされました。私は式なんて挙げなくても……航太郎様のお嫁さんです」


 リアの言葉を受け顔を向けると、顔を真っ赤にしたリアが下を向いてモジモジしていた。それが可愛くてつい抱きしめてしまう。


「リアはもう俺の嫁さんだよな。変な事を聞いて悪かった……」


 リアは腕の間から上目遣いで此方を見てきて、えへへっと笑顔を見せる。その笑顔に理性を飛ばされた俺はそのまま抱き上げベッドへと連れて行った。


----------------------


 時間は深夜2時頃だろうか? 俺は外で騒ぐ声で目が覚める。多くの者が外で叫んでいるみたいだ。隣で眠るリアの布団を直し、窓の方へ近づいた。

 窓から見えた景色には朱色の光が街を薄暗く照らしていた。だが一箇所だけはその色が濃いのが解る。


「火事か?」


 その間にも街路を多くの兵士が消火作業の為に走っている。この世界の消火活動は初期なら水や砂を掛けたりしているが、家屋に燃え移った時はその家屋と周囲の家屋を取り壊す事で延焼を止めている。

 今回も家屋の解体道具を持った兵士が現地へと向っていた。


「俺が行っても足手纏いにしかならない。直ぐに消えてくれればいいが……日本で消火グッズも買っておく方がいいかもしれないな……」


 それから俺は執務室に移動し朝を迎える。火事が気になり眠る事など出来なかったからだ。朝になればハイブから連絡が来る筈である。


 翌朝、俺の元へハイブがやって来たので、火事の事を聞いてみた。


「ハイブ、昨日の火事は大丈夫だったのか?」


「知ってましたか。私が受けた報告によりますと、幸いにも死人も出ずに出火元の家屋だけで消し止められた様です」


 ハイブは少し浮かない顔をしている。俺はそれが気になった。


「どうした? 何か気になる事でもあるのか?」


「報告によると、火が上がったのは皆が寝静まってから大分時間が経ってからです。冬でも無いこの季節に寝静まった直後ならランプが倒れた為だとか理由は考えられますが、時間が経過した後と言えば……」


 そこまで言われ俺もハイブが言いたい事に気付く。


「誰かが火を付けている?」


 ハイブは俺の言葉にコクンと頷いた。


「その可能性が高いと考えられます。ですがそれは今日行なわれる調査で判明するかと……何処が一番燃えているかを見れば出火元も判明しますので、ある程度の事は解るはずです」


「結果が解れば報告してくれないか? 放火の場合だと犯人を早く見付けなければ危険だ」


 ハイブと別れた俺は日本へ戻り、使えそうな消火グッズと犯人を特定出来そうな道具を調べて購入して行く。


---------------


 翌日ハイブからの報告で放火された可能性が高い事が判明した。

 俺達は対策会議を開き、夜間交代制で兵士を巡回させる等の対策を決定し様子を見る事なる。だがそれでも放火は止まる事は無かった。兵士が巡回しているお陰で早期発見となり大概が小火で在ったが、中には家屋を解体した物もある。その為、兵を指揮するザイクルの機嫌は悪い。結果が出ない事に苛立っていた。


「アァーッ、クソッ! 影に隠れてコソコソしやがって! 絶対に犯人を捕まえてやる!」


 執務室で昨日の小火を報告しに来たザイクルが吼えている。俺もザイクルの気持ちは解っているつもりだ。どうにかして犯人を捕まえなければ民達も安心して眠る事は出来ない。


「よし、俺も手伝おう。ザイクルお前に作って貰いたい物がある」


「兄貴が手伝ってくれるのか? これで放火しているクソ野郎も終わりだな。それで俺は何を作ればいいんだ?」


 俺はザイクルに犯人を捕まえる手順を説明していく。ザイクルは直ぐに準備に取り掛かると部屋を出て行った。

 兵士の数も多いから、明日か明後日には出来るだろう。今回は仮の施設だが後でテイラーに依頼を出して本格的な物を作らせるか。

 予想通りそれは次の日には完成していた。これが在れば早期発見も可能となるだろう。


---------------------


 それから数日後、静寂が辺りを包み誰もが深い眠りに付いている。それを打ち破るように枕元に置いていたトランシーバーから火事の報告が上がった。それに続き鐘の音が聞えてくる。今回は西区なので鐘の音は小さい。


「西区の17地区で火事です。至急応援を!」


 俺は街の中心と四方に簡易の火の見櫓を作らせていた。その者達にはトランシーバーを持たせ、放火による明かりが見えた瞬間に連絡する様に指示を出していた。

 今までは多くの兵士達で街全体を周回させていたが、半分くらいの人数で賄う事が出来る。消火の際には詰所で休んでいた兵士達も集って来るので、迅速な消火活動が可能だ。

 街の民には鐘の音が直ぐ側なら避難を、少し離れている場合は家から出ない様に地区長を通じて伝えてある。野次馬で集られても犯人を逃げる手助けになるだけだからだ。

 

 火の見櫓は火事を見つける物であり、犯人を見つける物では無い。俺はトランシーバーを手に取り、兵士達に指示を出した。


「航太郎だ。解っているだろうが、消火班以外は周囲から順番に包囲網を狭めて行けよ。火事場から離れた所で見た人は犯人だと思え。後で調べればいいから取り合えず捕まえてろ」


 電気が無いこの世界の人達は殆ど夜は出歩いていない。家の中でランプの光だけで夜を過ごしている為だろう。迅速な包囲の結果、二人組みの男と兵士が遭遇し男は兵士に気付くと反転し逃亡を図った様だ。


