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3話 戦闘準備

 翌朝、朝食を運んで来たリアと話をしていると、驚愕の事実が明らかになる。


「18歳~!?」


 俺はリアの年齢を聞いて驚愕していた。それは彼女が同じ年齢とは全く見えないからだ。


「えっと…… この村の子供は食事をずっと取れる訳でもないから…… 成長が遅いのです」


 モジモジしながら、そう言うリアを最初は14、15歳かなと思っていたし、13歳かもと考え直した事もあったが、まさか同級とは思いもよらなかった。


(でも…… 年齢なんて関係ないか、リアはリアだ!)


 惚れた弱みだろう、何でも受け入れられる事が不思議であった。


「リア、悪いが村長の親父さんと話がしたい。連れて行ってくれ」


 俺達は再び村長の家へと向かった。


「これは航太朗様、どうかされましたか?」


 昨日の事が堪えているのだろう、昨日よりも元気が無い。


「ああ、昨日の話の事だか、引き受けても構わない!」


 俺の言葉が長の耳に届くと、彼は目を見開き、安堵の表情を見せた。


「ありがとうございます。ありがとうございます。これで村が救われます」


 長は何度も頭を下げていた。


「だが、条件がある。この村を救ったらリアは俺が貰う!」


 長は頭を上げると、心配そうにリアに顔を向ける。それは村の為に犠牲にされる、娘を哀れむ親の顔であった。

 だがリアは笑顔で走り出し長の胸に飛び込んだ。


「お父さん、私から航太郎様にお願いをしたの……この村はお父さんが大切に守って来た村だから…… 

 それに私は辛くないよ。航太郎様は私を盗賊から守ってくれた……それにね。こんな私を魅力的だって言ってくれたんだよ。えへへ……私嬉しくって……」


「ああ、そうか、そうか。航太郎様ならきっとこの村を救って下さるだろう。その後お前は幸せになりなさい」


 俺はその様子をただ見つめていた。心の中でリア達の期待がプレッシャーに変わって行くのが解る。


(こんな場面見せられたら、どんな方法でも不恰好でもいい。絶対に負ける訳には行かない!)


 リアに対してではなく、自分自身に対して俺は誓いを立てた。


「村長、頼みがある。今から村へ入る門を閉じてくれ。俺が盗賊を殲滅するまでは村を出るのは危険だ」


「仰る通りに差せて頂きますが……この村には食料の備蓄などありませんので、長い間出入りを禁止すると餓死する者も現れるかもしれません……」


 確かに言われる通りだろう、俺もそれは考えていた。


「食料は俺が用意してやる。ただ俺が配る食料に対しての質問には答えない。いいか?」


「おぉ、食料まで用意してくださるとは。私は航太郎様を信じさせて頂きます」


 村長は深々と頭を下げている。その後、昨日泊まった空き家を俺が使う事を認めさせた。指輪の力を簡単に教える訳にも行かない。だが出し惜しみする気も無い、村人は不思議がるだろうが、俺には関係無いただそれだけだ。


 俺との話を終えた村長は、すぐさま村人を集め説明をしている。説明が終れば、村の入口は閉ざされるだろう。


 「後は時間との勝負だ!」


 何度も異世界と元の世界の往復を行なっている内に、時間がどちらも同じ様に進んでいる事は解っていた。

 異世界が夜なら、日本でも夜。日本で朝まで過ごしたら、異世界でも朝になっている。


 すぐさま空き家の中へ入ると、内側からドアに施錠をする。指輪を外し家へと舞い戻った。自分の部屋へダッシュで駆け上り財布を手に取ると、自転車で家を飛び出した。


「今の時間は10時か……十分間に合うだろう。シミュレーションは出来ている。きっとあれが在れば……」


 俺はリアとの話で、異世界には魔法やスキルが存在しない事が解っている。さらに文明の低さも見ての通りだ。 


(現在の道具が在ればどんな状況でも覆す事が出来る、それは決定事項だ!)


