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32話 義賊ハイアット

今回の話が長くなってしまったので、話を一度切りました。明日に後半を上げます。よろしくお願いします。

 王宮での話を終え宿に帰った俺はザイクルに手紙を出した。内容は読み書きが出来る兵士100名と女性を10名、多人数用の馬車を30台王都へ運ぶように書いてある。早くて7日後にはザイクル達は到着するだろう。


「後はあの義賊をどうするかだ……」


 俺はハイブを呼ぶと、義賊の調査を依頼した。日常の様子や過去は何をやっていたか? ザイクルが到着するまでの間に出来るだけ情報を集める様に指示を出した。


------------------

 

 次に俺は王宮へと向うとマリア女王から民を管理している台帳の閲覧許可を取り付ける。

 親が亡くなった子供達から情報を得て台帳と照らし合わせる事で親族が見付かる可能性を考えたからだ。また戦時に離れ離れになったまま我が子が何処にいるのか解らない親も居るかも知れない。全ての孤児達をそのままフェリィに連れて行くのでは無く、出来るだけ親族や親の所へ返してやりたかった。

 その為の準備として大きな家屋を幾つも借りたり、テイラーに指示を出し大量の食料も用意させた。俺は慌ただしい日々を過ごして行く。


 ザイクルが王都に到着すると直ぐに行動を開始する。まずは王都の東西南北に1箇所づつ仮の詰所を儲けて兵士を配置させる。各詰所には兵士を各15名配置している。その内半数で歩いて戦争孤児達を探させた。兵士は大きな声を出しながら王都の隅々にまで捜索して行く。俺達の事は直ぐに王都中の噂になっていた。

 

 それと平行で集まった孤児達に話を聞き、名前、親の名前、以前の住んでいた場所、親戚の名前など。子供達が覚えている範囲で書き取り帳簿を作り全ての詰所で共有させた。それらの情報は王宮内に配置させた30名の兵士に台帳と照らし合わされる。親は生きているのか? 親戚は何処にいるのか? 情報と合致すれば直接家に兵士を向わせた。

 

 詰所には直接親が訪れて来る場合もある。親の確認として台帳との照らし合わせと共に面接を行なった、質問形式で本人確認をしていく。それは相手が人身売買の商人達で嘘をつかれ子供達を連れて行かれる訳にも行かないからだ。


-----


 俺は詰所に顔を出し様子を確認していた。今は丁度、面接をしている所だった。


「まずは貴方の名前を教えて下さい」


 今回訪れているのは、40歳位の男性だ。息子を探しているとの事で戦時の混乱で行方不明になって以来探していたらしい。


「では次に住んでいた地区と子供の名前、髪の色などの特徴をお願い致します」


 子供の年や名前、以前の住まい、訪れた本人の確認などを行なっている間に、その特徴にあう子供がいた場合は隣の部屋から親の顔を確認させる。その方法は至って簡単だ横の部屋と行き来する通路に自動車用のスモークフィルムのロール上の物をカーテンの様に垂らしているだけだ。尋ねて来ている者には解らず子供の方が先に確認できる仕組みである。子供が親と認めればそのまま引渡し、違う様なら一時保留と言う事になる。

 

 今回は幸運にも情報に合致する子供が詰所に居た為、スモークフィルム越しに訪問者を見せてみる。


「お父さん……お父さんが来てくれた!」


 涙を流しなが親を見つめる男の子の背中をポンっと押してやる。男の子はスモークフィルムのカーテンをくぐり抜けると父親の胸に飛び込んでいた。

 その親子は何度も頭を下げながら帰って行く。帰る前に俺達は親に手紙を渡すようにしている。

 それは聞き取りで得た情報であった。子供達が今までどうやって生きてきたかを書いた手紙である。中には酷い事をされた子供達も多い。

 この手紙を渡すかどうか俺は本当に迷っていた。だが子を思う親の気持ちに掛けて見ようと俺は思った。どの子供達にも心のケアは必要で、親が居ない間の辛い環境が解ればきっとその手助けになる筈だ。

 