「怪しい男2名と遭遇。場所は西区1地区です。男達は東へ逃亡しました」


 兵士は4人で1班の隊を作り包囲を狭めながら火事場へ向っていた。何処かの班と遭遇する確率は高いといえる。班のリーダーにトランシーバーを持たせていた。この世界でトランシーバーという連絡手段は恐ろしい力を発揮する。まだフェリィの兵士だけにしか知らせていないが、もしルイーデ王国の危機が再び迫った時には俺は惜しみなく使うだろう。

 

 男が逃げる先には兵士が現れる。トランシーバーの声を聞いていると男達は次第に逃げ道を失って行っているのが解る。


「犯人と思われる男に玉を投げつけました。当りましたが、また姿を消しています。場所は西区5地区です」


 その一言を聞いた俺はトランシーバー越しに指示を出した。


「よし、周囲を警戒の上、街の出入り口を封鎖しろ。出入りする物には渡していた道具をかざせ。西区の5地区は常時周回し、怪しい奴が居れば取り押さえるんだ」


 俺がそう指示を出した時、消火班からも消火終了の連絡が入る。消化班には、火元に投げ込めば鎮火効果がある道具を大量に持たせていた。それが効いたのだろう。

 後は犯人を捕まえるだけだ。もう絶対に逃がさない。


 兵士が投げつけた玉は銀行やコンビニで置かれているカラーボールだ。あの玉は犯人をマーキングするだけではなく、着色料を水で洗い流しても、特殊塗料の影響でブラックライトを当てるとその部分が光る。

 俺は犯人に色を洗い流させて、安心している所でブラックライトによる捜索を指示していた。


 翌朝から西区の集中的な捜索が行なわれる。空き家が在れば中を詳しく捜索し、人が住んでいる家も声を掛け中を見せてもらう。このチャンスを逃がす訳には行かない。


 街を捜索している時ザイクルが執務室に現れた。ニヤニヤと笑っており、何か良い事があった様だ。


「兄貴、犯人を捕まえたぜ。本人は認めていないが、バッチリ光ってやがる。確保している男達はどうすればいい?」


「捕らえたのか!? よし俺も行こう。聞きたい事があるんだ」


------------------


 詰所に設置されている牢屋に今は入れているそうだ。俺はザイクルと共に早速その詰所へと向った。


「この詰所に犯人がいるのか?」


「あぁ、兄貴が言っていた反応が出ているから、この男達が犯人だろう」


「男は2人だろ? 個別に話を聞きたい」


「了解だ」


 ザイクルに案内された部屋で待っていると、手を後ろに縛られた男が兵士に両脇を捕まれた状態で部屋に入って来た。

 男の顔つきはルイーデ王国とは少し違い彫が深く鼻が高い。他国出身の者だと直ぐに理解出来た。

 まず男を椅子に座らせると、最初に目隠しをさせた。男もいきなり目隠しをされた事で殺されるのかと? 額に汗を滲ませている。俺はポケットからペン型のブラックライトを取り出すと男の身体に光を当ててみる。すると青白く身体の一部が発光していた。


(火事の時に逃げたのはこの男で間違いないな。なら何故火を付けていたのか? もし密偵とかだと、この後よく映画とかで舌噛んだりして死ぬんだよなぁ……さてどうすっかな? ま~いつものあの方法しかないよな)


 目隠しを外させると、俺は男を見据えて尋問を始めた。


「お前が放火犯か? 見た感じこの国の生まれじゃないみたいだが……?」


 男は首を振り、違う、関係ないと言い張っていた。男が捕まった場所は街の出入口の検問だ。兵士に支給していた携帯用のブラックライトを蜂の巣の様な木枠で囲い、出入口を通る者を一人ずつ調べた。

 彼等は商業でこのフロアによったらしい。商業を終えて次の街へ向かっているだけだと言っている。


「悪いな……俺達も犯人を捕まえなければ、領民の手前ゆっくりと眠れないんだよ。

 別に御前が犯人じゃなくても関係ない。領民が納得してくれたらいいんだ。拘束している間に火事が起きるのを祈っておくんだな。丁度お前はよそ者だ。俺も領民を無実の罪で裁くのは心が傷む。悪いが自分の不幸を呪ってくれ」


 男は怒りの表情を浮かべ睨みつけていた。もう1人の男は、同じ内容の事を兵士に説明させた。


 その間に俺は牢に盗聴器を仕掛ける。


(これで奴等が油断してくれるといいが……)


---------


 男達が牢へ戻された。相手を油断させる為に牢を監視する兵士も今は付けて居ない。

 俺は盗聴器のスイッチを入れて、男達の話に耳を傾けた。


「最悪の状況だな。まさかこんな事になるとは……俺達の存在がバレた訳じゃないがこのまま時間が経てば処刑されるぞ!」


「今はどうにかしてマイヤーと連絡を取るべきだろう……連絡が取れれば、マイヤーが放火騒ぎを起こしてくれる筈だ」


「あぁ、このままでは他の領地に潜伏している者達に笑われてしまう。見つかった訳では無いのに殺された無能者だとな……それだけは何としても回避せねば……」


「それにしても、ここの領地は他とは違うぞ。対応速さや兵士が投げつけて来た色が付く玉もそうだ。指輪の持ち主が関係している可能性が高い。その事はマイヤーが報告してくれるとは思うが……今は俺達が生き残ることを最優先とするべきだな」


(他にも仲間がいる上に、別の領地にまで潜伏している者がいるのか!? 奴等が言っているのは俺の指輪か?)


 俺はこの放火が愉快犯では無く。もっと根が深い事を覚悟した。

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