 ホームセンターを何度も往復し、ある道具を大量に買い込む。その後、食材を大量に販売する事で値段を下げている大型スーパーへと立ち寄り、そこで一番安いラーメンを大量に買い込んだ。

 これは村人に食べさせる食料である。料理の出来ない俺が米など持ち込んでも料理法を詳しく教える事など出来ない。なら簡単に作る事が出来るインスタントラーメンが良いと考えた訳だ。


「すいません、この店にある100円のラーメン全部買わせて下さい」


 店員は客が冗談を言っているのだろうと笑っているが、俺が再度同じ事を言った。


「全部買われるのですか?」


「数は何個ありますか? 500袋は欲しいのですが?」


 明確な個数を告げる事によって、店員も信じてくれた様だ。すぐさま在庫の確認をしに倉庫へと走っていった。

 店の在庫は600袋あり、俺は全て購入すると告げる。金額にして6万円程度だ。別室で出されたのはダンボール6箱、とてもじゃないが、自転車で運ぶ事など出来るわけが無い。

 無理を行って何とか店のトラックで運んでくれるよう頼み込み、了承を得ると家へと向って行った。

 家へ到着した数分後には軽トラックが家の前へ到着し、ダンボールを玄関へ運んでくれる。


「よし準備は整った。行動開始だ」


 俺はダンボールに身体を押し付け指輪をはめてみるが、異世界へ跳んだのは俺だけであった。


 「なんでだ? 装備は持ってこれたのに……」


 一度戻り、今度はダンボールの封を空け、一つだけ手に取り異世界へ行ってみるとラーメンも同じ様に異世界に持ってくる事が出来ていた。


「俺が持てる物しか運べないのか……手間は掛かるが仕方ない」


 台所に置いてあった買い物用のトートバックに入るだけラーメンを詰め込み何度も往復をして行く。ラーメンが終れば18リットルのポリ容器に水道水を入れ、10個運び入れた。最後はホームセンターで購入した道具だ。


 気付いた時には時間はずいぶんと経っており、持ってきた腕時計で確認すると午後2時になっている。

 空き家から出てみると村の入口の封鎖は完了していた。俺は村長の家へと向った。


「今から、村人を集めてくれ。俺が用意した食材の説明をしたい」


 「なんですと!? もう用意されたのですか? 一体どうやって……」


 「それは言うつもりも無い、そういう約束だろ?」


 村長も俺の言葉に頷き再度村人を集めた。そして村長の家にある鍋を使い皆の目の前でラーメンの作り方を説明する。

 俺が取り出したラーメンが見た事も無い物体だった為に、何人もの者が恐怖を感じて何か言っていたが、無視してそのまま調理を進めた。

 ポリ容器の水を沸騰させ、お湯にスープの素とラーメンを放り込むだけだ。だが鍋から立ち上がる香りに村人全員が空腹に腹を鳴らす。


 出来上がった、ラーメンを俺が最初に食べて見せた後、村人に少しづつ食べさせた。


 「……」 食べた全員が何も言わず呆然とし、正気に戻った後全力で、スープまで平らげている。


 村人の胃袋を掴んだと感じた俺は声を荒げ、今後の説明を始めた。


「俺が盗賊と戦闘をしている間はこの食料で食い繋げろ。この食料は村長へ全て預ける。村長は平等に分けてくれ。他の者も不平等があれば俺に言ってくるがいい。村長であっても俺が罰しよう……だが、村長の命令を聞かない者にはこの食料を食わす訳には行かない。解ったな!」


 その後、俺は村人に笑顔を向けて言い放つ。


「最後に……俺はお前達の味方だ。俺を信じて付いて来い!」


 その瞬間、村人全員が頭を垂れた。誰もが俺に付いて来てくれると態度で示してくれたのだ。

 その光景を俺は忘れないだろう。絶対にこの人達を守ってみせる。

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