 また今回の様に子供が親と会えるケースは希である。訪問者の多くは嘘を言っている事の方が多い。

 先日訪れた男は、親が病気で寝込んでいる為に替わりに来たと言っていた。


「早く子供を見せてくれよ。アイツ顔が似ている筈だから見れば分かる」


「その前に親の名前と貴方の名前、そして住んでいた所と子供の名前や特徴を言って貰わなければ駄目だ」


「親の名前は……ガッツだ。子供の名前は何て言ったかな……忘れたがガッツに似た女と聞いているんだ。子供が親に会えなければ可愛そうだろ? 保護している女を見せてくれよ」


 明らかに言動のおかしい男だったので、質問をしている兵士に代わり俺が話を聞いてみる。


「悪いな。確か女の子の親父さんが病気で来れないから代わりに来たんだな?」


「あぁ、そうだ。俺が連れて帰るよう頼まれている」


「なら、その親父さんの住んでいる場所は何処だ?」


 男は少し焦っている様子が伺えた。


「……北区だ。これでいいだろ?」


「北区の何処だ? 今から兵を向わせるから直接話を聞く事にさせて貰う。その間はアンタは此処に居てもらうぞ」


 俺が手を上げると兵士が男を囲みそのまま男の両腕を掴んで拘束する。


「何をする気だ? 俺は悪い事はてしていないぞ」


「お前が本当の事を言っているなら、父親のガッツだったか? その場所に居る筈だろ?」


「……クソッ!!」


 男は観念して、本当の事を白状していた。王都を歩いている時に見知らぬ男に声を掛けられたとの事だ。大金が貰えると言われ、孤児を攫いに来たとの事だ。その男を騎士団に男を引き渡す。後は尋問に掛けられるだろう。


 この男と同じ事をする者が男女問わず多数現れた。中には人身売買に関係のある者もおり、芋ずる式に追い掛け組織を2つ程潰す事が出来たと騎士団からお礼を言われた。

 何故、今まで路上にいる子供達がこの様な組織の者に捕まらなかったのかと言うと、少年達の間にもネットワークが存在しており、組織の者が現れると子供達は一斉に何処かへ姿を隠していたらしい。俺達の呼びかけは女王の許可も取っており、昼間に都民が見ている中で行なわれている為に信用してくれたとの事だった。


 孤児の捜索と身内探しは、1ヶ月にも及ぶ期間続けられた。保護した戦争孤児の数は600人、その内、親や親族のもとへ帰る事が出来たのは100名であった。上は15歳からしたは7歳までの子供が多い。


----------------


 時は遡り、ザイクルが到着する前日にハイブが俺に2枚の紙を手渡す。それには義賊の情報が記載されていた。上から順に目を通して行くとある場所で目が止まった。


「あの男は前は騎士団に居たのか……評判も良いみたいだな。それで次のページが金品を奪われた家や商店の詳細か……えっここは!?」


「航太郎殿、義賊の男が襲っていた所は、何処も黒い噂が絶えない所ばかりの様です」


 ハイブの言葉に俺も頷く。この報告を受け俺は男の処遇を決定する。


---------------------


 ハイブは早朝にフェリィに向けて帰って行った。俺が留守している間フェリィを見て貰う事になっている。

 俺は兵士を20人ばかり連れて孤児院の周囲を囲っていた。


「確かそろそろ出てくる時間の筈だが……」


 事前に王宮に奉仕活動をする日を確認しているので、男は必ず子供達と出てくる筈であった。


 バタン!


 ドアが開くと前回と同様に男が子供達を引き連れて孤児院から出てくる。俺は敷地の前で手を上げてた。


「やっと出てきたな。待っていたぞ」


 男も俺に気付いたようだ。だが俺に後ろには兵士の姿もある。それにも気付き動きを止める。


「心配するな。奉仕活動の間はこいつ等が子供達を見ていてやるから。俺と話をしようじゃないか」


 後ろの兵士を指差し俺が男へそう告げる。周りの子供達も異変に気付き不安そうな顔をしていた。


「お父さん……この人達は誰?」


「お父さんの知り合いの人だよ。あの人の言う様に今日は兵士さん達と奉仕活動をしてきてくれないか?」


「……うん。解ったよ」


 俺達は子供達が見えなくなる間で見送った後に男を詰所へと連行して行く。詰所には人払いをしており、部屋に居るのは義賊の男と俺とザイクルの3人だけだ。ザイクルは万が一の護衛で部屋に居てもらう。一応身体検査をやっており武器などは所持していない事は確認済みだ。


