エピローグ 終わりと始まり (===の後は三人称です)
マリア女王は戦争が終わった事を直ぐに国民に知らし民を安心させた。その後は攻め込んだ国に使者を送り、戦争賠償金の支払いを求め、もし渋るようなら相応の対応を取ると強気の姿勢で多額の賠償金をもぎ取っていた。一番多くもぎ取られていたのが、ガリア帝国であった。捕虜が2,000人を越えていた事が影響している。ガリア帝国は当分の間は金銭面で苦しむだろう。女王は昔から賢い子だったが、敵に回すと本当に怖いと思った。
今回、王都奪還に参加せずに自領だけを守り出兵しなかった貴族達にもキツい処罰を与えていた。それは兵を出さぬなら金を出せと言うスタンスだ。俺達が戦争で使った金を全て支払う事を命じた。戦争で死んだ者の補償なども含めるとかなりの金額になる。
戦争で戦った俺達5貴族はマリア女王に別室に呼ばれていた。誰もが自分達の力で国を守ったと自信に満ちた顔をしている。
「ダグウェン卿。マーカイン卿。ヴェーラ卿。マイル卿。そして辺境伯。此度の内乱は貴方達が居なければ勝てなかった。本来なら多くの報奨を与えるのですが、今の王宮にはそれ程の余力は残っていません。ですが英雄の勲章だけは贈らせて貰うわ。
今回の戦争に掛かった費用は知っていると思うけど、自領に引きこもっていた者達から出させます。出来るだけ毟り取るといいわ。全て私が認めます。お膳立てしか出来ないけど恩を売っておきなさい」
それは女王は俺達に残りの貴族達に対する絶対なる発言権をくれた事を意味する。
女王が言っている事は、もし莫大な金額を請求されても、裕福な領土の領主以外は一度に支払う事は難しい。その場合は俺達に借金するという事になる。そうなると、今回戦争に参加しなかった者達は俺達に頭が上がらなくなるという事だ。実に恐ろしい。
その後、俺達はグリーン卿の処遇や領地について話し合った。これ程の混乱を招いたグリーン卿はどうしても許す事は出来ない。彼には今回の真相を聞きだした後に公開処刑と決まった。だがグリーン卿の親族は殺すまではしない。私財没収の上、国外追放となる。これも仕方ない事だろう。実際にどうやって生きて行くのかは想像するだけでも辛いと予想される。
最後にグリーン領は後任が決まるまでの間、王宮管轄となる事に決まった。一番被害を被ったのは民だろう。グリーン領に住む者達は何も悪くないのに、裏切り者と罵声を浴び続ける筈だ。それを少しでも押える為にも王宮直轄地とするという方法しか見付からなかった。
それら諸々を話し合った後、俺達も自領へと帰る事になった。ザイクルは暇すぎて早く帰りたいとずっとこぼしている。俺が帰れる事を伝えると子供の様に喜んでいた。だがそれは仕方の無い事だろう。実は俺も早く帰りたいと願っていたからだ。
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俺達が王都を出発する前日にマリア女王が俺を呼びつけた。王女の意向で2人っきりの時は畏まらず、今までと同じ様に接して欲しいと言われている。
「どうしたんだ? 何か問題事か?」
マリア女王は王座に座ったままジッと俺の方を向いている。俺も見返して見ると、口をワナワナと動かしている風に見えるが、何を言っているのか全く解らない。
「用が無いなら帰るぞ」
そう言って振り返り一歩を踏み出した時に、マリア女王が突然叫び出した。
「ちょっと待ちなさいよ~!!」
余りの声の大きさに、ギョッとした顔で振り返る。マリア女王は何故かハァハァ言っている。
「だから用件を早く言ってくれ。この後俺はフェリィに帰るんだぞ」
ぶっきら棒に言い放つ俺にムスッとした表情をする。だが今度は俺に聴こえる声でマリア女王は言ってきた。
「辺境伯、ダグウェン領で勝利した後に話した事を覚えてる?」
そう言われ、俺は腕を組みその時の状況を思い返してみる。
「あぁ、何か褒美をくれると言っていた事か?」