「お役人様、それで私に何の御用ですか?」


 表情を一定に保ったまま男が声を掛けて来た。


「ハイアット。惚けなくても解っているだろ? 世間を騒がせている義賊の名が泣くぞ。それに元騎士団の部隊長だった男だろ? 今更カッコ悪い事はするなよ」


 ハイアットと呼ばれた男は、俺の揺さぶりにも眉一つ動かす事は無い。


「私が義賊と申される訳ですか? 何か証拠でもあるのですか?」


「証拠は無い……それじゃ賭けをしないか? 今日から義賊が出なければお前に毎日金貨を1枚づつやろう。その間は孤児達の面倒も俺が責任を持って見ていてやる。

 義賊は月に1~2回の頻度で盗みに入っていから……そうだな3ヶ月間義賊が現れ無ければ、お前の負けだ。たった3ヶ月でいい大金が手に入るぞ。商売になるだろ?」


 それでもハイアットは反論してくる。


「貴方達が本当の義賊を既に捕らえているのに、私を陥れようとしている可能性もあります。ですからそんな賭けには乗れません。いい加減にして欲しい」


 ハイアットの反論は一応筋が通っている。仕方ないと諦め俺は直球で勝負する事に路線を変更した。


「はぁー。ハイアットよ屋根を渡って逃げる時は下ばかり注意せずに上にも注意を払えよ。お前が逃げている場所の側には更に高い建物がある事を知らないのか?」


「えっ!?」


 初めてハイアットの表情が歪む。俺は更に言葉を続けた。


「孤児や戦争で貧しくなった者達が生きて行くには金が必要なのは解っている。その金が汚い事を得て手に入れた金だろうが、一生懸命働いて手に入れた金だろうが価値は変わらないだろう。

 だが、お前が育てている孤児達が同じ事をやった時にお前は本気で叱る事が出来るのか? 人の道を踏み外そうとしている子供達を更正させる言葉を言えるのか?」


 ハイアットは下を向き必死で言葉を探している様であった。だがそれも見付からず終に心をさらけ出す。


「貴方に何が解るんだ! 知っているのか食べる物も無い人達がどうやって生きているのか? 残飯を拾い集め、身体を壊しても無理に食べている事を! 道行く人に頭を下げて必死で恵んで貰う惨めさを! 人の物を盗むしか方法が無い者の気持ちが解ると言うのか? 一体俺はどうすれば良かったのだ……」


 ハイアットは机を何度も叩き俺達に訴えている。


(確かに俺には解んね~よ。だけど……俺はフェリィを見てきた……)


「ハイアット、お前はやり方を間違ったんだよ。知っているか? 灼熱の大地の側にある貧しい村の事を?」


 俺の言葉に反応してハイアットが頭を上げた。


「灼熱の大地の側にある村?」


「色々な村からつま弾きにされた者達が必死で作った村の事だ。過酷な環境の中で貧しくても彼等は必死に生きていたよ。今は自分達の価値を見出し、豊かになっているがな……

 ハイアット、お前は盗んだ金を配るのでは無く、彼等に仕事を与えるべきだった。その日の飢えを凌ぐのではなくもっと先を教えてやるべきだったんだよ」


 ハイアットは俺を見つめて動かない。震える口で必死に言葉を発した。


「貴方は一体……?」


「フェリィ地方ってしってるか? 俺はそこで領主を務める航太郎だ。俺達も今まで孤児達に目を向けなかった事は許される事では無いと思う。

 今更遅いかもしれないが、出来る限り戦争孤児を救いたいと俺は思っている。ハイアットも側で見ているがいい。今後の話はそれからだ」


 それだけ言うと俺は部屋から出て行った。

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