俺は思い出せた事に満足し、ウンウンと首を縦に振る。マリア女王も俺が覚えていた事が嬉しそうであった。
「それでね……もし辺境伯が良いって言うなら。この椅子に座る権利……はどうかしら?」
「王の椅子に座る権利?」
女王は下を向いたまま小さく頷いた。俺は考えてみる。俺の執務室にあの豪華な椅子は似合わないだろうと。
「俺にはそんな上等な椅子は似合わないぞ。別の物でいいからまた今度声掛けてくれ。それに王が使っていた物だろ? 女王が使うのが一番だ。それが親孝行ってやつだ」
ドヤ顔で答える俺の言葉にマリア女王はハァ?っと顔をしかめている。
「辺境伯、あなた本気で言っているの?」
「あぁ、そのつもりだが?」
マリア女王は額に手をあてため息を付いた。
「もう、いいわよ。私が悪かったわ。またそっちにも行くから待ってるといいわ」
女王が少々怒っている様にも感じるがそこは気にしない。
俺は用件が終ったと判断して、フェリィに向け帰って行った。
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フェリィの空は青く雲ひとつない。空気も澄んで大きく吸い込むと肺に冷たい空気が一杯になり、興奮する気持ちを抑えてくれた。ダグウェン卿の支援に向かってから早一ヶ月が経つ。やっと帰って来た……俺が最初に向かう場所は1つしか無い。
コン、コン、コン。
ドアをノックする音に部屋の中から反応する声が聴こえる。ドアが少しだけ開くと水色の長い髪をフワッと、なびかせながら覗き込むリア姿が見えた。その顔を見ると今迄の疲れがスッと消えて行く。
リアは目の前に立っているのが俺だと分かると、胸に飛び込み力強く抱きついてくる。俺はその衝撃を支えきれず尻もちを着くがリアが俺を離す事はなかった。
「随分と待たせたな。帰って来たよ」
「航太朗様~お帰りなさい」
花が咲いたような、鮮やかな笑顔を見せるリアを今度は俺の方から抱きしめた。
「リア、会いたかった」
俺の一言を聴いたリアは、そっと唇を重ねてきた。
「……私も同じ気持ちです」
頬を桜色に染めて、恥らいながら告げるリアを見つめて、俺の帰る場所はリアがいる所だと実感していた。
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リアとの再開を果たした俺は、執務室へ向かう。俺がいない間はハイブにフェリィを任せていた。ハイブも疲れているだろう。俺はマイル領で手に入れた高級な酒を手に持ち執務室に入った。机の横にはハイブが立っている。俺が来る事が解っていたのか?
「お疲れ様です。航太郎殿のご活躍は此処まで届いてますよ」
ハイブにそう言われると悪い気はしない。ハイブは俺に机に座る様に勧めてくる。言われるままに椅子に座ると、ハイブは部屋の奥から書類の山を持ってきた。
「なっ、何だこれは!!」
「これは私個人では判断に困る案件です。今から目を通して判を押してください」
「ハイブに任せると言ったじゃないか。お前が決めたらいい事じゃなかったのか?」
積まれた書類の多さに頭が痛くなり、額に手を当てながら愚痴をこぼす。
「領主案件ですので、ギリギリまで待っていました。よくぞ帰って来てくれました」
「はぁ~。仕方ないハイブも手伝ってくれよ」
「勿論です。時間は余り残されていません。今日中に片付けてしまいましょう」
ため息をついて観念した俺であった。
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それから3ヵ月後、街に大きな建物が出来上がり、見物人で溢れかえっていると聞きつけた。興味本位でその場所に訪れると、思いも寄らない人物と出会う。
「なかなか良いじゃない。テイラー商会ね。覚えておくわ」
「女王様、ありがとう御座います」
そんなやり取りをしている二人に俺が声をかけた。
「女王様、テイラー。これは何の騒ぎですか?」
俺の問いに答えたのはマリア女王であった。彼女の周囲には騎士団が護衛している状態で余計に目立っていた。
「辺境伯、お久しぶりね。 今王都は生まれ変わる為に民と一丸にになって大規模修繕を行なっているの。だから仮の王宮に私が移動する事になって。テイラー商会にお願いして作って貰ったのよ」
まったく意味が解らない。
「そうだとして、なぜフロアの街に仮の王宮を作っているんだ? 王都の近くでいいだろ?」
「辺境伯こそ何をいっているの? フェリィ程、安全な場所が無いからに決まっているわ。外敵から身を守るのにフェリィ以上の場所はこの国には存在しません。
それに王都にいる民も私の事を案じて賛成してくれているわ。英雄辺境伯の所なら安心だってね。勿論、王都とフェリィの往復にはなると思うけど、少しの間お世話になるわね」
ドヤ顔で言われるから余計に腹が立ってくる。だが女王の言う通り、フェリィに居ればこの前の様に背後から襲われる心配もないだろう……俺もそこは納得するしか無かった。
「それじゃ辺境伯、王宮の修繕が終るまでよろしくね」
無邪気に笑う女王の笑顔に負けて俺は「仕方ないな……」と返した。その後、周囲の騒ぐ声に紛れて、よく聞き取れなかったが、女王の呟いた声が耳に届く。
「私も貴方と過ごす時間が欲しいのよ……」
俺が振り向いた時にはマリア女王は真新しい仮王宮の中へ入って行った。まぁ聞き間違いだろうと俺は自分の場所へと帰っていく。その時の俺は、これからもっとフェリィを発展させて皆を幸せにしたいと願っていた。
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コツ、コツ、コツ
廊下を歩く音が響いている。男性用のワンピースをを着た初老の男が立ち止まる事無く歩みつづける。
男は目的地にたどり着くと、ドアの横で守護する男に指示を与え、ドアを開かせた。開いたドアの中は2階を吹き抜けにして作っている高い天井と1,000人が入ったとしても余裕のある広い空間がそこにはあった。その最奥には階段があり、その一番上には豪華な椅子に座る一人の男性の老人がいた。見た目は70歳を超えているだろう。だが老人から発しされる雰囲気には力強さがあった。その男は横に設置されているテーブルに乗っている酒を口に含みながら、入って来た男に視線を向けた。
「どうした?」
声を掛けられた男は膝を着き頭を垂れて答える。
「皇帝陛下にご報告が御座います。少し前に仕掛けましたルイーダ王国の件に御座います」
皇帝と呼ばれた男は思い出す仕草を取った後、頷いた。
「あぁ、あの無能どもばかりがいる場所だな。あれだけお膳立てをしてやったのに、国の一つも落とせない屑共がどうかしたのか?」
「ハッ。反乱が失敗した後も、調査をしていましたが、気になる事があります」
「気になる事? 申してみよ」
「ルイーダ王国は何やら見た事も無い火を噴く道具を使用したとの事です。それに人が発する事が出来ない程大きな声で喋る者がいるとか……更には、我々に組したグリーン領の兵士が話すには、喋る箱を持つ者がいたと……気になりませぬか?」
「火を噴く道具に、考えられぬ程の声……それに喋る箱……フッフッフ、ファハハハハ」
皇帝は思い当たる所がある様子だ。身体を震わせ興奮している。
「やっと現れたな。 一族を裏切りし愚兄よ。何しに舞い戻って来たかは解らぬが。決して逃がしはせぬぞ。指輪は必ず返して貰おう。
諦めていた大陸統一が再び見えてきおったわ。あれから長い月日がたっておる。向こうの世界には不老不死の薬すらあるやもしれん……
よいか、お前も指輪の事は知っておるだろう。密偵を送り慎重に指輪の有無を探させろ。絶対に気付かせてるな。もう二度と逃げられる訳には行かぬ」
広い部屋の中で皇帝は歓喜に声を震わせていた。その指示を受け、初老の男は闇に紛れて姿を消した。




